(続)過去問ひとり答練 ~旧司H20刑法第2問 | ついたてのブログ

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第1 甲の罪責

1 指輪を盗み出した行為は、Xの占有する同指輪をXの意思に反して占有を侵害し自己の占有に移転させる行為であり、「窃取」に当たる。よって、①Xに対する窃盗罪(235条)が成立し、後述のように乙と共同正犯(60条)となる。

同指輪は、甲の母Yの所有物であり、甲の父Xの占有物である。よって、甲との間に「直系血族」関係が認められ、刑が免除される(244条1項)。

2 指輪を売却したいと告げた行為に、丙に対する1項詐欺罪(246条1項)が成立しないか。

(1) 同指輪が盗品であることを知れば、通常、古物商は買い取らないといえる。よって、同指輪が盗品であるか否かは、買い取って代金を払うか否かの判断の基礎となる重要な事項である。盗品であることを秘して同指輪の売却を申し込む行為は、盗品でないことの黙示の意思表示を包含する挙動による「欺」く行為に当たる。

(2) 丙は、同指輪が盗品であることに気付いており、錯誤に陥っていない。

(3) よって、②丙に対する1項詐欺未遂罪(250条、246条1項)が成立し、後述のように、乙と共同正犯となる。

3 10万円を費消した行為に、横領罪(252条1項)が成立しないか。

(1) 同10万円は、Y所有の指輪の売却代金であり、Yの所有物である。よって、同10万円は、「他人の物」に当たる。

(2) 「占有」は、遺失物等横領罪(254条)との区別のため、他人からの委託信任関係に基づくものであることを要する。

本件では、同10万円の所有者Yとの間に委託信任関係がない。

窃盗犯人乙との間には委託信任関係が存する。しかし、横領罪の第1次的保護法益は、物に対する所有権である。そうすると、委託信任関係は、所有者との間に存することを要する。よって、「占有」を欠く。したがって、横領罪は成立しない。

4 以上より、甲には、①②の罪が成立し、併合罪(45条前段)となる。

第2 乙の罪責

1 甲と相談のうえ二人で指輪を盗み出した行為に、③Xに対する窃盗罪の共同正犯が成立する。

なお、乙は、同指輪が「直系血族」(244条1項)であるX(民法779条、784条本文)所有の物であると思っていた。しかし、同項は処罰阻却事由を定めたものであり、故意の対象とはならず、同錯誤は故意を阻却しない。

244条1項による刑の免除はされない。なぜなら、同条は、「法は家庭に立ち入らず」との政策的な理由に基づくものであり、同条は、被害の処理が親族だけで可能な範囲においてのみ及び、親族関係は、行為者と占有者及び所有者との間に必要であるところ、乙と同指輪の所有者Yとの間に同条所定の親族関係がないからである。

2 甲が指輪を売却したいと告げた行為に、乙に、丙に対する1項詐欺未遂罪の共同正犯が成立しないか。

乙が同行為を甲に命じ甲が了承しており、甲乙間で詐欺罪を行う旨の共謀がある。同共謀に基づき甲が上記行為に出ている。乙は同指輪を換金した代金を独り占めにする動機があり、正犯性がある。よって、④丙に対する1項詐欺未遂罪の共同正犯が成立する。

3 以上より、乙には、③④の罪が成立し、併合罪となる。

第3 丙の罪責

指輪に傷があるので買取価格が10万円にしかならないと告げた行為に、甲に対する1項詐欺罪が成立しないか。

(1) 同指輪に時価100万円の価値があることを知れば甲は同指輪を10万円で売却することはなかったといえるので、同価値があるか否かは同指輪を売却するか否かの判断の基礎となる重要な事項である。上記行為は、同事項を偽っており、「欺」く行為に当たる。

(2) 甲は錯誤に陥り、同指輪を10万で売却するという交付行為をし、同指輪は丙に移転した。

(3)                        よって、甲に対する1項詐欺罪が成立する。

(1519字)

 

※第1.1:242条が適用される場面ではないので、窃盗罪の保護法益の論点はcutした。

     第1.2:有償処分あっせん罪(256条2項)は窃盗罪の不可罰的事後行為であり、成立しない。

     第1.3:①横領罪を成立させる場合

「(2) 同10万円は、同指輪を売却して代金を乙に引き渡すようにという乙からの委託信任関係に基づき占有する物である。乙は窃盗犯人であるが、窃盗犯人の所持する盗品等を奪う行為も窃盗罪とする以上、窃盗犯人との委託信任関係も保護に値する。

(3) 同10万円を遊興費として使った行為は、同委託の任務に背いてその物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思が発現する行為といえ、「横領」に当たる。

(4)                        よって、横領罪が成立する。

(5) 同10万円の所有者Yは甲の「直系血族」であり、委託者乙は甲の「同居の親族」である。よって、刑が免除される(255条、244条1項)。」

②乙に対する2項詐欺罪(246条)は成立しない。なぜなら、同罪が成立するとすると、誘惑的要素に鑑み詐欺罪に比して軽くした横領罪の趣旨を没却するからである。

※第2.1:窃盗罪の共同正犯は明らかに成立するのでコンパクトに書く(内藤講師)。

※第3:甲丙間には、「盗品を」買い取ることにつき意思疎通がないので、盗品等有償譲受罪(256条2項)は成立しない(内藤講師)。