イスラエル軍の侵攻によるパレスチナ自治区ガザ地区での犠牲者は2万人を超えた。国連安全保障理事会は先週、ガザへの人道支援の拡大を求める決議を賛成多数で可決した。ただ、米国の求めにより戦闘の即時停止に関する文言は削除された。イスラエル側は戦闘継続を表明しており、法的拘束力を伴わないこの決議の実効性が懸念されている。

 

抑制を求める声にイスラエルが応じない背景には、継続を支持する国内世論と米国の資本、軍事面の手厚い支援がある。そこには米国にとって外交戦略上の重点地域である中東において「唯一の民主主義国」の存在は欠かすことはできないとの方針があり、過去にはバイデン米大統領も「イスラエルがなければ、イスラエルを作る必要があった」と述べている。

 

 

また、米国におけるイスラエルロビーの影響力は、政治のみならず主要メディアのナレーティブにまで浸透している。イスラエルへのいかなる批判に対しても「アンチ・セミティズム」(反ユダヤ主義)のレッテルを貼り、一蹴するやり方には、第二次世界大戦の冷戦時に米国や西側諸国の政府による国内の共産主義者およびその支持者の公職などからの追放が進められた「赤狩り」を彷彿とさせるものがある。

 

こうした影響力は民主党よりもむしろ共和党、特にクリスチャン・シオニズムの信奉者へと広がっている。シオニズムは「ユダヤ国家」としてのイスラエルの建国につながった思想だが、米国ではシオニズムを支持する人の数はユダヤ教よりもむしろキリスト教の信者の方が多い。政治家にとって、選挙を勝ち抜く上でこの有権者層の存在はかなり大きい。

 

 

さらにイスラエル、米国、英国の情報当局は長年にわたる深い関係にある。英米当局が互いに国内では法制度において制限される情報活動を相手国で行うほど緊密な関係にあることは、英国スパイ「ジェームス・ボンド」の映画シリーズなどでもしばしば印象づけられた。

 

2024年の米大統領選についても、イスラエルの圧倒的に大きな影響力が反映されている。支持率低下が止まらないバイデン大統領はもちろん、累積する訴訟問題を抱えつつも支持率では他者の追随を許さないトランプ前大統領は、再び政権を握るとすれば現政権以上にイスラエル支持を前面に押し出すことは想像に難くない。

 

 

民主党候補選に加わっていたロバート・ケネディ・ジュニア氏(RFKJr)は、新型コロナウイルスやウクライナ問題などの懸案では既存の二大政党の限界を打破するような政策を打ち出すことで支持を集めた。しかし、民主党内では名門一家の出身者であるにもかかわらず選挙制度やセキュリティの確保など様々な面で冷遇されたため、その後独立派に転じた。

 

しかし、そのケネディ氏でさえイスラエルに関しては強硬派の主張を受け入れ、パレスチナ人の人権をあたかも無視するかのような発言に及んでいる。

 

2019年には未成年者の性的搾取を目的とする人身取引の容疑でジェフリー・エプスティーン氏が米国で逮捕され、同年8月に拘留中に死亡、自殺と判断された。自ら所有する島で富裕層を対象とした人身取引に及んでいた件では顧客など関与者のリストが一切公開されなかったために、謎が深まった。さらにエプスティーン氏が同様の容疑で最初に逮捕されたのは2008年だったが、当時この件を担当した検事は同氏が免罪になったことについて「情報当局のアセット」であることに触れていたが、どの国の当局と関わったかは明らかになっていない。

 

 

しかし、エプスティーン氏のパートナーとして起訴され、現在服役中のギレーン・マクスウェル受刑者の父親、故ロバート・マクスウェル氏は、英出版界の大物だったとともにイスラエルの情報組織「モサド」との関係が取りざたされていた。

 

ビル・クリントン元大統領夫妻、ビル・ゲイツ氏、イギリスのアンドリュー王子など多くの有力者についてエプスティーン氏との関係が問われる中、複数国の情報当局が有力者に対して影響力を行使するために同氏の組織を活用していたとの思惑は、謎が深まる中では払しょくされずにいる。

 

中でも注目されるのは、大統領選で独立系候補ながら支持率が上向いているケネディ氏とエプスティーン氏との関係だ。ケネディ氏はエプスティーン氏の旅客機を家族で2回利用しただけだと主張している。ケネディ氏のイスラエルに関する発言にこうした関係がどのように影響しているのか、それが今後のケネディ氏の動向をどのように左右するかは、来年の大統領選を始め、厳しい局面を迎えた米国の今後の情勢を占う上で重大な要素の一つになるだろう。

 

 

バイデン米大統領がイスラエルに停戦を呼び掛けることに及び腰になる中、イランは25日、イスラエル軍によるシリア首都ダマスカスへの空爆攻撃によってイラン革命防衛隊のラジ・ムサビ上級司令官が死亡したと明らかにした。イランのライシ大統領はイスラエルについて、今回の行動の代償を払うことになると述べたとイラン国営プレスTVは伝えた。

 

他にもイエメンの武装組織フーシ派は、イスラエルが停戦するまでは同国を支持すると同派が判断する紅海を航行する商船を攻撃しており、中東では紛争拡大や米国がこれに一段と関わることへの警戒感が高まっている。