過去問ひとり答練 ~司試平成25年刑事系第1問 ※2017/12/11改訂 | ついたてのブログ

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弁護士一年目です。ついたての陰から近況をつづります。

改訂しました(2017/12/11)。

第1 乙の罪責

1 Aの口をガムテープで塞いだ上、トランクを閉じ、B車を運転して本件採石場に向かった行為に①Aに対する殺人罪(199条)が成立しないか。

(1) 実行の着手(43条本文)は結果発生の現実的危険性ある行為を開始した時に認められる。

そして、行為者が意図した行為(第2行為)の準備的行為(第1行為)によって結果が発生した場合、第1行為と第2行為が密接に関連するときは、第1行為の時点で結果発生の現実的危険性を認めてよい。

本件では、上記行為によりAは声を出せなくなり、車外の人がトランク内に人がいることに気付いて救助する可能性がなくなる。よって、上記行為は、本件採石場でB車を燃やしてAを焼き殺す行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠である。上記行為終了後、殺害行為の障害となるような特段の事情もない。上記行為の場所から本件採石場までは1時間、20キロメートルしか離れておらず、時間的場所的接着性がある。よって、上記行為に殺人罪の実行の着手が認められる。

(2) Aは窒息死している。

(3) トランク内に閉じ込められていれば、車酔いして吐しゃするのは通常である。そして、ガムテープで口を塞がれていれば吐しゃ物が気管を塞いで窒息死するのも通常である。よって、上記行為の危険性が窒息死に現実化したといえ、因果関係が認められる。

(4) 乙はAを焼き殺そうと決意しており、殺意が認められる。もっとも、乙はAの窒息死を認識していなかった。しかし、認識した因果経過及び発生した因果経過が、ともに法的因果関係の範囲内にある。よって、故意は阻却されない。したがって、①の罪が成立する。

2 B車にガソリンをまき、丸めた新聞紙に火をつけてB車の方に投げ付けた行為に②自己所有建造物等以外放火罪(110条2項)が成立しないか。

(1) B車の所有者である甲がB車を燃やすよう指示しており、B車を焼損することについて甲の同意がある。よって、B車は、「自己の所有に係る」物に当たる。

(2) 上記行為はB車に点火する行為であり、「放火」に当たる。

(3) B車は炎上しており、独立して燃焼を継続しうる状態になっており、「焼損」に当たる。

(4) 「公共の危険」とは、108条、109条1項に規定する建造物等に対する延焼の危険のみに限られるものでなく、不特定または多数人の生命、身体または建造物等以外の財産に対する危険も含む。

本件では、CDEの車は不特定人の財産である。

炎上したB車の炎が地上約5メートルの高さに達し、その炎はB車の北側約5メートルの地点に停車していたC車に向かう北西向きの風によりC車に届いていた。その風が吹き続ければC車荷台に積載された引火性のあるベニア板3枚に引火してC車を炎上させる危険があった。そして、C車が炎上すれば、C車の北側に順に約1メートルずつの間隔で駐車していたD車E車も延焼する危険があった。よって、「公共の危険」を生じたといえる。

(5) 110条1項は「よって」と規定しており結果的加重犯である。よって、公共の危険発生の認識は不要である。 

本件では、乙は他の車に火が燃え移ることはないと考えており、公共の危険発生の認識がないが、②の罪の故意が認められる。よって、②の罪が成立し、後述のように甲と共同正犯(60条)となる。

3 以上より、乙には①②の罪が成立し、併合罪(45条前段)となる。

第2 甲の罪責

乙に対しB車を燃やすよう指示した行為について

1 ③Aに対する殺人罪の成否

実行行為とは、結果発生の現実的危険性のある行為である。他人の行為を利用する行為であっても、他人の行為を一方的に支配利用するときには、同危険性が認められ、実行行為性が認められる。 

本件では、甲が、トランク内にAを閉じ込めた状態であることを乙に秘している。よって、乙は本件採石場でB車を燃やすことを認識しているにすぎず、規範的障害の程度は弱い。また、甲が暴力団組長であるのに対し、乙は末端組員であり、甲の指示に従う立場にある。

しかし、乙宅から本件採石場まで2時間かかるところ、乙の運転開始から1時間後にAが意識を取り戻して叫び出した。Aの存在に乙が気づけば、組長の指示とはいえ、20歳の乙が怖気づいてA殺害をやめる可能性がある。Aに飲ませた睡眠薬が、本件採石場に到着するまで確実にAを昏睡させるものでない以上、甲は乙の行為を一方的に支配利用するといえない。よって、上記指示行為に③の罪の実行行為性は認められず、③の罪は成立しない。

2 ④Aに対する殺人教唆罪(61条1項)の成否

乙は、上記行為がAを殺害するためのものであることに気付き、甲の指示に従いAを殺害することを決意している。よって、上記行為は教唆行為に当たるとも思える。しかし、甲の指示があるというだけでは、殺人罪という強い規範的障害を乗り越えるのに不十分である。Aに対する恨みをはらすことが、A殺害を決意するに至った主たる動機といえる。この恨みは、日頃Aからいじめを受けていたことによるものであり、甲の上記指示行為とは無関係である。よって、甲の上記指示行為はA殺害を乙に決意させたとはいえず、教唆行為に当たらない。したがって、④の罪は成立しない。

3 ⑤自己所有建造物等以外放火罪の共同正犯の成否

乙は甲の上記指示を引き受けており、甲乙間にB車を燃やす旨の意思連絡が成立した。甲乙ともに、公共の危険の発生を認識していないが、⑤の罪の故意が認められる。よって、甲乙間に、⑤の罪を共同して実現する旨の共謀が認められる。

同共謀に基づき、乙は実行行為を行った。

甲は、上述したように、乙に優越する立場から、乙に上記指示をしている。また、甲は犯行に用いるガソリンを準備している。よって、甲は重要な役割を果たしており、正犯性が認められる。

したがって、⑤の罪が成立する。

(2373字)