むかしむかし、
宇宙のはじっこの青い星、地球には
大きな川が流れていました。
川の名は後にナイルと呼ばれることになります。
その頃の人々は、川があふれて国を飲み込む度に、
「神さまの怒りだ」
と震えながら夜空を見上げていました。
その夜空の中でひときわ青白く輝く星、
シリウスがありました。
シリウスの賢者たちは、
地球について話し合いました。
「この星の人たちは、水が怖いみたいだね」
「水は命を運ぶともだちなのに…」
そこでシリウスは作戦を立てました。
「私達が川のリズムのカレンダーになろう」
「私達が夜明け前に昇ったら、
もうすぐ川が目覚める合図だと
決めて、毎年同じ時期に光ろう」
それからというもの、
ある朝を境に人々は不思議なことに気づきます。
「しばらく見えなかったあの星がまた昇ったぞ」
「星が戻って数日で川が膨らみはじめる…!」
やがて人々はシリウスを女神の涙の星、
再生を告げる星、として祈るようになりました。
「星が昇ったらもうすぐ水がくる。
畑の準備をしよう。倉庫を整えよう。
家族を守ろう。」
恐怖だった洪水は、
少しずつ恵みへと姿を変えていきました。
そして人々は、星と川と太陽のリズムをならべ、
一年という“物語”をつくり出します。
それがエジプト文明のカレンダーです。
シリウスは、遠い空からつぶやきます。
「ほらね、水は怖いだけじゃない。
ちゃんと準備すれば命を運ぶ味方になる。」
そうしてシリウスは、
地球に「水と叡智」と「時間の感覚」を
届けた星として、今も夜空で静かに
瞬いているのです。
おしまい。