米軍がアフガニスタンからの撤収を完了した。20年にわたる占領期を経てこの決断を下したジョー・バイデン大統領は、オバマ、トランプ両政権が果たせなかった公約を貫き通したことになる。しかし、与野党の政治家やマスメディアは、特に撤退の方法を巡って政権批判を繰り広げた。対照的に、世論調査が示すのは、長引いた戦争を終わらせる判断を大半の米国民が支持したことだ。

 

昨年2月、米国のトランプ前政権とアフガンのイスラム主義勢力タリバンが和平合意を結び、米軍撤退の期限を設定していた。このため、同年の大統領選ではトランプ前大統領が「バイデンの勝利はフォーエバー・ウォーを意味する」と主張していた。

しかし、トランプ氏を破り政権を握ったバイデン氏は、ブッシュ政権以来4人目の大統領として、アフガン戦争を「私の代で終わらせる」との決意を表明した。

 

この表明にあたり、バイデン大統領は、これまで米国が支え、訓練してきた30万規模のアフガニスタン軍が撤退を支援する、と述べていた。しかし、ふたを開けてみると、アフガン軍はタリバンと戦うことなくもろくも崩壊した。この結果、米国製の多くの兵器がタリバンの手にわたったほか、傀儡政権を率いていたアシュラフ・ガニ大統領は国外へ脱出、この際1億6000万ドルもの現金を持ち出したとの報道もなされた。

タリバンは、米軍撤退の表明後数週間で首都カブールを制圧、アフガン全土をほぼ手中に収めた。一方、米国は首都の大使館と空港とを結ぶ陸路の安全さえも確保できず、結局ヘリコプターを使う事態に陥った。日米など各国のマスメディアは、国外脱出を目指すアフガン市民がカブールの空港に殺到し、離陸しようとする飛行機に大勢が群がり、死者も出るという衝撃的な状況などを取り上げた。

 

米軍や同盟国の関係者もカブールの空港経由で国外脱出を目指す中、26日には空港近辺で自爆テロが発生、ハフポストによると少なくともアフガニスタン人90人と米兵13人が死亡した。この攻撃を受けてバイデン大統領は「我々は彼らを見つけ出し、代償を支払わせる」と強い口調で非難した。これに先立ち国防総省幹部の記者会見では、犯行声明を発表したISIS-Kによる攻撃だったことが明らかになった。米中央軍は27日、無人機攻撃でIS組織のメンバー1人を殺害したと発表した。

撤収期限が迫る中、サキ米大統領報道官は「今後数日間が最も危険な期間」と強調していた。また、米大使館が在留米国人に空港への移動を控えるよう促し、空港のゲートに近づかないよう警告するなど、緊迫した情勢が続いている。

 

日本からも自衛隊機が派遣されたが、多くの邦人関係者も空港へのアクセスが確保できないため、自衛隊機は邦人1人らを乗せてカブールを離れた後、隣国パキスタンに数日間待機したのち、撤収命令が出ており、対応の遅れを巡る批判が広がっている。

こうした混乱の中、バイデン氏は撤退の方法をめぐって多方面から批判を浴びている。保守、リベラルを問わず、マスメディアは撤退表明から数週間の展開について大々的に非難した。一方、20年間ものアフガン戦争や、その間のブッシュ、オバマ、トランプ政権の判断については、言及に乏しい感が否めない。

 

中でも、ジョン・ボルトン元大統領補佐官は、MSNBCやCNNに出演、バイデン氏の方針を非難し、米軍がアフガンにとどまることを提唱した。代表的なネオコンの1人として知られ、ブッシュ政権時にイラク戦争入りに積極的だった同氏が、リベラル系といわれるマスメディアで従来通りの主張を繰り広げる様子は、あたかも長年にわたり極めて膨張した軍事予算が議会で超党派の支持を得てきたことが左右を問わずほとんど報じられなかったことをも象徴するかのようだ。

対照的に、多方面からの批判や撤収を巡る混乱を受けてもあくまで方針を貫くバイデン氏に対しては、通常は批判的な急進派が評価するという異例のケースも見られる。

 

