次男は幼稚園内で何人かの仲良しのお友達ができたらしい。
その仲良しの子のうちのひとりは、家が近所のため毎日のように顔を合わせていた。
子供たちはお互いに、「幼稚園以外でもあそぼう!」「公園にいきたい!」と言い合っていた。
わたしは子供たちがそうして盛り上がるたび、「少しだけ公園に行きませんか?」と相手のママさんに声をかけた。
ママさんはニッコリ微笑み、「そうですねー、また今度」と返す。
早く帰りたいのかな、とか用事があるのかな、などいろいろと考える。
ひとはひと。
事情はあるだろうな。とそう思っていた。
が、相手の子はなかなか帰ろうとせず、車も自転車も往来する場で次男と追いかけっこを始める。
ママさんは、自転車にまたがったまま、「危ないよー」といい、スマホに目を落とす。
わたしだけ、逃げ惑う2人の子供たちを制止しようと注意したり、飛び出そうとするのを止める。
「やっぱり、ここでは危ないんで…近くの公園に移動しませんか?」
もう一度聞いた。
ママさんは、ニッコリ微笑んで「あ、でももう帰るんで…」と言った。
わたしは相手の子に、「帰るみたいだよー」と声をかけた。
相手の子は、「まだ次男くんと遊ぶから帰らないよー!」と走って逃げて行った。
徒歩一分くらいのところに公園がある。
自転車や車を気にせず、少しだけ思い切り走らせてあげたら納得するんじゃないだろうか?と思ったが、相手のママさんは「公園は、大丈夫です(行かないの意)」と首を縦にふることは一度もなかった。
そんな日が卒園するまで連日のように続いた。
わたしは、どうすればよかったのだろうか。
個人的に誘われることが嫌だったのだろうか。
そのママさんも含めたグループLINEがある。
そこでは、「みんなで公園に行きませんか」と呼びかけがあると、「楽しみですね」と公園にくることもあるし、「○日なら行けます」と返事が来て、グループで公園遊びをすることはあった。
特に何か特別なことをしたわけではないが、わたしが嫌われていたのだろう。
プライベートで関わったこともない。
その子がどこに住んでいるかすらも詳しく聞いたこともない。
ほんの少しの時間、公園に行ったこともない。
お天気と園の行事について少し会話したくらいしかない。それも答えは全て「わからないです」だったけど。
嫌われる要素があるのかすらわからないが、恐らくわたしは嫌われていたのだろう。
普段からそんな感じだったので、自分から話しることは憚られた。
目が合えば会釈と挨拶くらいはしよう、と決めていたが、その後の園の行事で会った時、目すら合わなかった。
わたしが勝手に一方的に挨拶をし、話しかけていただけだったのだろう。
ママさんにはパパさんもついていたから、ずっと2人で会話をしていたし、わざわざその会話に割り込んで会話することも思いつかなかった。
何か次男が危害を加えたことがあるのではないか、と思ったこともあるが、逆に怪我をさせられて大きな病院で検査をしに行ったことがある。
次男はその後遺症で園を休んだり、早退したり、楽しみにしていた行事に参加できなくなって悔しくて泣いた。
相手からは、特にキチンとした謝罪などはなかった。
「子供が幼稚園でしたことなんで知らなくてすみません」と言われたくらい。
それでも、子供同士が変わらず仲良く過ごしているならそれでいいと思っていた。
次男にはほかにも仲良くしてくれているお友達がいて、その子たちから写真を撮ろう!と誘われたり、プレゼントをもらったり、ほかのママさんたちと連絡先を交換していたらあっという間に帰らなければならない時間になった。
嫌われている?ママさんから話しかけられることもなかったし、わたしも話しかけなかったら、会話をすることもなくおわった。
そんなこと、よくあることだとは思う。
事実、またあとで話そう!と言っていたけど、お互いなんやかんや忙しく会話せずに帰ってしまうなんて、その人だけではなかった。
でも、その様子をみていた夫は、「嫌われているかどうかはわからないけど、仲良くなろう、とは思われていないのは明らかだよね」と言った。
「途中、隣にいたの、知ってる?」と言われたが、わたしは気づいていなかったし、向こうはちらりとこっちをみていたが声をかけてこなかった、と言った。
夫は「よく分からないけど、3年間子供同士は仲良くしていたけど、一度も公園にすら行ったこともない家だから、ウチとは積極的に仲良くなろうという考えはないと思うよ」と言った。
「全員と仲良くなれるなんて、ないんだしさ。」と締めくくった。
わかってる。
でも、そのママさんも含めたグループLINEが存在し、稼働している。
こんな気まずい関係のグループLINE、ある?
