イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への昨年10月以来の攻撃を巡っては、米国の大学などで抗議デモが行われ、逮捕者数は2000人を超えた。中でも、ミズーリ州のワシントン大学でデモに参加していた、大統領候補であるアメリカ緑の党のジル・スタイン党首は警官への暴行容疑で逮捕された。スタイン氏は警察に一時拘束されたが、7時間後に釈放された、とUSAトゥデイは報じた。

 

 イスラエルのガザ地区攻撃に対しては世界で各方面から停戦を求める動きが見られる。バイデン米大統領やブリンケン米国務長官らは、イスラエルに抑制を促している。しかし、議会からウクライナと合わせてさらに20億ドルの支援を確保しており、ほぼ無条件にイスラエルを支援する姿勢を実質的に変えていない。

 

 

 ウクライナ・ロシア戦争とイスラエルのガザ地区攻撃に共通しているのは、いずれも米国の資金および武力面の支援なしには継続できない状況にあることだ。ウクライナを巡っては、バイデン氏が支援を継続する意向を示すものの、ロシアとの戦況は極めて厳しく、支援の継続はその勢いを失っている。皮肉なことに、パレスチナの武装組織ハマスによる昨年10月7日のイスラエル攻撃は、メディアが焦点をウクライナからイスラエルへとシフトする上で格好のストーリーとなった。

 

 その後のイスラエルのガザ地域への対応、攻撃が飢餓や数万人の死者、インフラの壊滅的な破壊につながっていることが、抗議活動を招いている。こうした状況の中、国連総会での今月のパレスチナ加盟を巡る決議では圧倒的過半数の国が賛成した。反対票を投じた米国が国連安保理の常任理事国であるためにこの決議が実質的な効果をもたらす可能性は極めて低い。それでもアイルランド、スペイン、ノルウェーはここにきてパレスチナ国家承認を表明しており、これは米国などが支持するパレスチナとの二国家共存案にイスラエルが同意する見通しが立たないことへの失望感を反映するものでもある。

 

 

 米国とイスラエルの関係を見る上で重要なのは「イスラエル・ロビー」の存在だ。1970年代に米議会で中東紛争を巡るイスラエルへの支持を取り付けるために重大な影響力を発揮するなど、長年に渡り唯一無二の存在となっているイスラエル・ロビーは、その意にかなわないことが政治生命を脅かすとの恐れが政界全体に浸透するまでになっているようだ。

 

 今年行われる米大統領選についてイスラエルに関する姿勢を候補別に見てみよう。バイデン、トランプ両氏がそれぞれ率いる民主、共和の二大政党は、いずれも引き続きほぼ無条件でイスラエルを支持するだろう。影響力はこれだけにとどまらない。

 

 当初は民主党からの出馬を目指したもののこれを断念して無所属となったロバート・ケネディ・ジュニア氏も、ガザ地区でのジェノサイドを否定するなどかなりイスラエル寄りの姿勢を示している。ウクライナや医療制度など大半のアジェンダについては二大政党が提示していない対応を表明していることから、調査によっては70%前後にのぼる既存の二大政党を支持していない有権者に、異なる選択肢を提供しうるという希望をもたらしているケネディ氏だが、米国におけるイスラエル・ロビーの圧倒的な影響力を象徴する存在となった感もある。

 

 

 結果的に、今年の米大統領選で反戦を唱える候補を選ぶとすると、緑の党のスタイン氏以外には見当たらない。この点では、主要メディアへのエクスポージャーでは他候補に及ばないスタイン氏が、既存二大政党によるこれまでの政権運営に不満を持つ層から注目を浴びる存在となる可能性はある。

 

 米国政治において他に類をみないほどの影響力を持つイスラエル・ロビーだが、米国の利益にかなうかどうかについては議論の余地がある。米国は、イスラエルのガザ地区攻撃以降の国連決議において同盟国を含む多くの国が同調しない状況に陥っているが、これはここ数十年来見られなかったような現象だ。モラルの面でも、昨年10月以降のガザ地区での死者の過半数が女性や未成年であるにもかかわらずジェノサイドを否定することが世界の権威としての座を揺るがしている。

 

 

 さらには、イスラエル・ロビーがイスラエルやユダヤ人の利益にかなうのかさえも疑問だ。イスラエルのネタニエフ首相には極右勢力と組むことで政権に返り咲いた経緯があり、政権維持を目指すための司法改革については国内で大きな反発に直面している。このためネタニエフ政権の足元は盤石ではないが、こうした攻撃の継続が政権維持につながるとの見方を取ることもできよう。しかし戦闘が中東各地やそれ以上に拡大することも懸念されている。

 

 米国では、イスラエルに対する批判を反ユダヤ(反セミティズム)として禁止することを盛り込んだ法案が下院を通過した。イスラエルに対するあらゆる批判に反ユダヤというレッテルが貼られる最近の傾向を踏まえると、今やロビーを最も批判できるのはイスラエルに批判的なユダヤ人のみとなっている感もある。これらの人々さえも陰謀論者と位置付けられたり、レッテルの対象になったりしている。

 

 

 イスラエルのガザ地区でのジェノサイドを否定するバイデン政権だが、ここに来て武器供給の中断など無条件の支援からは一歩後退したように見受けられるのは、果たして大統領選における低支持への焦りを象徴するものだろうか。2020年には大統領選に「ネバ―トランプ」をスローガンをもって臨み、限られたメディアエクスポージャーをもって制したバイデン氏は、今回はトランプ前大統領が優勢となっているためか、ここにきて討論会に臨む方針に切り替えた。このため大統領候補の討論会を巡っては、焦点は無所属ながら10%台半ばの支持を得ているケネディ氏が参加するかへと移っている。