ゼミ室のはじで洋子はポテトをおいしそうに食べていた。
「あの。これ」
遠慮がちにスマホは入った紙袋を差し出す。
「全部、持ってきたんだ」
洋子の声に笑いが含まれる。
洋子は同じ社会人学生である。
ともに臨床心理士を目指す仲間である。
「うん、何が必要かわからなかったから」
「本体があればいいよ」
ポテトの油で汚れた手をふきながらつぶやく。
慌てて、紙袋からスマホをと取り出す。
「ピンクにしたんだ」
パールピンクのスマホをまじまじと見つめている。
シルバーもブラックもあったのに、何も考えず買ってしまった。
普通に考えればブラックか、シルバーを買うべきだった。
「ほんと、素直だね」
その声に嫌なものは含まれていない。
「設定しようか」
洋子の声が耳の奥深くに届く。
人に甘えている実感が体中に広がる。
こんなにも人に甘えるのが心地良いことを知った。
そして、いつ拒否されるかという不安が同じように広がる。
どこまで甘えていいのかわからなくなる。
「ランチは何がいい?」
教えてもらうお礼だ。
「この程度のことでいいよ」
洋子は手をひらひらと振る。
「いや、これからも教えてもらいたから」
恐る恐る洋子の顔をのぞく。
「じゃ、ランチじゃ足りないな」
いたずらぽい声が耳に届く。
「先生」
ケンイチの声で我に返る。
「バインダーの使い方はね」
慌ててバインダを手に取る。