第1 1について
Bは甲絵画所有権に基づきCから甲絵画を取り戻すことができるか。
1 ①AはCに対し甲絵画を売却している。②①のとき、Aは委任状を提示しており、顕名(99条1項)している。しかし、③①に先立ち、BはAに対して委任状を破棄するように言い、委任契約を解除しており、Aの代理権は消滅した(651条1項、111条2項、652条・620条)。よって、Aの代理行為は、無権代理行為であり、Bに効果帰属しないのが原則である(113条1項)。
もっとも、相手方が善意無過失の場合は、代理権の消滅を相手方に主張できない(112条)。本件では、Cが悪意であるとの事実はない。また、Bはこれまで何度か絵画をCに売っていたこと及びAはBの子であり未成年であるとはいえ18歳と成年に近いことからすると、Aの代理権の不存在を疑わせる事実はない。よって、Aの代理権の存在につきCに調査義務はない。したがって、Aに代理権があると信じたことにつきCは無過失である。以上より、Bは代理権の消滅をCに主張できず、①の行為の効果はBに帰属し、甲絵画所有権はCに移転し、Bの上記取戻しはできないことになる。
2 もっとも、Aは知人からの借金を返済するためにお金が必要であるとうそをつきBがそれを信じて甲絵画の売却をAに委任した。よって、Bは同委任契約を詐欺を理由に取り消すことができ(96条1項)、Aの代理権は遡及的に消滅する(121条本文)。したがって、①の行為は無権代理行為であるのが原則である。
もっとも、上述のように、①のとき、AはCに委任状を提示しており、代理権授与の表示(109条)が認められる。ただ、BはAの上記詐欺を理由に同表示を取り消すことができるのが原則である(96条1項)。なぜなら、同表示は意思表示でなく観念の通知であるが、観念の通知にも意思表示に関する規定が類推適用されるからである。しかし、Aの上記詐欺は第三者の詐欺(96条2項)に当たる。そして、相手方Cは同詐欺を知らないといえ、Bは同代理権授与表示を取り消すことができない(同項)。よって、同表示が認められる。
また、①の行為は表示された代理権の範囲内である。
そして、上述したように、Cは善意無過失である。
よって、109条に基づき、①の行為の効果はBに帰属し、甲絵画の所有権はCに移転する。したがって、Bは上記取戻しをすることができない。
第2 2について
Aは乙自動車所有権に基づきDから乙自動車を取り戻すことができるか。
1 前段について
①BはDに対し乙自動車を売却している。②①のとき、Bは代理人であることを示しており顕名している。③BはAの唯一の親権者であったので、①に先立ち、Bは代理権を有する(818条1項、824条)。そして、利益相反行為(826条1項)に当たるかは取引安全の見地から行為の外形より判断すべきところ、①の行為の効果はAに帰属しBは利益を受けないから、①の行為の外形からすると①の行為は利益相反行為に当たらない。よって、①の行為の効果はAに帰属し、乙自動車所有権はDに移転するのが原則である。
もっとも、Bは①のとき売却代金を自己の株式購入の資金とする意図であったので、①は代理人の権原濫用行為である可能性がある。
代理人の権限濫用意図につき相手方が悪意又は有過失の場合は相手方は保護に値しない。そこで、同場合には、93条但書を類推適用して、代理行為は無効である。
もっとも、BはAの親権者である。親権者が子を代理してする法律行為は親権者の広範な裁量にゆだねられている。そこで、特段の事情が存しない限り、代理権の濫用に当たらない。
本件では、Bは、上述のように、売却代金を自己の株式購入の資金とするという、自己の利益のみを図る意図を有しており、同特段の事情が認められ、Bの行為は代理人の権原濫用行為に当たる。よって、Bの同意図につきDが悪意又は有過失の場合には、①の行為は無効であり、乙自動車所有権はAに帰属したままであるので、Aは上記取戻しができる。
2 後段について
①②は前段と同じである。しかし、③①の1か月前に親権の喪失の宣告が確定しており、①は無権代理行為であるのが原則である。
また、112条は親権者による代理のような法定代理には適用されないと考える。なぜなら、未成年者本人に帰責性がない以上、相手方の取引安全よりも本人の静的安全を重視すべきだからである。
よって、乙自動車所有権はAに帰属したままであるから、Aは上記取戻しをすることができる。
(1848字)
※第1.1:本問のように、過去に代理権があったことを相手方が知らなかった場合は、112条の適用を認めないとする見解もある(「佐久間1P.283補論」)。
※第1.2:①112条は111条の次に規定されており、112条は一度存在した代理権が事後的に消滅した場合を予定している。よって、112条は、代理権が遡及的に消滅する場合には適用されない(「読み解く民法」P.70)。②AのBに対する詐欺が第三者の詐欺に当たることにつき「事例で学ぶ」P.55.2第2・第3段落に説明ある。
※第2.2:判例は法定代理への112条の適用を肯定する。