※改訂しました(2018/01/12)。
第1 乙の罪責
1 強盗目的でV方に入った行為は、Vの意思に反する立入りであり、「侵入」に当たり、①住居侵入罪(130条前段)が成立し、後述のように、甲と共同正犯(60条)となる。
2 ナイフを突きつけて金庫の在りかを言えと言い、顔面を蹴り、右ふくらはぎを刺した行為に、以下に述べるように、②Vに対する強盗致死罪(240条後段)が成立する。
(1) 「強盗」(同条)
ア 「暴行又は脅迫」(236条1項)とは、社会通念上相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものをいう。
本件では、深夜、寝室内という他人に救助を求めることができない状況にある。かかる状況で、刃体の長さ10センチメートルのナイフという殺傷能力の高い凶器を顔面という急所に突き付けられると、抵抗できなくなる。よって、上記行為は、Vの反抗を抑圧するに足りる程度といえ、「暴行又は脅迫」に当たる。
イ 乙は、強い恐怖心を抱いたVから金庫及び金庫の鍵の場所を聞き出したうえ、金庫内の500万円をかばんの中に入れた。よって、暴行脅迫を手段として財物を奪取したといえ、「強取」(同項)に当たる。
ウ したがって、乙は「強盗」に当たる。
(2) 上記顔面を蹴った行為による脳内出血が原因でVは死亡しており、「死亡させた」(240条後段)に当たる。
(3) よって、②の罪が成立し、後述のように、甲と共同正犯となり、窃盗罪(235条)の限度で丙と共同正犯となる。
3 以上より、①と②の罪が成立し、牽連犯(54条1項後段)となる。
第2 丙の罪責
1 強盗目的でV方に入った行為は、「侵入」に当たり、③住居侵入罪が成立する。
2 500万円をかばんの中に入れた行為に、以下に述べるように、④Vに対する窃盗罪の乙との共同正犯が成立する。
(1) 丙は、乙に「手伝いますよ」と言い、乙が、丙に十分分け前をやると言っている。この時点で、乙丙間に、窃盗罪を犯す旨の共謀が成立した。
(2) 上記行為は同共謀に基づく「窃取」に当たる。
なお、丙は、共謀加担前の乙の暴行によりVが身動きできない状態にあることを利用して500万円を取っているが、同行為は「強取」に当たらない。なぜなら、同状態の利用から、同状態を生み出した同暴行についてまでの帰責を引き出すことはできないからである。
(3) 丙は「窃取」行為を行っている上、分け前を得るという動機がある。よって、丙に正犯性がある。
(4) したがって、④の罪が成立する。
3 以上より、③と④の罪が成立し、牽連犯となる。
第3 甲の罪責
乙がV方に入り、Vの顔面を蹴り、右ふくらはぎを刺し、500万円をかばんに入れた行為につき、甲に、⑤住居侵入罪及び⑥Vに対する強盗致死罪の乙との共同正犯が成立しないか。
1 甲は、乙に対し、V方に押し入って、ナイフで脅して、現金を奪うことを指示し、乙は「分かりました」と言った。よって、甲乙間で、住居侵入罪及び強盗罪を犯す旨の共謀が成立した。
2 甲は、甲の命令に逆らえない乙に対し、V方に数百万円の現金を入れた金庫がある旨の情報を提供し、Vをナイフで脅して現金を奪うという犯行を指示し、ナイフ等必要な道具を購入するための資金として3万円を提供するという重要な役割を果たしており、正犯性がある。
3 法益侵害への物理的心理的因果性を除去した場合は、共同正犯関係の解消が認められ、上記行為は同共謀に基づく実行行為に当たらない。
本件では、たしかに、甲は、乙に犯行を中止するよう命じ、乙は、「分かりました」と返事をした。よって、甲は心理的因果性を除去した。しかし、甲は、乙に対し、上記購入資金3万円を渡して乙がナイフ等を準備しており、甲は強い物理的因果性を与えている。よって、甲が同因果性を除去するためには、ナイフ等を回収する措置を採る必要がある。甲は同措置を採っていない。よって、甲は物理的因果性を除去したとはいえない。したがって、上記行為は同共謀に基づく実行行為に当たる。
4 Vの死亡結果が生じている。
5 Vの死因は、乙がVの顔面を蹴った行為による脳内出血である。よって、同共謀に基づく共犯者乙の行為により同結果が生じている。
