「ねぇ、おろしてきちゃた」
早口でカヨが言う。
その瞬間、カヨは俯いてしまう。
ずっと避妊するように言ってきたのに…。
またか。
「体は大丈夫なの?」
いらだちが伝わらないように気をつけたつもりだ。
これで3回目の堕胎だ。
カヨはハイトーンの頭の根本が黒くなってきている。
カヨは19歳。
17歳の時にクリニックにやってきた。
学校の勉強についていけないし、やる気が出ないという主訴だった。
発達検査のオーダーがありそこで出会った。
知的水準は学校にほとんど行けていないのに優秀だった。
とても周りへ気をつかう子だ。
「もう、平気。出血も止まったし」
うつむいたままぼそぼそと話す声は聞き取りにくい。
「いつ、病院に行ったの?」
「先週」
テーブルの置かれたテッシュを取りいじり始める。
1枚にしてほしいな。
心の中でつぶやく。
この部屋のテッシュは備品ではない。
この部屋で泣くことが多いので、肌に優しいカシミアテッシュを買ってきている。
何もできないから頬に触れるテッシュくらい優しいものにしたくて…。
「避妊はしなかったの?」
できるだけ感情をこめずに尋ねた。
心理室に重い空気がたちこめる。
沈黙のなか、カヨの手がテッシュケースに伸びる。