2020年大統領選の民主党予備選に下院議員として出馬、戦争反対の決意を示して物議を醸したものの途中で断念、任期終了時に再選を目指さなかったトルシ・ギャバード元下院議員は「アルカイダによる9/11(米同時多発テロ)の後、米軍特殊部隊は速やかにアフガンに展開、アルカイダを圧倒した。その時点で撤退すべきだった」とYouTubeで主張した。ギャバード氏は現在も地元ハワイの州兵として兵役に従事している。

実際にイラクやアフガニスタンに駐留した経験のある退役軍人など、実情に精通しながら撤退を支持する声を伝える独立系メディアもある。

 

イラク、アフガンで陸上部隊を率いたことのあるダニー・シュルセン氏は「アフガニスタンにはソ連や英国による数百年もの占領の歴史があるものの、どの占領者も成功していない」と述べた。また、米国が任命した傀儡政府は、対立関係も含まれるような数百もの現地の部族にとって共通の敵になる運命にあったという。

2011年5月に隣国パキスタンにいたアルカイダの元指導者、オサマ・ビンラディンを米特殊部隊が奇襲、殺害した時もまた、米軍がアフガンから撤収する一つの口実になり得たが、当時のオバマ大統領がこの判断を下すことはなかった。

 

20年間にわたるアフガン占領を通じて米当局はその成果を強調、戦争を継続する意義を唱えてきた。しかし、ワシントンポストは2019年、アフガンにおいて実情よりもバラ色な状況を装うような報告が常態化していたこと、軍幹部さえも戦争の目的がはっきりしないと認識していたこと、十数年たってもアフガニスタンへの理解が深まらなかったこと、2兆ドルもの支出の多くが無駄や汚職につながったことなどを公文書が示した、と報じた。

米国では、政治資金の上限が実質的に撤廃されて以来、企業にとって数千万ドル規模の政治献金が数十億ドル規模の収益を生み出す事例が次第に日常茶飯事のようになってきた。戦争反対や賃金問題、医療システムの国民皆保険導入など、国民の幅広い支持を集めるアジェンダが議会では延々と滞る一方、減税や軍事予算、企業収益に有利な規制緩和などは超党派の支持を得てあっさり通過する状況が長らく続いており、格差拡大や政治不信を招いている。

 

この観点でみると、アフガン占領の恩恵を明らかに受けたのはボーイング、ロッキード・マーチンなど防衛関連企業だったことを、過去20年の各社の株価は示す。それだけに、バイデン氏が有力な支持層の利益にかなわない決断をあえて下し、戦争敗北を宣言する大統領になったことは、平和を願う観点からみると、批判よりもむしろ称賛に値するといえよう。

しかし、タリバンが樹立を宣言したアフガニスタン・イスラム首長国と米国が今後どのような関係を持つかは不明であることから、隣国である中国の出方も含めて、今後のアフガン情勢からは目が離せない。多数の部族が混在し、テロ攻撃が続く状況をタリバンが掌握できるかも問われている。また、アフガンの地政学や資源の面での重要性は、中国が積極的に追求しても驚きに値しない。

 

米国にとっても、アフガン撤退が外交政策を大きく見直すきっかけになるかは未知数だ。アフガン戦争が20年も続いた最大の理由が継続を望む向きの強大な影響力にあったことは想像にかたくない。それでも、米国が軍事活動を縮小し、その分の資源を国内インフラや国民の生活向上に配分することは、同国の民主主義の維持にとって欠かせないと考えられる。

イスラエルのベネット首相は、27日の米国との首脳会談で、米国がイランとの外交交渉を重視しつつも「他のオプション」も念頭に置く、という言質をバイデン大統領から得たことについて「満足している」と述べた、とアルジャジーラは伝えた。イランとの核合意を再び取り付けることを目指す米国の方針には反対するベネット氏だが、バイデン氏の発言については、イランを巡る両国のギャップを埋める兆しになると位置付けた。

 

また、イスラエル当局は、中東でのイランの影響拡大を懸念するという観点から、イラク、シリアから撤退しないよう求めた際のバイデン氏の反応について、「楽観視」できるものだったと明らかにした、とアクシオスは報じた。