議会中間選挙を11月8日に控えた米国では、バイデン大統領率いる民主党の支持率は今春以降上昇する時期があったものの、直近の政党支持調査では共和党優勢に傾いているようだ。連邦最高裁が6月に人工妊娠中絶に関して、中絶を選択する権利は憲法で保障されていないと判断したことなどから民主党が巻き返す時期もあったが、その後のガソリン、食品、住宅価格の高止まりを受けて米連邦準備制度理事会(FRB)は大幅な利上げを続ける意向を示しており、リセッション(景気後退)懸念が米国内外へと広がっている。

 

9月の米消費者物価指数(CPI)では食品、エネルギーを除くコアCPIが前年同月比6.1%上昇と1982年以来の大きな伸びとなり、大幅利上げが続く道筋を示した。パウエルFRB議長は9月下旬、インフレ抑制の代償としてリセッションを覚悟することへのこれまでで最も明らかなシグナルを発した。連邦公開市場委員会(FOMC)は3会合連続で0.75%の利上げを決めるとともに、年内にさらなる利上げの可能性も残る。

 

 

米CNBCが10月中旬に実施した世論調査では「今後12カ月以内にリセッションは起きるか?」という質問にイエスと答えた人は59%でノーの23%を大幅に上回った。高インフレとリセッション懸念のはざまで困難を迎える米国民の多くにとって最大の関心は経済問題にあるが、バイデン大統領は中絶問題における連邦最高裁の判断を批判することで女性の支持を獲得しようとしている。しかし、政党支持調査はここに来て共和党に大きく傾いているため、民主党を巡っては中絶問題やアンチトランプだけで中間選挙に臨むことへの懸念も広がっている。

 

中間選挙を巡る事前予想では、下院は共和党優勢で過半数議席を奪回する見込みであるほか、上院は僅差の接戦と言われる4州のうち共和党候補が3州を制すれば過半数に達するとものとみられる。

 

 

トランプ前大統領の上級顧問・首席戦略官を務めたスティーブ・バノン氏は、フォックスニュースのインタビューで「共和党が中間選挙で勝利すれば司法省や連邦捜査局(FBI)のトップの弾劾が議会で進むだろう」との認識を明らかにした。バノン氏を巡り連邦地裁は今月、昨年1月の米議会襲撃を調査する米下院特別委員会での証言を拒否したとして懲役4月の実刑判決を言い渡した。

 

一方、民主党側のサンダース上院議員は、CNNのインタビューで、「中間選挙で民主党を支持する若い人、働く人が投票に向かうかどうか懸念している」と述べた。

 

 

議会での承認を経てバイデン大統領が8月署名した「インフレ抑制法」をはじめ、同政権下の議会運営では、民主党が上下両院で過半数席を握る状況にあるにもかかわらず、若い有権者や労働者が支持する政策よりも石炭業界との関係が深いマンチン上院議員が鍵を握る状況が鮮明となった一方、学生ローン返済免除など大統領選時の約束は政権によっておおむね反故にされてきた。

 

また、進歩派議員を巡っては、ウクライナ支援予算を支持したとしてオカシオコルテス下院議員が厳しい批判を浴びたことや、2020年大統領選候補だったギャバード元下院議員が今月、民主党からの離党を発表したことに象徴されるように、逆風に見舞われる状況が続いている。

 

 

ここに来て勢いが再び共和党へと傾いていることを受けて、危機感は民主党の主流派にまで広がっている。ウクライナ戦争に終わりが見えない中、高インフレとリセッション懸念に直面する米国民にとって最大の関心時である経済問題について、民主党がどれだけ有権者に訴えかけられるかが中間選挙、特に上院選において鍵を握ることになるだろう。

 

選挙動向調査のクック・ポリティカル・リポート(CPR)によると、先週の支持調査では10選挙区で変化が生じたが、このうち共和党への支持が上昇した6カ所は2020年にバイデン大統領が勝利した州、民主党側に傾いた4カ所はトランプ前大統領が勝利した州だった。これは中絶に関する規制が、連邦最高裁の判断によって憲法上で定めることからそれぞれの州に委ねられることへと変わったためと考えられ、共和党が強い州では実際に変化が起きる可能性が高い一方、民主党優勢の州では中絶する権利がより維持される見込みであることが響いているかもしれない。

 

 

同時に行われる州知事選では、接戦が見込まれるアリゾナ州のカリ・レイク候補が「共和党は今や労働者の党になった」と演説するなど注目を浴びている。トランプ氏が支持する元ニュースアンカーのレイク氏は、メディアの質問への厳しい切り返しでもトランプ氏を彷彿とさせるものを見せている。しかし、トランプ政権末期に共和党内で激しい抗争の中心となったリズ・チェイニー下院議員はレイク氏にはかなり批判的で、対抗の民主党候補を支持しているほどだ。

 

ジョージ・W・ブッシュ政権のディック・チェイニー副大統領の娘ながら、自身の下院選では再選を果たせず、まもなくその任期を終えるチェイニー氏を巡っては、2024年大統領選でバイデン氏の後釜として民主党から出馬するとの説もあるが、これこそまさに米国政治の地殻変動を象徴する見方の1つと言えよう。