最新作の製作を急いだ動機は現政権 スピルバーグ監督

 スティーブン・スピルバーグ監督、メリル・ストリープ、トム・ハンクス主演の最新作「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」(日本では3月30日公開)は、1971年にワシントンポストの記者2人がベトナム戦争を巡る国防省の非公式見解を記した文書を公開し、ニクソン政権や政府の数十年に渡る不誠実さに挑んだ様子を描いた映画だ。ストリープとハンクスは今作で初共演となる。

 「ジョーズ」「インディアナ・ジョーンズ」「E.T.」「シンドラーのリスト」「A.I.」などを手掛け、興行収入面で最も成功した映画監督の1人であるスピルバーグの新作、ペンタゴン・ペーパーズでも、監督の作品に共通する特徴がいくつか見られる、とガーディアンは伝えた。

 理想主義と現実主義の衝突というお馴染みのテーマは、ハンクスが強大な権威から譲歩を求められつつも憲法重視の方針を貫く弁護士を演じた「ブリッジ・オブ・スカイ」でも取り上げられた。新作でも、ハンクスはジャーナリストを演じる中で同様の姿勢を保つほか、「リンカーン」と同様に、米国憲法の長所を讃えている。好人物が執拗な脅威に立ち向かう、というテーマもまた、デビュー作「激突!」以来、スピルバーグの多くの作品に共通するものだ。

 これに加えて、ペンタゴン・ペーパーズには好タイミングという要素がある。新作の製作に着手するわずか11カ月前に初めて脚本を読んだというスピルバーグは、製作を急ぐために、通常よりもはるかに短期間で脚本家やスタッフ、主演俳優を集めたという。

 「製作を急いだのは、メディアを攻撃し、自分の都合次第で真実をフェイクと位置づける現政権の気質のため」とするスピルバーグは「代替的真実(alternative facts)というハッシュタグに大いに違和感を持ったのは、唯一の真実は客観的真実だという信念を持つからだ」と述べた。

 新作には、当時のニクソン大統領がホワイトハウスを歩く影を描きながら、行政権を行使して報道の自由を妨げようと試みる内容の音声がバックに流れる、という印象的なシーンがある。このシーンに登場する影がトランプ氏を連想させることは、あえて指摘するまでもないだろう。

 ジャーナリストを描いた映画には、1976年の「大統領の陰謀」がある。この映画は、ワシントンポストのボブ・ウッドワード、カール・バーンスティーン両記者による、ニクソン大統領のウォーターゲート事件の暴露を題材にしたもの。新作では、ワシントンポストがニクソン氏を74年に辞任に追い込むまで戦う上で、ペンタゴン・ペーパーズ文書を巡る勝利が励みになった、と主張している。

 それでも、スピルバーグは、この映画は米国のジャーナリズムの栄華を回顧するようなノスタルジア作ではないと強調、「今日のジャーナリズムの基準は当時よりも高い」としてその競争の激しさに言及した。また、旧来の「ハードコピーのアナログ時代」から特ダネの急増など新しい課題に取って代わった結果、ニュースサイクルは「24時間から時には24分にまで短縮された」と指摘した。

 

 

ホーキング氏 富の再配分を提唱していた

 今月死去した宇宙物理学者、スティーブン・ホーキング氏の2年前のレディットでの質疑応答の内容をユーザーが取り上げている、とニューズウィークは伝えた。ホーキング氏は、技術の進化に伴う格差拡大を根絶する唯一の方法は、富の再分配だと提唱していた。

 「技術による失業、つまり、人間よりも速く、低コストでタスクをこなすような自動化プロセスの開発が進むことによって、大規模な雇用喪失が発生する可能性について考えたことはあるか?」という質問に対し、ホーキング氏は「機械がわれわれの必要なものを全て生産するようになれば、結末は物事をどのように分配するか次第になる」とし「機械が生み出す富を人々が共有すれば、誰もが豪華なレジャーを楽しむ可能性がある。しかし、機械の所有者が富の再分配に反対するロビー活動に成功すれば、大半の人々は悲惨な貧困状態に追い込まれる。これまでのところ、トレンドは後者に向いており、技術は貧富の差を果てしなく拡大している」と同氏。

 インディアナ州ボールステイト大学の調査によると、2000〜10年にかけて製造業の雇用喪失の87%近くの原因が自動化や技術の進化だった。プライスウォーターハウス・クーパース(PwC)は、今後15年で自動化によって米国の雇用の40%が失われると予測する。

