米製薬大手ファイザーとドイツのビオンテックは、新型コロナウイルス用ワクチンについて、全面的承認を食品医薬品局(FDA)に申請した、と今月発表した。新型コロナへの対策が急務となっていた昨年12月には、同ワクチンはFDAから緊急使用許可(EUA)を取得しており、その後の米国での接種数は2億0700万回を超えている。

 

パンデミック発生から1年半ほどがたち、これまでに複数の変異株が発生している。中でも感染力の強さからインド全土に重大な影響を及ぼしたデルタ変異株は、日本にも急速に広がっているほか、これまでは感染拡大を免れていた国、地域にも影響が出ている。

ワクチンの高接種率にもかかわらず、デルタ株の影響から感染数が増加しているイスラエルでは、ワクチンの感染、予防効果が「大幅に低下しているとみられる」、との調査結果を保健省が発表した。同省のデータによると、これまでのコロナ株の感染や発症を防ぐ効果は90%だったが、デルタ株ではこれが64%に低下したという。英国やカナダの調査では80%~90%の効果を保つことを示す結果も出ており、今後もさらなるデータの発表が注目される。

 

このため、ワクチンの接種が進み、終息ムードが広まっていた国でも、デルタ株の脅威によって状況は様変わりしている。米国でも、世界経済の回復を脅かす、との懸念から今月中旬には株価が軟化する局面もあった。ファイザーは、すでに2度目の接種を終えている人へのブースター(3度目の接種)に関しても認可申請を試みたが、米当局はこれを認めなかった。

 

また、世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務総長は今週、ファイザーなどワクチンメーカーに対し、ブースターよりもアフリカや低・中所得国への供給を優先するよう求めた。

希望者のワクチン接種がほぼ一段落したと考えられる米国では、デルタ株の影響で感染数が増加している。ビベック・マーシー医務総監は、パンデミックの「今後の状況に留意している」と述べた上で、新型コロナやワクチンに関するソーシャルメディア(SNS)上の誤報(ミスインフォメーション)について懸念を表し、SNSのアルゴリズムの変更などを通じて検閲を強化、ミスインフォメーションを抑制するための指針を示した。そこにはワクチンの効果に疑問を呈する情報などを制限する狙いがある一方、こうした動きは政府官庁による民間SNSへの検閲の依頼にあたる、との批判も聞かれる。

 

日本では、高齢者のワクチン接種が進んだ後、先月にはワクチンの供給不足が判明、デルタ株による感染拡大という「安心、安全」とはかけ離れた状況の中で東京五輪が行われている。東京都の27日の新規感染者数は2848人で過去最多となった。

 

ファイザーは5月の投資家向け説明会でワクチンの生産計画を明らかにしたが、その規模は、同様にmRNA型ワクチンを手がけるモデルナの計画分を足しても、世界のワクチン需要にはるかに及ばないものだった。当時、世界で有数のジェネリック薬の生産能力を持つインドは、全土でデルタ変異株の脅威にさらされていたために、mRNAワクチンの生産ライセンスの取得を求めたが、現在までワクチンの供給拡大につながるような進展は聞こえてこない。

これまで比較的優れた対応がなされていたオーストラリアやタイ、ベトナムなどでもデルタ株の感染拡大がみられることを踏まえても、ワクチンの供給不足に直面する国、地域では、早急に対策を講じる必要が生じている。

 

こうした状況の中、一部の国では新型コロナ感染症の予防、重症化の抑制という点でイベルメクチンに注目している。インドでは、コロナ治療薬としてのイベルメクチンの処方を認めた州と認めなかった州とがあったが、その差は数値に如実に現れた。最近ではインドネシア、ジンバブエでもコロナ治療薬としてのイベルメクチンの使用が承認されるなど、注目する国は増えている。一方、ジェネリック薬であるイベルメクチンは、その効果の有無にかかわらず、大手製薬会社の収益にはつながらないという側面がある。

 

イベルメクチンを開発したことで、ノーベル賞を受賞した大村智教授は、日本でも同薬の本格的な治験が進められることを受けて、「コロナの治療薬となり得るかどうかは、科学的根拠やデータをもって判断してもらえればよい」とサンデー毎日のインタビューで述べた。なお、日本では現在も医者の裁量による新型コロナの治療薬としてのイベルメクチンの「適用外使用」が認められているが、その事実を知らない医者も多い、と同誌は報じた。最近では、積極的投与を決めた医師に電話などでの問い合わせが殺到しているという。