6 したがって、⑤と⑥の罪が成立し、牽連犯となる。
第4 丁の罪責
1 金品を盗む目的でV方に入った行為は「侵入」に当たり、⑦住居侵入罪が成立する。
2 本件キャッシュカードをズボンのポケットに入れた行為は、「窃取」に当たり、⑧Vに対する窃盗罪が成立する。
3 Vをにらみ付けながら「暗証番号を教えろ」と強い口調で言った行為に、以下に述べるように、⑨Vに対する2項恐喝罪(249条2項)が成立する。
(1) 「恐喝」とは、相手方の反抗を抑圧するに至らない程度の暴行・脅迫であって、財産上の利益移転の危険性ある行為をいう。
本件では、Vが恐怖で顔を引きつらせていること、上記行為は深夜に寝室で行われており他人に救助を求め難い状況で行われたこと、Vは身動きがとれない状態にあることからすると、上記行為は相手方を畏怖させるに足りる害悪の告知といえる。もっとも、上記行為は凶器を用いておらず、Vの生命身体への危険はないので、相手方の反抗を抑圧するに至らない程度の脅迫に当たる。
丙は、既に本件キャッシュカードの占有を得ている。そうすると、同カードの暗証番号を知れば、ATMで容易に現金を引き出すことができるという利益を得る。その反面、Vは、自己の預金が奪われるという不利益を被る。よって、上記行為は、財産上の利益移転の危険性があり、「恐喝」に当たる。
(2) Vは強い恐怖心を抱いており、畏怖している。
(3) Vは、丁に暗証番号を言っており、「財産上の利益を得」に当たる。
(4) よって、⑨の罪が成立する。
4 X銀行Y支店に入った行為は「侵入」に当たり、⑩建造物侵入罪(130条前段)が成立する。
5 ATMから1万円を引き出した行為は、「窃取」に当たり、⑪Xに対する窃盗罪が成立する。
6 以上より、⑦⑧⑨⑩⑪の罪が成立する。そして、⑧は⑨に吸収され、⑦と牽連犯となる(⑫)。⑩と⑪も牽連犯となる(⑬)。そして、⑫と⑬は併合罪(45条前段)となる。
(2473字)
※第3:①強盗の故意について(反町講師):
甲は「脅迫」を手段とする強盗を指示 → 乙は「暴行」を手段とする強盗を実行
甲の強盗罪の故意については,具体的事実の錯誤(手段としての「暴行」,「脅迫」についての主観と客観の不一致は,「強盗罪」という同一構成要件内における錯誤である)と考えて,法定的符合説により故意を肯定することが可能であろう。これに対して,「暴行」についての未必の故意を認定することもできるであろう(すなわち,甲は乙に「Vをナイフで脅して,その現金を奪ってこい。
」と指示したのみであり,強盗の手段として「暴行」を用いることを指示命令の内容から明示的には排斥していない。)。②丙との共謀(順次共謀)共同正犯の成否については言及できなくてもA評価を取れる(びょうそく氏)。→順次共謀に言及する場合:「丙の窃取行為につき甲にVに対する窃盗罪の共同正犯の成否:順次共謀の内容が窃盗罪を犯す旨の共謀であり、甲が認識していた強盗罪と異なるが、窃盗罪の限度で構成要件的重なり合いが認められ、窃盗罪を犯す旨の共謀が認められる。そして、同共謀に基づく実行行為が認められる。よって、同罪が成立する」(私見)。
※第4:サービス問題。丁の罪責について1.5ページくらい書けるように時間配分する(びょうそく氏)。
※第4.5:Vから暗証番号を聞き出した行為について,丁がX銀行の預金について「払戻しを受け得る地位」を得たことを根拠として,2項強盗罪(又は2項恐喝罪)の成立を肯定(東京高判平成21年11月16日)した場合,丁はX銀行の口座内の預金を管理・支配していることになるから,その後,X銀行のATMから現金を引き出した行為については,窃盗罪(奪取罪)ではなく,(不可罰的事後行為とするかはともかくとしても)占有離脱物横領罪の成否を検討することが整合的ということになろう。もっとも,名義人の委託なしに他人の口座から現金を引き出す(払い戻す)類型の事件において,判例は,一貫して奪取罪(窃盗罪,詐欺罪)を認定しており,答案上でもそのようにすべきであろう。この意味でも,東京高判平成21年11月16日は特殊な裁判例であったと位置付けるべきである(反町講師)。