「とにかく忘れることが多くて…」

 けんいちがうつむいてしまう。

 ケンイチは24歳。

 大学卒業した社会人2年目。

 精神科クリニックにADHDの診断をうけている。

 ADHDに効くと言われているコンサータ―を服薬してるが

 変わらないからカウンセリングルームにやってきた。

 

「メモを取るようにしてますか?」

 ADHDの人への定番の質問だ。

「取ろうとしているけどそのことすら忘れてしまって」

 声が弱弱しい。

「小さいメモ帳をもっていますか?」

 小さく頭を横に振る。

「なければ買って持ち歩くようにしてください」

 語彙が強くなる。

「わかりました」

「最初はメモを取り忘れることもあると思います」

 自分のそうだった。

「はい」

「忘れてもメモを取る姿勢を周りに見せてください」

「姿勢?」

 ケンイチと目があう。

「そう、努力していていることをアピールしましょう」

 一呼吸おいて言葉をつづける。

「メモを取る習慣はすぐには身につかないけど続ければ習慣になります」

 自分がそうだったように…。

「はい」

 素直な人だ。

 

 精神科病院でうつ病専門の病棟を担当していた時のことが思い浮かぶ。