長かった梅雨が明け、いよいよ夏本番ですね。
暑いこの時期になると思い出す、夫の飼っていた犬にまつわる少し不思議なお話をひとつ…。


夫は猫は嫌いですが(あくまで自称(詐称?))、犬のことは好きで、私と結婚した頃も雑種の犬を一匹飼っていました。
中型犬の体長ながらやや小ぶりで細身、茶+こげ茶の雄。
夫が結婚とともに家を出たため、義父母がその世話を引き継ぎ、子供のように可愛がっていました。
性格は男の子らしく無愛想ではありましたが、病気がちなお義父さんと散歩に行くときには強く引っ張ったりせずそーっと歩くような、やさしく賢い子でした。
家族にも、子犬の頃から知るご近所の方にも、とても愛され可愛がられていたと思います。


さて、何年もの年月を家族としてともに過ごしたあと、その彼がとうとう最期を迎えたときのことです。
いよいよとの報せを受けた私たちは急いで実家へ。
すでに横たわって苦しい息をつくだけになっていた彼は、それでも夫が入ってくると頭をもたげてじーっ…とその姿を目で追い、5分後、深い眠りに入りました。
まるで夫が帰ってくるのを待っていたかのようでした。


そして数時間後、彼は静かに息を引き取ります。
苦しみのない、穏やかな死でした。
それでも義父母、夫の悲しむこと…!
ただただ皆、涙にかきくれる中、彼の身体をきれいにし、箱に納めてとりあえずお通夜の体裁を整えました。
夫は夜通し付いているつもりで彼の傍へ、私はそのまま階上へ。
と、1時間ほどしか経っていないのに、夫が上がってきたのです。
どうしたのか尋ねると、「もう必要ないから」と言います。
なんでも、彼の身体から魂が抜けるのが見えたのだとか。
魂らしきものはしばらくその場にたゆたい、やがてすっと立ち昇って消えたといいます。
「だからあいつもうあそこには居れへんねん」、そう言って夫は寝てしまいました。
私はといえば狐につままれたような感じでしたが、それでも夫の悲しみが落ち着いたらしいことに安心しました。
夫は、時々"そういうもの"が見える人です。


夜が明けて、次の日。
やや気持ちも落ち着いて、どこで火葬してもらうか話し合っているところに、報せを聞いたご近所の方が、その朝にお庭で咲いたお花を持ってきてくださいました。
それは、大きな一輪のカサブランカ。
男の子には艶やかすぎるお花かな?と思いつつ有難く一緒に箱に納めさせてもらうと、これがなんとも似つかわしい。

彼の毛のこげ茶色とみずみずしい花の白との対比が美しかったし、なによりもその清らかな姿が、愛情ややさしさなど彼の生涯にあったすべての美しいものをあらわしているようで、彼の最期にこの上なくふさわしい花だと思えました。
こうして彼は、私たちのいっぱいの愛情とカサブランカとともに旅立っていきました。


そして、1年後。
いつものように実家を訪れると、彼の写真の前に、あのときと同じような大きなカサブランカが一輪、飾ってある。
ああ、あの花を思い出してお義母さん供えられたんだな…と思っていると、どうやらそうではないらしい。
なんと、向かいの家の前に生えていた、というのです。
妙なのは、その"向かいの家"というのが何年ものあいだ空き家で、誰も花を植えたりする人がいないということ。
もちろんそんなところにカサブランカのような目立つ花が咲いていたこともそれまでありません。
お義母さんも不思議に思ってそれとなくご近所に確かめてみたそうなのですが、誰かが植えたという話もなく、その花がどこから来たのか皆目わからないのです。

もちろん誰かがそこに球根を捨てた、ということも考えられますが、それもまたすごい偶然です。
極めつきは、そのカサブランカの咲いていた場所が、彼が散歩に出た時まず真っ先ににおいを確かめに行く、お気に入りの場所だったということ。

(咲いたのもちょうど命日の日だった、と聞いた気もするのだけれど、こちらはちょっと定かじゃない💦 その頃であるには違いありません)
こうなるともう、"彼が咲かせた"としか思えない。
「◯◯ちゃん(彼の名)、よっぽどあのお花入れてもらったの嬉しかったんやねぇ…」
と、皆でしみじみ顔を見合わせました。


そして、このお話にはちょっと私だけの後日談が。
この、実家行きから帰って翌日かそこらの間もない頃。
あるご近所の方に出会って、少し立ち話をしました。
この方は、彼が亡くなった日、私たちが駆けつけようと車に乗り込む直前に行きあった方。
ご自身が犬を飼われていることもあり、その時もやさしい言葉をかけてくださいました。
なのでもうあれから1年経つこと、いまは実家も落ち着いていることなどをお話しました。
(カサブランカのことは説明しにくいので話しませんでした(^^;)
そうしてご挨拶して家に入ったときのことです。
玄関の扉が閉まった途端、濃厚な香りが私の身体を包み込みました。
さまざまな花の匂いが混じり合ったような、強く甘い香り。
それは、5秒、10秒…短いようで案外長い時間香ったあと、現れた時と同じく唐突に消えました。
玄関に(そもそも家の中に)芳香剤の類は無し、帰ったばかりなので窓も開いていない。
何の匂いだったのか…"漂ってきた"というよりは、いきなり体を取り巻いてそのまま消えた感じでした。
"気のせい"と言ってしまえばそれまでですが、それにしてはこれまで嗅いだことのない匂いだったのです…天国には無数の色とりどりの花が咲くというけれど、そうした花の香りが一気に押し寄せたみたいな。
一瞬、"ああ、彼はそういう場所に居るのかな"という思いがよぎりました。


カサブランカも甘い香りも、しようと思えばいくらでももっともな説明はできると思う。
だけど     
やっぱりあれは彼からのサインだったのじゃないだろうか。
彼は嬉しかったのじゃないか。
美しいカサブランカをもらったことが。
持ってきてくださったご近所の方の、その気持ちが。
みなに愛されたということが。
そして時が経っても懐かしく思い出されるということが。
その彼の嬉しい気持ちが、ちょっとした不思議となって現れたんじゃないだろうか。


犬や猫を擬人化して語ることには否定的な意見も多く、お説ごもっとも、彼らの"気持ち"について語るなど非科学的なこと極まりないとは思うけれど     
それでも彼らには、人間よりははるかにシンプルとはいえ感情も愛情もあり、さらにいえば魂もあって、肉体から離れた後も繋がりのあった人たちを想っているのじゃないか、そして場合によってはその気持ちをサインとして送るということもあるのでは     と、思ったりもするのです…


例のカサブランカは、お義母さんが鉢に植え替えて(お向かいの敷地の外だったので)、その後も毎年咲き続けています。
今年も大きな花をつけたのを、先日夫が写真に撮ってきました。
その写真を見ると、花弁の上に、小さな雨ガエルが一匹。
カエルや蝶などの小さな生き物には亡くなった魂が宿ることがある、というような話もありますが…
もしかすると、これも彼の仮の姿でしょうか(*^_^*)


亡くなった人はあの世から親しかった人たちのことを想っている、とよく言われるけど…
動物だって、きっとあちらから、飼い主やその家族のことを想っている。

ただもうシンプルな愛情をもって。

そしてもしかしたら、ほんのちょっとしたことでも意外なほど無邪気に喜んでいたりするのかも…

そんな風に思える、ちょっと不思議な出来事です。