「おかーさんイラッ

こっちの部屋でゲームしていい?イラッ


わたしのいる部屋に来て次男が言った。

我が家のSwitchは2台。

子供たちの持ち物ではなく、わたしと夫のゲーム機を子供たちに貸しているというカタチをとっている。(と言っても、昼間は子供たちが子供たちの専用アカウントで遊んでいるので実質ほぼ子供の専用機のようになっている)


いいけど、どうしたの?


わたしがそう尋ねたのには理由がある。

声を荒げたりイライラした雰囲気を出さない次男からほんのり怒りの感情が見えたからだ。


「長男くんと、ちょっとケンカしてる。

だって、ぼくのプレイにごちゃごちゃごちゃごちゃめーーっちゃうるさいんだよイラッ

と次男が言った。


そっか。

それで同じ部屋でゲームしたくなくなっちゃったんだね。

こっちの部屋で遊べばいいよ。


わたしはそう言ってこの部屋で遊べるように設定してやる。

普段はディスプレイ画面を2つ並べて2人で横に並んで遊んでいるのだが、細かいことが気になってしまいがちな長男が次男のことを恐ろしく細かく指摘しまくり、次男が集中して遊べないことがあった。

なにも言わない次男が深く深くため息をつき、そっとゲーム画面を閉じる様子を見ていてかわいそうに思い、どうしても無理なときは別部屋でもプレイできるように環境を整えた、という経緯がある。


多動の要素があるからなのか、長男はやたらと人のことを気にしてしまうことがある。

次男とは違うゲームで遊んでいても、次男のプレイが気になってしまう。

チーム戦では味方の動きや全体を把握しつつ、相手の動きを先読みして作戦を立てているので、ゲーム内マルチタスクは得意なようだが、長男が苦手とするのがリアルな世界での生き方なのだと思う。




「お母さん、別の部屋でできるようにしてくれてありがとうね」と次男はお礼だけ言い、長男に対する愚痴をこぼすことなくゲームを始めた。

次男は、年長と思えないほど大人びた行動をとる。


しばらく、野良パーティに入りプレイをしていた。

次男が好きなゲームは、プレイヤースキルのみが求められるゲームだ。

レベルも装備もなにもない。ただ、自分のゲームセンスやテクニックがものをいうゲーム。

正解も、セオリーのなにもない。

ただ、プレイが上手い人だけが生き残り、最後の1人になることを目標にする。

長男と次男の2人でプレイすると、そこそこ良い記録を出すことができる可能性が高く、たびたびラストワンに残ることができるようだ。


しばらく4人チームで黙々とゲームをしていた次男だが、ふと見ると2人組でマッチングを開始していた。


2人組にしたの?と声をかけると、

「うん。なぜか長男くんがぼくにパーティ申請してきたから承認したんだよ。

そしたら準備OKってしてきたから、2人で行くことになったんだ」と言った。


同じ家にいるのに別の部屋で2人プレイを始めた子供たちを見て、面白いことをしてるな、と思った。

結果は16位だった。


次男は無言でゲーム機の本体とコントローラーを持つと、

「別の部屋でやってるといろいろめんどくさいから、戻るね」と言って去っていった。



夕飯の時間になり長男に先ほどのゲームについて話を聞くと、

「ぼくが悪いことしたなー、と思ったから、ごめんね。って、気持ちで次男くんをパーティに誘ったんだよ。

そしたら次男くんもOKしてくれて、ゲームのプレイでごめんね、って気持ちを表現したら、次男くんが戻ってきてくれたんだよね。

次男くんなら、ぼくのプレイで気持ちが伝わると思ったんだ」と長男が言った。

「うん。

最初はどういうつもりなんだろう?って思ったけど、一緒にプレイしてたら、あ、これはごめんねって意味なんだろうなって思ったんだよね。

ごめんねって思ってくれてるなら、一緒の部屋で戦うほうがやりやすいから長男くんの部屋に戻ることにしたんだ」と次男が答えた。


そして、「さっきはごめんね」と長男が言うと、次男が「わかってくれたんならいいよ」と言った。


次男が、長男という人間の性質を深く理解してくれているから成立する関係だな、と思った。

次男が、泣いて怒ったり騒いだりすることなく、冷静に対応してくれているからこそ、長男も頭が冷え、自ら反省することができる。

こうした自発的に考え、動けるような関係になるまでにはたくさん話を聞き、子供それぞれの性格に合わせた話をたくさんしてきたつもりだ。

長男はまだまだ発展途上な部分があるが、それでもこうして自らを省みることができるようになってきたことに、心から成長を感じる。


時々、音楽には音楽で応える、みたいな情熱的なエピソードを聞くことがあったが、子供たちにとってそれがゲームだったらしい。

自分の手足のようにキャラクターを動かし、それぞれのゲームの世界観を存分に楽しんでいる子供たち。

得意なことはゲームでもいい。

これが好きなんだ!得意なんだ!と声を大にして叫べる、そんなふうに自信を持って取り組めることがなんでもいいからひとつでもあればいい。

そう願って子育てに関わってきたが、その片鱗が見えた気がした。