・一度、紹介した「スペイン語の語源」の記述(pp.103-106)を参考に、アラブ語から派生した単語を見てみよう。
・スペインがイスラム教徒に支配されていた期間は、約800年間。(711-1492年まで。日本でいえば、奈良時代から平安、鎌倉時代を過ぎ、室町時代の半ばまで)。この間に、約4,000語がスペイン語に導入されたそうだ。ただ、その中で、1,500語は地名。派生語や、現在は廃語になったものを除くと、約850語が今も使われている。前置詞のhasta(〜まで)や、間投詞の、¡ojalá!(¡どうか〜でありますように!)、**もアラブ語由来。後者は、「アラーの神が望まれんことを」が原意だって。
・個別の単語を見ていくと面白い。「中世はアラブ世界は文化面・学術面においてキリスト教世界よりも優っていた。」(p.103)ので各分野での語彙がある。これに比べると、「ゲルマン起源の語彙」(pp.76-79)は戦闘に関連する語彙が多い。
・まず、アラブ語からスペイン語に入った単語を見てみると、a-,al-で始まるものが多いが、これはイスラム・スペインの大半を占めたベルベル人の言語に「定冠詞」はなく、一種の接続詞として名詞に「くっつけて」使用した事に拠るのではないか・・とされている。なので、イタリアなどほかの文化圏経由で英語にたどり着いた語彙には定冠詞がなく、一方スペイン語には定冠詞が残った例があげられている。
・例をあげてみると;砂糖(伊:zuccero,仏:sucre,英:sugar,西:azúcar)、綿(伊:cotone,仏:coton:,英:cotton,西:algódon),サフラン(伊:zafferano, 仏:safran,英:saffron,西:azafrán)、米(伊:riso,仏:riz,英:rice,西:arroz(元々は梵語起源))
・その他、分野ごとに語彙がならんでいるので、とりあえずそれを紹介して、中で、仏語、イタリア語で共通のものがあるか探してみよう。アラブ語は語源を示されてもいるが・・分からない!(猫に小判!)ので、ここでは他の言語でも、ほぼ同じ語彙があったら並べておこう。フランス語は青、イタリア語は緑、英語は紫,該当する西語は茶色で付記・・。
(政治・軍事)aduana(税関),douane,dogagna、alcalde(市長)、algualci(警吏)、arrabal(場末・郊外)、barrio(地区),hazaña(手柄)、jinete(騎手・騎兵)、rebato(奇襲・警報)、zaga(しんがり)。
(経済・商業)almacén(倉庫)、arancel(関税率)、arroba(アローバ(重量単位)、tarea(仕事)、tarifa(料金)、tarif,tariffa,tariff
(自然科学)alcohl(アルコール)alcool、alcol,alcohol、algebra(代数学)algèbre、algebra,algebra,
alquimia(錬金術)、alchimie,alchimia,alchemy,cenit(天頂)、cifra(数字)chiffre,cifra、
droga(薬品・麻薬)、drogue,droga,drug,guarismo(アラビア数字)、redoma(フラスコ)
(建築・生活)adobe(煉瓦)、albañil(左官)、alcázar(城:ラテン語起源)château,castello,castle、alcoba(寝室)alcôve,alcova,alcove,alfiler(ピン)、alfombra(絨毯)、alhaja(宝石)、almanaque(暦)almanach、almanacco,almanac,azotea(屋上)、azulejo(タイル)、gaban(外套)、marfil(象牙)、jarra(水差し)jarre,jar,taza(カップ),tasse,tazza,tazza
(飲食物、農作物)aceite(油)、albóndiga(ミートボール)、ajonjolí(胡麻)、atún(マグロ;ラテン語起源)thon、tonno,tuna,berenjena(茄子)、fideo(ヌードル)、jarabe(シロップ)、judía(インゲン豆)、limón(レモン: 梵語(サンスクリット語)起源))limon(古、現在はcitron。limonade=レモン・ソーダ),limone、lemon,naranja(オレンジ:梵語起源)orange,arancia,orange, sandia(スイカ)、toronja(グレープフルーツ:梵語起源)、zanahoria(ニンジン)
(その他)ajedrez(チェス:梵語起源)、asesino(殺人者)assassin,assassino,assassin,*azafata(客室乗務員)、azar(偶然)、hasard,azote(鞭)、azul(青い)azur,azzurro、balde(無駄な)、laud(リュート)、mezquino(けちな)、fulano(某)、halagar(賞賛する)、tambor(太鼓)tambour, tamburo
*客室乗務員(中近世には、籠(azafate)に王妃の装飾用品を入れた籠を意味した。そしてこの籠を持つ侍女をazafataと言った。これが一度、廃語となり、「客室乗務員」の意味で復活した。男性のパーサーはazafato。
**ojalá(オハラ)は、「どうか・・しますように」、「・・であれば良かったのだが」。例文としては、¡Ojalá (que) venga hoy!(どうか彼が今日来ますように。)接続法が使われる。