BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)首脳会談が8月下旬にヨハネスブルグで開かれた。ウクライナ情勢をきっかけに国際政治や経済におけるBRICSの位置付けは様変わりしている。

 

首脳会談では、新たにアルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6カ国がBRICSに新規加盟すると発表された。議長国だった南アフリカによると、上記6カ国を含む約20カ国が公式に加盟申請したほか、ほかに20カ国以上が関心を表明している。

 

 

BRICSへの関心が高まる背景の一つには昨年のウクライナ侵攻後のロシアに対する海外資産凍結を含む経済制裁がある。ウクライナに侵攻したロシアに対する制裁措置について、米国や北大西洋条約機構(NATO)は効果を示しているとの姿勢を保っている。一方ロシアを対象とした制裁は、エネルギー、特に天然ガスの重大な供給源である欧州の経済や生活に重大な影響を及ぼした。

 

しかし、制裁を受けてロシアと中国など従来よりも二国間貿易の拡大につながった例もあった。また、制裁措置による重大な打撃を受けた欧州には第三国経由でもロシア産ガスが供給されている。

 

 

むしろ、米国、EUなどによる制裁の対象が急増していることへの警戒感から、BRICSへの加盟を望む国や、貿易において米ドルの代わりに自国通貨や中国の人民元を用いて脱米ドル化を進める国が増えている。

 

世界の基軸通貨としての米ドルの位置づけでは、サウジアラビアが重大な影響を及ぼしている。米国とサウジは、1970年代のオイルショック時に米国がサウジ産石油を米ドルで購入し、サウジがそのドル資金を米国債に投資することで合意した。20世紀以降の世界経済における石油の重要性を背景に、ドルの世界の基軸通貨としての地位を支える役割ではこのオイルダラーが実質的に金本位制に取って代わるようになった。

 

 

しかし米国は、2000年代に開発された地中深くのシェール層からオイルやガスを抽出する技術を用いて世界有数のエネルギー生産国、純輸出国となり、その影響は中東関係にも及んだ。

 

また2018年10月にはサウジ政府に批判的だったサウジ人ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏がトルコ・イスタンブールのサウジ大使館で殺害された事件があった。この件に関して米政府の調査報告書は「カショギ氏をイスタンブールで拘束もしくは殺害するための作戦を、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が承認したと、我々は判断する」としていた。20年の米大統領選では、民主党候補だったバイデン氏はトランプ政権よりもサウジに厳しい姿勢で臨むと表明していた。

 

 

しかしバイデン氏は、米国の大統領としては中東の大国であり、世界有数の産油国として原油の供給に多大な影響力を持つサウジとの関係を断つわけにいかない。また今年に入ってバイデン大統領は原油価格の上昇を受けて産油国に原油増産を要請したが、「OPECプラス」を主導するサウジとロシアは逆に減産している。これを受けて国際的な指標である北海ブレント原油は9月半ばには1バレル当たり95ドルを伺う水準まで上昇した。

 

さらにサウジは今年、主要輸出国である中国との石油取引にドルの代わりに人民元を用いることを明らかにした。世界が気候変動対策として化石燃料利用の段階的縮小を目指しているとはいえ、オイルダラーの位置づけが変化することによる影響は計り知れない。また、脱ドル化と並行して多くの国は金の備蓄を増やしている。世界の基軸通貨としての位置づけや、世界各地の富が圧倒的にドル建てであることを考慮すると、その座がただちに脅かされることは考えにくいものの、その位置付けがどのように変化していくかは、急増する米国の財政赤字とともに注目される。

 

 

今年に入って中国は外交面でいくつかの成果を世界に示した。3月には北京でサウジとイランが2016年に断絶した国交を正常化することに合意したと発表された。また、当時の外相だった秦剛氏は4月、中国はイスラエルとパレスチナ両者間の和平交渉の促進を支援する用意があると明らかにするなど、中東情勢を一変する可能性を示した。今回のBRICSへの新規加盟にイランとサウジがいずれ含まれたことからは、これまで米国主導だった中東外交における大きな変化のうねりを印象付けた。

 

 

今回のBRICSの新規加盟では中国とロシアが主導権を握ったといわれているが、各国の思惑は必ずしも一枚岩ではなかったようだ。中でも中国と国境紛争をかかえるなど長年にわたる緊張関係にあるインドは、中国が一気に国際政治の主役へと躍り出ることを警戒しているかもしれない。

 

中国自体も、自ら率先して国際政治の主役を担うような姿勢を少なくとも現段階では示していない。その国内経済は輸出主導型の高成長期から減速基調入りに転じて久しい。最近では若者の失業率が20%台まで上昇、当局が関連指標の発表を見送るまでに至ったことは、現在の中国が抱える重大な課題を浮き彫りにしている。他にもトランプ政権以降の米国の保護主義的な政策へのシフトにゼロコロナ政策による打撃が重なるなど、苦難は山積している。また、その経済に占める比重の高い不動産セクターの危機には世界の金融市場が懸念を抱いて見守っている。

 

 

キューバでは新興国などによる国連の枠組み「77カ国グループ(G77)プラス中国」が16日行われ、「現在の不公正な国際秩序によって途上国が直面する課題はより深刻になっている」と強い懸念を表明する政治宣言を採択した。130以上の新興国や地域が参加したこの会議では、ブラジルのルーラ大統領が演説で米国によるキューバの経済制裁を「違法行為」として批判したと報じられた。米国による1962年以来の制裁は解除の兆しすらみられない。

 

その後バイデン米大統領は、エックス(旧ツイッター)でブラジルと労働者の権利に関するパートナーシップを結んだと明らかにして、ルーラ大統領およびブラジルとの良好な関係をアピールした。