ロシア産ガスを欧州に供給する主力パイプライン「ノルドストリーム」の爆破工作に関する調査についてロシアが2月の国連安保理で取り上げた。この会合に先立ち、当初の調査を担当したデンマーク、スウェーデン、ドイツの大使は安保理に書簡を送付、調査においてパイプラインが「破壊工作による大規模な爆発」によって甚大な打撃を受けたことが判明したと伝えている。

 

この書簡によると上記3国はさらに調査を実施しているがこれらがいつ終了するかは不明だ、とカタールのアルジャジーラは報じた。また、中国は「ノルドストリーム」パイプラインの「意図的な破壊工作」について国連に調査を求めた、とサウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は伝えた。

 

 

米国の調査報道記者、シーモア・ハーシュ氏が「ノルドストリーム」パイプラインを米国が爆破工作したと2月に報じたことで波紋が広がっている。ハーシュ氏は、米情報当局者の話として、昨年6月の北大西洋条約機構(NATO)の軍事演習「バルトップス22」において複数の米国人ダイバーがノルドストリームに爆破装置を設置し、9月にこれが作動されたと報じた。

 

同パイプラインの爆破は、冬を控えていた欧州にとって安価のガス供給源が断たれたことを意味する。爆破によるメタン漏れの規模について、国連環境計画(UNEP)は75-230キロトンと推定している。

 

 

ホワイトハウスや米中央情報局(CIA)の報道官は、コメントを求められて「全く虚偽のもの」と否定した、と同記事は伝えた。またバイデン大統領は9月末、ガス漏れは「意図的な破壊工作であり、ロシアは虚偽の情報を流している」と記者団に指摘していた。

 

一方、バイデン大統領は昨年2月上旬、ドイツのシュルツ首相との記者会見で、ロシアがウクライナの国境内に侵攻すればノルドストリームを終わらせると明らかにしていた。

 

ハーシュ氏はベトナム戦争やシリア情勢関連の暴露記事などを通じて調査報道の第一人者としての実績を持つが、米国の主流メディアは彼の記事を取り上げなくなって久しい。今回の記事ももはや独立系記者の主な発信源の1つとなった感のあるサブスクリプション型ウェブサイト、サブスタックを通じて発表されたにもかかわらず、内外で広く反響を呼んだ。

 

 

米国にとって特に衝撃的である同記事を取り上げる米主流メディアは極めて少ない。国連で議題に上がったことを受けてワシントンポスト紙がようやくハーシュ氏の記事が発端になっていることを伝えたことは象徴的だ。

 

国連安保理では、米国のエコノミスト、ジェフリー・サックス氏が詳細調査結果の公表を求めたほか、元CIA職員のレイ・マクガバン氏はハーシュ氏の調査報道記者としての実績、手法を評価し、この記事の内容を支持した。

 

 

ハーシュ氏は、政治系サイト、ザ・ヒルとのインタビューで、この記事に関して主流メディアが取り上げていない米国以上に欧州からのフィードバックが殺到していると明らかにした。安価なエネルギーの確保を巡って米国とNATO諸国との関係にも影響を及ぼしかねないだけに、この件に関する進展が注目されている。

 

How America Took Out The Nord Stream Pipeline (substack.com)

President Biden on Nord Stream 2 Pipeline if Russia Invades Ukraine: "We will bring an end to it." - YouTube

UN Security Council debates Nord Stream pipeline incidents | UN News