正直言うと、このグループLINEは退出したい…
子供は遊びたい、一緒にお昼を食べに行きたい、と子供だけで日にちや場所を約束してくる。
「どうですか?」と聞く。
断られる。
この繰り返しを年単位でしていたら、どれだけ鈍い人だって分かると思う。
仲良くなりたいとは思っていないのだ、ということが。
本当に申し訳ないが、「なんで遊べないの?」「いつなら遊べるの?」と聞いてくる次男に、「あの子と公園に行くことは諦めて、ほかの子をさそってほしい」と言った。
次男は早々に諦めて、ほかの子と公園に行くようになった。
その流れで、園内で相手の子に「最近、みんなで公園ないって遊んでて楽しいんだ!○○もおいでよ!」と声をかけたらしい。
が、相手の子は、「次男くんとは、遊ばないから」と返してきた、と悲しそうに言った。
何回誘っても、「次男くんとは遊ばない」としか言わなくなった。
幼稚園内だと、絡んでくることもあるが、「一緒に遊ぼう!」っていうと「次男くんとは遊ばない」と返すらしかった。
卒園が迫り、もう少しの間しか、幼稚園のお友達と遊べなくなるから、お友達を誘って遊ぶ約束しておいで!と声をかけた。
次男は、「ぼくが誘っても、たぶんみんないいよ、って言わないよ、きっと」と言った。
なんでそう思うの?と尋ねると、「だって○○が、次男くんとは遊ばないっていうから、もしかしたらほかの子もぼくとは遊ばないって思ってらかもしれない」と言った。
もう、こういうやりとりになってくると、相手の子に配慮する言い方がわからなくなる。
○○は次男と遊ばないと言っているんだよね?
「うん」
幼稚園のなかでは遊ぶことはあるんだよね?
「うん。
向こうから近づいてくるから、そういう時は遊ぶこともあるよ。
でも、ぼくが遊ぼうっていうと、次男くんとは遊ばないよっていなくなっちゃう」
そういうとき、次男はどういう気持ちだった?
「向こうから遊ぼうっていう時は遊ぶのに、ぼくが声をかけると遊ばないよっていう意味がわからない、なんでだろうって思うよ
なんで遊ばないの?って聞いても遊ばないから!って言いながら走って逃げていっちゃうから理由もわからない。
すごく悲しい気持ちになる」
そうだよね。
どうしたらいいかわからないよね。
でも、次男にはほかにも遊んでくれるお友達がいるから、その子たちに声をかけてみようよ。
次男が1番仲良くしているのは、確か○○じゃなくてほかの子だったよね
「うん。
△ちゃんと○くんと、○○くんと、△△くんと−…」
遊ぼうって言って遊べそうな子はその中にいないかな?
「いま言ったひとたちは、みんないつも優しくて、いつでも遊んでくれるよ。
その子たちに遊ぼうって言ってみるね!」
そんな会話をして、幼稚園に送り出し、無事ほかの子たちと公園に行ったり、春休みに遊ぶ約束を取り付けることができた。
申し訳ないが、どうしても、「ほかの子に遊ぼうって言ってみよう」以外の言葉が出てこなかった。
約束できたひとたちは、「2人で遊んでもいいし、みんなで遊んでもいいね!」と言ってくださった。
ほかにも誘えそうなひとがいたら誘ってみよう、と言われたが、わたしは○○さんを誘ってみよう、とは思わなかった。
わたしが誘っても、きっと無理だろうなと思った。
わたしは、親同士の仲が特別良くなくても、子供同士が仲がよければありがたいと思って、子供同士が遊べるように当たり障りのない表面的なふつうの会話がふつうにできるように頑張ろうと思う。
相手に失礼のないように。
いつも遊んでくれてありがとうございます。
いつも仲良くしてくれてありがとうございます。
おかげでうちの子が楽しく通う気持ちになれて、親としてあなたのお子さんに感謝しています。
本心からそう思うので、そう伝える。
相手から、「公園などでまた遊びませんか?」と
誘ってもらったり、誘ったりするのも当たり前の流れだ。
誘われたら、○日は無理ですが、この日ならどうですか?と何日か候補日を伝え、遊んでもらえるように調整する。
そうして遊ぶ約束を取り付けることで、子供同士がより仲良くなれたり、親同士もすこしくだけた付き合いができるようになっていくものだと思う。
わたしは、○○さんとは仲良くなれそうな雰囲気を感じることは一度もなかった。
それどころか、鉄壁の守りみたいなものを感じた。
この歳になると「仲良くなりたくない」という雰囲気も多少、察することができるようになる。
多く関わらず、それなりに。
が、そうしたら挨拶すらされなくなった。
もしかしたらわたしが挨拶をすることすら、不快に思われていたかもしれない。
そう思うと、いままで会えば子供同士が絡んでいた事実も、わたしが行事のことで聞いたりしていたことも、煩わしかったのもしれない。
申し訳ない。
こうして、人と距離をとることもマイナスなだけではないことは伝わったらいいなと思う。
長男に、「もし、相手から好かれていないな、と思ったらどうする?」と興味本位で聞いてみた。
長男は、「仲良くなりたいと思われてないから、自分なら自分から特に何か行動することはしないよ。
クラスが一緒だったら、クラスの中での係活動とか、やらなきゃいけないときは、やらなきゃいけないことは一緒にやるけどそれ以外に会話したり何かしよう、とは思わないよ」と言った。
わたしが思ってるより大人な回答が返ってきて、すこし安心した。
人間関係で悩むこともあると思うけど、自分を認めてくれる、好意を持ってくれる相手を、自分も選ぶ権利があると思ってくれていることにひとまず安堵した。
「自分だって、仲良くなりたい相手を選んでもいいし、向こうだっておなじだもんね」
精神的な面がこの一年でぐっと成長したと感じる長男。
また少し、大人に近づいたんだなぁ、なんて思ってじんわり嬉しくなった。