米大統領選では、事前に優勢が伝えられた民主党のジョー・バイデン前副大統領が3日の投票日に決着を見るような圧勝は果たせなかった。新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあって期日前投票が1億票を超えた今回は、投票日当日までその集計を禁止した選挙区もあるため、情勢が判明するまでは数日を要する見込みとなった。5日時点では、バイデン氏があと1州を制すれば勝利する段階にある。

ドナルド・トランプ大統領は、事前に明らかにしていたとおり、3日の結果が判明していない時点で「勝利」を宣言、メディアはこれを報じた。当日は共和党、期日前投票は民主党にとって有利になる、との予想を踏まえた動きだ。一部では大接戦と伝えられながらも、バイデン有利というニュースが続く公算は大だが、トランプ氏にとっては、ニュースが出るたびに、期日前投票やメディアの「不正」を糾弾するための予防線を張った、ということなのだろうか。

 

これまでの推移から見て、今回の投票率は前回を大幅に上回るだろう。コロナ禍で大勢の市民、家族の生活、財政に甚大な影響が及ぶ中、右のフォックス・ニュース、リベラルのMSNBCに代表されるマスメディアは、今回の大統領選で「ネバー・トランパー」と「左嫌い」との闘いの構図を描いた。

投票を目前にした先月末、大統領指名の最高裁判事候補、エイミー・バレット氏が共和党主導の上院で承認されたことが大統領選にどう影響するかは未知数だ。米国の最高裁判事は終身制だが、バレット氏の就任によって保守派6人、リベラル派3人という構図になる。また、指名を受けた上院の公聴会では、バレット氏が気候変動に関して再三曖昧な発言にとどまったことも伝えられた。

 

先月22日行われた米大統領選の最後の討論会では、バイデン氏が「化石燃料企業と距離を置く」と述べたことが注目された。ただ、気候変動対策にフラッキング(水圧破砕法)禁止を盛り込まない方針であり、バイデン氏がその理由を説明する場面もあった。

 

激戦区として注目されるペンシルベニア州では、シェールガスを採取するためにフラッキングを活用している。バイデン氏のこの発言に注目したドナルド・トランプ大統領は「忘れないでテキサス」「忘れないでペンシルベニア、オクラホマ」と訴えた。

気候変動は過去の大統領選ではおおむね無視された感があった。科学者が数十年前から発してきた様々な警告の多くが現実になる中、バイデン氏が石油業界と距離を置くと明らかにしたことで、地球温暖化への懐疑論者で、2017年に米国の「パリ協定」からの離脱の意向を表明したトランプ氏とは対照的な姿勢が示された。

 

米ホワイトハウスのケイリー・マクナニー大統領報道官は先月27日、バイデン氏が石油業界をめぐるコメントを理由に大統領選でペンシルベニア州を「失う」とした、とフォックス・ニュースは伝えた。一方、アレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員(民主党、ニューヨーク州)は同週末、バイデン氏がフラッキング禁止に反対することが若者の投票回避につながるとは懸念していないとし、「現実的に票を投じる」ために民主党候補に一票を投じるだろうとした、とCNNは伝えた。

再生可能エネルギーの相対的な採算性向上、異常気象による被害の拡大、気候変動対策への支持増加などの変化を受けて、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにするカーボンニュートラルを目標に掲げる国が相次いでいる。

 

菅首相は26日の所信表明演説で、「積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要」とした。日本生命が資産運用におけるESG投資の有効性を表明したことに象徴されるように、機関投資家の資金の流れが変化していることも注目される。

 

新型コロナウイルスの影響で、今年の世界のエネルギー需要は5%減少する、と国際エネルギー機関は(IEA)は推定した。またエネルギー関連の二酸化炭素排出量は7%減、エネルギー投資は18%減となる見込みだという。IEAのファティ・ビロル事務局長は「今年の世界の排出量は記録的な減少幅を示したが、世界が明らかに減少基調に転じるために十分だとみなすには程遠い状況だ」と述べた。

IEAが10月発表した「世界エネルギー・アウトルック2020」は、今後10年間のエネルギーセクターの見通しを示しており、クリーンエネルギーへの移行を促進するための行動に言及、エネルギーの生産、消費に関する構造変革の促進のみが、排出拡大基調の変化に持続性をもたらすと述べた。各国政府に対しては、ネットゼロ排出などの目標を達成する軌道に乗せるための決定的な行動に踏み切る能力と責任を持つ、としている。

 

その「持続可能な発展シナリオ」(SDS)では、新規排出の抑止のみならず既存の排出にもテコを入れるとしており、特に電力セクターについては石炭火力を2030年までに半減、太陽光をほぼ3倍増にすることを提唱した。

 

今年のエネルギー消費量の減少は、生活環境や生態系の崩壊といった最悪のシナリオが危惧されるにもかかわらず、石油、石炭から生成するエネルギーの消費を減らすためには、ほぼ100年ぶりのパンデミックと気候変動を巡る経済性の変化とが必要だったことを示す。

 

今春、気候変動に関する映画「Planet of the Humans」がユーチューブで公開された。マイケル・ムーア監督がエグゼクティブプロデューサーを務めたことで話題になったこの映画は、その内容についても波紋が広がった。公開後半年余りで視聴数が1000万件を超えたこの映画には、一部の「グリーンエネルギー」運動や環境活動家とウォール街や超富裕層系の財団との、これまで伝えられなかった関係を取り上げるシーンが含まれた。

 

バイデン氏は、2050年までに100%カーボンニュートラル経済を目指す、とする2兆ドルの気候変動プランを7月に明らかにした。対照的に気候変動を「中国の陰謀」と位置付け、その存在を否定するトランプ氏は、大統領選も大詰めの段階を迎えて、バイデン氏が化石燃料セクターとの離別を表明したことを批判する戦術に及んでいる。

気候変動対策への取り組みが進むこと自体は、人類滅亡の危機を回避する動きとして歓迎すべきだろう。しかし、富の集中が進む中でのグリーンエネルギーの推進は、脱炭素化と成長を同時に追求するあまり、全体として結局は大した効果は得られず、一部のグリーン企業や投資家の懐を潤すことにとどまるリスクを伴う。

 

生態経済学を専門とするウィリアム・リーズ氏は「風力、ソーラーの急成長にかかわらず、グリーンエネルギーへの移行はさほど進んでいない」とし、昨年の世界の電力需要が「過去30年間のソーラーによる合計発電量を上回った」ことを指摘した。

 

気候変動の危機に真に立ち向かうためには、化石燃料が産業革命以降の成長にいかに貢献してきたかを再認識し、脱炭素化に見合った成長を検討、議論、追求すべきと考える。