第1 1について
控訴が適法であるためには控訴の利益が必要である。控訴の利益は、基準の明確性より、原審における当事者の申立てと判決主文を比較して、後者が前者に及ばない場合に認められる。
本件では、Xは、第一審で代金支払請求の全部認容判決を得た。よって、上記場合に当たらず、控訴の利益は認められない。したがって、Xの控訴は不適法である。
第2 2について
1 (1)について
控訴不可分の原則より、Yの控訴提起の結果、第一審判決の確定が遮断され、主位的請求及び予備的請求が控訴審に移審する。
同判決は、主位的請求の全部を認容する判決であり、予備的請求については第一審判決が存在しない。そうすると、控訴裁判所が、心証どおり、第一審判決を取り消して主位的請求棄却、予備的請求認容判決をすることは、予備的請求について審級の利益を害するとも思える。しかし、両請求は法律上両立しない関係にあり、予備的請求についても第一審で実質的に審理がなされている。よって、控訴裁判所が上記心証どおりの判決をしても同審級の利益を害さない。したがって、控訴裁判所は上記心証どおりの判決をすべきである。
2 (2)について
Yの控訴提起の結果、(1)の場合と同様に、確定遮断及び移審の効果が生じる。
控訴裁判所の心証からすると、同裁判所は、第一審判決を取り消して主位的請求認容判決をすべきとも思える。しかし、第一審判決の取消及び変更は、不服申立ての限度においてのみなし得る(304条)。Yのみが控訴を提起しており、Yに対し、第一審判決よりも不利益な内容の判決をすることはできない(不利益変更禁止変則)。主位的請求認容判決をすることは、控訴したYに対し、第一審判決よりも不利益な内容の判決をすることに当たり、許されない。そこで、控訴裁判所は、主位的請求棄却判決は維持したまま、予備的請求認容判決のみ取り消して、同請求棄却判決をすべきである。
もっとも、このように考えると、両請求は非両立の関係にあるために、どちらかの請求は認容されるはずであるにもかかわらず、Xは両負けとなる。そこで、控訴裁判所は、Xに附帯控訴(293条1項)を促す釈明(149条1項)をすべきである。
(903字)
※第1:代金支払請求と代金債務の履行遅滞に基づく損賠賠償請求とは、訴訟物としては別個独立の請求権であって、代金支払請求の全部認容判決が確定したとしても、遅延損害金請求に対する影響はない。Xは、遅延損害金の支払を求めるのであれば、改めて別訴を提起できる(「解析民訴」P.434)。