「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」解説

 

 

完結したかに見えた「オリーブの午后」篇のまさかの続編です。
その意外なルーツ・ソングとは…!?

 

 

大滝詠一さんの「オリーブの午后」は、解説#1 「オリーブの午后」篇 の回でも述べたように、「真夏の昼の夢」をまるまるリボーンさせた曲です。
コード進行もメロディ展開も同じ…。

 

大滝詠一 「真夏の昼の夢」

 

オリーブの午后」のルーツについて「真夏の昼の夢」まで進めながら、“さらにその源流”のお話がまだでした。

 

大滝さんの発言では、ナット・キング・コールの「IN THE COOL OF THE DAY」は「真夏の昼の夢」のメロディの元ネタではなく、あくまでも曲のイメージに影響を与えている…、という趣旨でした。

 

では、メロディの源流は何処に。

 

「真夏の昼の夢」のルーツ・ソングは少し、異色です。

 

Tony Martin 「 Flamenco Love 」 (1956年)

 

これ、“他人の空似”ではないのです。
最後までよーくお聴きくださいませ。

 

たしか、かつて大滝さんは、「真夏の昼の夢」の元ネタは“ローカル・ソング”だと語っていた気がします。

ただし、大滝さんがスペインのフラメンコに造詣が深かったわけではないと思うのです。

 

大滝さん作曲の作品で、フラメンコの影響が感じられるのは、“ビックリハウス・花の編集長”の高橋章子さんが歌った「ある乙女の祈り」くらいでしょうか。

 

 

大滝さんが「Flamenco Love」にめぐり合ったきっかけとして、二つのルートが考えられると思います。
一つは『アル・カイオラ』ルート、そしてもう一つは『スナッフ・ギャレット』ルートです。
 

まずは、一つ目。

アル・カイオラは世界的に有名なギタリストです。
2016年に96歳で亡くなったときに国内でもニュースになりました。
北の空の旅人よ「さらばシベリア鉄道」の回 で取り上げた映画『荒野の七人』のテーマのギターも彼の演奏ですね。
 

エルヴィス・プレスリー、フランク・シナトラ、バディ・ホリーらの曲をはじめ、フランキー・アヴァロンの「ヴィーナス」、デル・シャノンの「ランナウェイ」、ベン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー」などナイアガラーにおなじみの超有名曲でも彼の演奏が聴けます。

 

Al Caiola 「 Flamenco Love 」 (1956年)
 

 

そして、二つ目。

こちらが有力なルートだと思われます。
前回の 解説#5 「ハートじかけのオレンジ」篇 その2 の回で、ジャン&ディーンやゲイリー・ルイス&プレイボーイズやモンキーズを“育てた”プロデューサーとしてクローズアップされたスナッフ・ギャレット。
 

1977年の7月4日放送の「ゴー!ゴー!ナイアガラ」は「スナッフ・ギャレットのリバティ・サウンド特集」が組まれました。

 

そこで流れたのは、いかにも大滝さんが大好きそうなキャッチーなナンバー。
大滝さんは、徹底的にスナッフ・ギャレットの仕事ぶりをフォローしていた可能性があります。

 

The 50 Guitars of Tommy Garrett 「 FLAMENCO LOVE 」 (1963年) 

 

スナッフ・ギャレットというのはそもそも、無煙たばこのスナッフ社の嗅ぎたばこのブランド“ギャレット”にちなんだニックネームであり、本名を用いて『 Tommy "Snuff" Garrett 』などと表記されることもあるのですね。
 

バディ・ホリーとも深い親交のあったスナッフ・ギャレットは、1958年から1966年までロサンゼルスのリバティレコードに籍を置き、'60年代初頭にはボビー・ヴィーなどで大ヒットを飛ばしました。
 

フィル・スペクターをリバティのニューヨーク部門のA&Rとして雇い入れたのも彼で、スペクターはスナッフ・ギャレットに一目置いていました。
 

スナッフ・ギャレットはアイデアマンとしての手腕も発揮し、50本のギター・オーケストラで名曲をカヴァーするという独自企画を打ち立て、これが長期に渡る人気シリーズへと発展しました。

「 FLAMENCO LOVE 」はそのシリーズ前期のアルバム「マリア・エレーナ」に収録されました。
 

同シリーズは長くCD化されていなかったのですが、CDのベスト盤2枚に編集されて近年リリースされています。

スナッフ・ギャレットのファンになった方(いますか?)は、お手元にいかがでしょうか(笑)。
大滝さんもこの50本のギター・オーケストラのアイデアは真似したかったのかもしれませんが、いかんせん、そんな編曲をこなせるアレンジャーが容易には見つからなかったのでしょう。

 

実は、この「 FLAMENCO LOVE 」に似ている曲があるのです。
それが、ニール・セダカの「涙の小径」です。

 

ニール・セダカ 「涙の小径 (The World Through A Tear)」 (1966年)

 

日本では同じ年に、ダニー飯田とパラダイス・キングも日本語でカヴァーしていました()。

 

ニール・セダカの「涙の小径」の動画の0:230:29の箇所、すなわち「真夏の昼の夢」の

♪ ぼーくはー深いねむーりにー

の部分にあたるコードやメロディの展開が、「 FLAMENCO LOVE 」に似ていると思いきや、そもそも、曲構成や出だしメロディ展開など全体が「 FLAMENCO LOVE 」に似ていますね。

 

ダニー飯田とパラダイス・キングについては、 イスタンブール・マンボの大河ドラマ的ストーリーの回 をご覧ください。

 

大滝さんも、きっとそのことには気づいていたでしょう。

 

「真夏の昼の夢」の元ネタはニール・セダカだ…、という指摘がされたときに、「え、それだけ? その元の曲は?」なーんて、大滝さんは、トボけてみせるのかもしれません…。

 

 

さて。
今回のお話は、当初は「ハートじかけのオレンジ」篇の第4章あたりにまとめようと思っていましたが、縁あって「オリーブの午后」の続編としてのお披露目になりました。

 

そういえば、前回の「ハートじかけオレンジ」篇の第3章をまとめていて、思い出したことがあるのです。
それは、未完に終わった『大瀧詠一のアメリカンポップス伝』の“続き”にかかわる内容で…。


次回の「白い港」完結篇をお届けした後に、あらためて「ハートじかけのオレンジ」完結篇でその内容にもふれたいと思います。

 

今回も、ご精読いただき、ありがとうございました。