 イーロン・マスク氏やビル・ゲイツ氏もこの問題について同様の考え方を示している。ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)を支持するマスク氏は、自動化が浸透するにつれてこの制度が必要になると主張する。ゲイツ氏は、人間から仕事を奪うことになるロボットへの課税を提唱している。

 

 

スピルバーグ最新作 真のドラマは品質対収益に

 スピルバーグ監督の最新作「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」は、メディアを題材とする映画としては珍しく、収益の問題を取り上げている。新作は、米国のベトナムへの数十年もの関与を記した国防省の非公式見解を示す文書を入手したワシントンポストのベン・ブラッドリー編集長(トム・ハンクス)が、オーナーのキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)に文書の公開について説得する、というストーリーで、ワシントンポストが新規株式公開(IPO)を計画するというタイミングで展開する。

 IPOの条項に抵触するリスクを鑑みた上で文書の公開を決断するオーナーは、金融関係者にその旨を伝える際、「品質と収益性とは密接に関連している」と述べる。

 しかし、問題は、現在のメディア関係者の多くがこれは真実でないという認識を持つことにある、とインターセプトは伝えた。強大な組織の責任を問うような高品質、高インパクトのジャーナリズムは、利益につながるものではなく、むしろ利益を犠牲にすることも多い。優れたジャーナリズムは、高い費用と長い期間を要するもので、広告主が恐れをなすこともしばしばある。また、強大な組織が法的手段に講じて反撃することもあり、例えこれに勝利しても、高額の費用がかかり、敗北すれば、事業そのものが窮地に追い込まれるリスクもある。

 当時のオーナーの信念は決して狂気の沙汰ではない。1970年代には異なる原則があったかのように見えた時期もあった。しかし、現在振り返ってみると、これはニューノーマルというよりも、歴史上の奇妙な例外と見て取ることもできる。当時のワシントンポストや他の新聞は、巨大な中流階層に訴求する上で別の多くの手段をもたない企業やビジネスから巨額の広告収入を得ていた。

 しかし、その後の中流階層の衰退に加えて、企業は消費者に訴求する他の技術的手段を得たため、米国のジャーナリズムの収益性は、当初は緩やかに、やがて急速にその基盤を失った。ワシントンポストは、大半の同業他社よりも健闘したが、財務面で成功が長く続いたのは、何らかの「品質」によるというよりは、むしろ米国で最も裕福な地域の1つをほぼ独占したことが大きい。

 ペンタゴン・ペーパーやウォーターゲートの後には、ジャーナリズムにおいてメディアのオーナーや編集長が決して白馬の騎士ではなかったことも明白になった。1988年に中央情報局(CIA)で講演したグラハムは、自身について、米国エスタブリッシュメントの責任ある一員として、無知な米国人に適切な量の情報を提供することにおいて信頼をおける、との人物像を描いた。また、ブラッドリーは、自身の報酬が明らかになることを嫌い、ワシントンポストがIPOを実施した後に同社を離れた。ワシントンポストは2013年にはアマゾンのジェフ・ベゾスCEOが買収した。

 ジャーナリズムが抱える課題の大半は構造的なもので、個人に関わるものは限られる。新作では劇的な展開が多く、驚くほど正確でもある。ただ、グラハムを巡っては、政府に立ち向かう時もあったが、最終的には自身の新聞が資本主義のフォースに屈することに甘んじた。

 

 

フォックスのニュース・アナリスト辞任 「今は恥ずかしい」

 米陸軍退役将校でフォックス・ニュースのニュース・アナリストを務めていたラルフ・ピータース元中佐がフォックスを退社した。同僚への電子メールでは、ピータース氏は放送局とトランプ大統領を非難している、とバズフィードは伝えた。

 「フォックスは、保守層の声を伝えるために切望される正当な発信源から、破滅的で倫理的に崩壊した政権のプロパガンダマシンへと化した」とピータース氏は訴えた。ピータース氏はオバマ前大統領の外交政策に批判的なことで知られていた。

 フォックスは「ラルフ・ピータースには意見を発する権利があるものの、彼はこれを自身が注目を集める武器として使っている」と声明で述べた。

 ピータース氏は「フォックスとの10年にわたる関わりについて、私は長らく誇りに思ってきたが、今は恥ずかしい」とした。