※これは「十九歳の…それから」という一連の記事の5番目です。

最初はこちらです

 

 

 その日、友人Sと年越しの彼女はアポ無しで来てくれたので俺にとっては完全に不意打ちだった。髪はボサボサどころか天然パーマなので爆発状態だったし、上半身裸で筋肉も落ちていてガリガリだった。本当に、あの朝バスを見送りながら一年後こんな形で再会するとは思いもしなかった。そして、ドキン!は仕方ないけど、ズキン…としたのは意外だった。


 病室はいつも温度が一定に保たれ寒くは無かったから俺はいつも通り上半身を少し起こした姿勢で彼らを迎えた。
友人Sは、自分から話をする男では無いし気の利いたことも云えないタイプで俺はそこが好きなのだが、やつは通常運転の所在なさげで椅子に着いても落ち着けない様子だった。こいつもしかして彼女とふたりでいることに照れてるんじゃないか、とも思った。みんな同じ高校時代からの小説サークル仲間で、以前からSはあえて彼女を意識しないように務めている節があったのだ。

 そんなだから殆ど彼女と俺の会話の体で、Sは時々茶々を入れてくれる程度で始終ニヤニヤしていた。"なんだこいつ…"と可笑しかった。
 これはだいぶ後で思ったことだが、やつはやつ自身のために、彼女と俺をくっつけたがっていたようだった。しかしこの時の俺はそこまで気づけないで変なヤツとしか思ってなかった。
 

 とりあえず上半身裸の俺をみて彼らは、「なんで裸なのか」、「下はどうなってる」と訊き、俺は「右の胸に管が入っててここの機械に繋がってる」、「四六時中全裸だ」と答え、「何かエローい」と彼女が笑いSは驚嘆の表情を浮かべ俺は苦笑いした。その後は、一年前の話などお互い出来る訳も無く、何となく気まずい想いの俺とは違って、彼女はやたら明るく微笑んでいた。女の子って分からないな、と凄く思った。
 

 彼らが見舞いに来てくれた1月下旬の午後は、グレーがかったバニラスカイで窓の外も明るく、俺は暖かい病室に友人らといるのに不意にどうしようもなく悲しい気持ちに沈みそうになっていた。そんな俺の表情を読み取ってか、体調を気遣ってくれる彼らに申し訳なく思いながら外を見やると空から白い羽根のような雪がゆっくりと降りてきた。
 

 「もう帰った方がいい」と俺に促され、何度も手を上げてくれながら彼らは出て行った。無菌温室のような白一色の病室は俺と雪だけになった。この後しばらくして内科治療がいっこうに成果を見せないため外科に移され7時間の手術を受けることになる。


(づづく)
※今回、当時を思い出していてちょっとつらくなった。季節が近いせいなのか、忘れてた想いや感情まで掘り起こされちゃって…。(笑)  
※また思いの外長くなっているので、次から端折りまーす。