「じゃ、またお待ちしています」

  小さく頭を下げる。

 「メモ帳を買って帰ります」

  ケンイチが小さな声で言う。

  忘れることを多いケンイチにメモ帳を持つことを提案した。

 

   ケンイチは24歳。

  大学卒業した社会人2年目。

  精神科クリニックにADHDの診断をうけている。

  ADHDに効くと言われているコンサータ―を服薬してるが

  変わらないからカウンセリングルームにやってきた。

 

   ケンイチの自信なさそうに歩く背中を見送りながら10年まえのことを思い出していた。

  10年前、精神科病院うつ病専門病棟を担当していた。

  個別面接に加えていくつかのグループをやっていた。

  エンカウンターグループは人気のグループだった。

 

  毎週、行われるエンカウンターグループでは回を重ねるにつれて

  仲間意識が強くなり、メンバー同士の交流も深まってくる。

  後半になるとほとんど話すすことなく、話を聴いているだけになることが多い。

 

 「あんたはうつ病になったことがないから俺の気持ちがわからないんだ」

  強い言葉がストレートにぶつかってくる。

 「そうですか」

  動揺をばれないように慌てて返事をする。