ファイザー製ワクチンは、デルタ株の予防、感染については効果が低下している、とのデータも出ているが、重症化や死亡の抑制では優れた効果を維持している。しかし、その接種に際する判断を下す上では、副反応に関する長期的なデータがないことを懸念する向きもある。また、前述のとおり、他のワクチンと合算しても世界で供給が大幅に不足している問題があり、これはワクチン確保を巡る格差を招く一因となっている。ワクチンの供給不足に対処することなくして、今後もさらに感染力や脅威の増した変異株が発生するリスクを低減することは難しい。

 

バイデン政権による「ミスインフォメーション」への対応強化の動きは、ワクチン接種の促進という国内問題への対策という側面があるものの、グローバルなパンデミックという性質をふまえると、いささか国内事情のみに目が向く側面があるようにも見える。

また、従来からの検閲、情報制限には、すでに科学的根拠に基づく提言を行う医師、団体などの言動に悪影響を及している側面がある。イベルメクチンは昨年来さまざまな検閲の対象になっているジェネリック薬だ。現在も米主要メディアにおいて同薬はタブー化されている。また、これまでの制限行為の中でも際立つのは、クリティカルケア団体、FLCCCアライアンスの会長であるピエール・コーリー博士が昨年12月に上院委員会で行った同薬に関する証言動画がYouTubeから削除されたことだ。

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デルタ株の脅威が示すのは、新型コロナ感染症を巡るワクチン開発企業、WHO、各国当局の対応が、世界規模での感染の早期抑制を目指すには不十分であることだろう。

 

イベルメクチンについて、WHOや米当局などは、十分なデータがないとして、新型コロナ感染症の使用を奨励しない方針を保っている。これに対し、コロナ対策に当たる医療現場を含む推進派は、各国の調査結果を盛り込んだメタ分析を根拠にその感染予防、重症化防止効果に言及している。FLCCCはその治療プロトコルに同薬を盛り込んでいる。

SNSや保守系メディアにおけるミスインフォメーションへの対応を強めている背景には、7月4日までに接種率を70%にする、というバイデン政権の目標が未達に終わった上に、ワクチン接種に消極的な向きへの説得が困難になっていることや、共和党主導で反バイデンの名目の下に反ワクチンの論調が広がることへの苛立ちも反映されている。

 

接種率の低い10州は、いずれもトランプ氏が大統領選で勝利した州だ。また、人種別にみると、非白人が非接種者の大半を占める。供給不足にあえぐ海外の国、地域とは対照的に、希望者が比較的簡単に接種できる状況にある米国では、ワクチン接種を政争化しない形で推進する方針も示されている。

 

しかし、医療制度への政治的取り組みという観点で見ると、新型コロナ以前の問題として、健康保険における国民皆保険(M4A)制度の導入、オピオイド問題など、積年の課題への対応に延々と前進が見られないことへの幅広い不信感がある。これを払しょくすることなくして、現状打破は難しいとも考えられる。

 

いずれにせよ、人命を守り、経済活動を立て直すためには、まずはワクチンや治療薬のジェネリック版の生産、供給を推進し、世界規模のワクチン接種率を高めることで、変異株の発生、強化を阻止することを優先すべきではないのか?

 

前政権のコロナ対策の失敗もあって誕生した経緯のあるバイデン政権だが、今後のコロナ対策を誤れば、早ければ来年の中間選挙において、大敗という2010年のオバマ政権と同様の悪夢の形で膠着状態に陥る懸念もある。

新型コロナへの対応にあたる現場の声を直接反映しているFLCCCは、7月24日を「ワールド・イベルメクチン・デー」と位置付け、安価な治療薬の全世界への普及を推進しているほか、「メディカル・ミスインフォメーション」とも戦う決意を表明している。

 

参考:

第2弾!ノーベル賞学者・大村智博士が発見 やっぱりイベルメクチンはコロナに有効だ!〈サンデー毎日〉(サンデー毎日×週刊エコノミストOnline) - Yahoo!ニュース