本年度、オスカー2部門受賞作品クラッカー

今年最大の問題作

第2次世界大戦下のアウシュビッツ強制収容所所長と

その家族を描いたマーティン・エイミスの小説を原案にした歴史ドラマ。

 

 

2024年

ナチスドイツ占領下にあった1945年のポーランド。アウシュビッツ強制収容所で所長を務めるルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)と妻のヘドウィグ(ザンドラ・ヒュラー)は、収容所と壁を隔てたすぐ隣の家で暮らしていた。収容所からの音や立ち上る煙などが間近にありながら、一家は満ち足りた日常を送っていた。

シネマトゥデイより

 

「The Zone of Interest」

関心領域とは、

収容所を取り囲む40平方キロメートルの地域をナチスが名付けたそうです。

 

冒頭から気味の悪い音楽が大音量で流れます。

ホラー映画??

暗闇が続き、鳥のさえずりが聞こえ、やっと画面が明るくなります。

アウシュビッツの空は青く、周辺の緑も豊か。

どこにでもあるポーランドの田舎風景。

 

ヘスは大勢のユダヤ人をガス虐殺したアウシュビッツの所長。

ナチスの一員としての能力は高く評価されていました。

 

所長である彼の一家の家は収容所を壁ひとつ隔てた向こう。

5人の子供、使用人たち、素敵な庭。そして家族に優しい夫。

豊かさの象徴。妻にとっては人生の楽園です。

 

でも塀の向こうからは叫び声、銃声、何かを燃やしている煙も見えます。

妻は向こう側の事は何も知らない?

いえいえ、彼女はユダヤ人たちから搾取した洋服や宝石を手にしていました。

声や煙の臭いも気が付かないわけがありません。

それでも今の理想の暮らしは絶対手放したくないのです。

 

妻は隣で行われていることに無関心を装い、

また無神経な女性でした。

自身の欲望のためには周りの事は考えない。

隣の様子は、見ざる聞かざる言わざるです。ダウン

 

彼女の母親がご機嫌で滞在したものの、

隣の収容所の様子に気づき、ほうほうのていで帰ってしまったのに、

それさえ「あっ、そう?」という顔。

 

特に印象的だったのが、

夫の転勤が決まったのに、

妻はこの理想の家から引っ越したくないと言うのです。

こちらは天国、でも塀の向こうは地獄。

どういう神経なのか爆弾

 

途中、サーモグラフィーを使った幻想的な夜のシーンが出て来ます。

近所に住むポーランドの少女が収容所近くに食べ物を置いていきます。

日常的に行っていたこの行為、

この少女は実在するモデルがいるそうです。

この少女が、映画の中ではヘスの妻との対照的な存在でしょう。

 

妻役のサンドラ・ヒュラーはドイツを代表する女優の一人。

ヘス役のフルーデル氏は私は映画では観たことが無いのですが、

ドラマ「バビロン・ベルリン」に出演していたのを思い出しました。

 

ヘス一家の肖像は残っているそうです。

また、最後に現在のシーンがありますが、

作品中で見覚えのある場所も見えます。

 

ご存じのように終戦後ヘスは絞首刑。

作品に登場した家族はどうなったのか気になりましたが、

9年ほど前のヘスの娘さんのインタビューを読みました。

妻、そして5人の子供たちのその後の人生が分かります。

 

実在した塀の中と外の違い。

外の楽園での裕福な家族の生活。

ホロコースト自体が描かれているわけでは無いけれど、

恐ろしい内容には間違いないと思いました。