11月4日
『妻の生霊を見た男の話し』今昔物語 巻31第9話より
ジイタンだよ
『妻の生霊を見た男の話し』だよ
むかしね、ある身分ある人の家来にね、若い男がいたそうだよ。
この男がね、あるとき主人の使いで地方に赴いたよ。![]()
数日して役目も果たし、男は帰途に就いたんだけど、実はこの男には数年前にね、縁あって一緒になった妻があったんだよね。でもね、一緒になって数年も経つとあの倦怠期ってやつが訪れてね、この当時は妻にも飽き、あまり家にも帰りたくないなって気持ちだったんだよ。![]()
だもんだからわざとゆっくりゆっくり歩いてね、普通なら3日もすれば帰りつくところを、5日経ってもまだ帰りつかないんだ。![]()
でもね、かなり近くまで来て、明日にはとうとう帰りつくだろうって日の夜、いつものように旅籠に入って体を横たえ、眠りに就いたんだけど、眠ってすぐに夢を見たんだって。
その夢というのはね、役目を果たして帰る途中、夜になったのに旅籠に着かない。しかたがないから道端にあった粗末な小屋に入って体を休めているとね、パタパタと人の歩く足音がしてね、こっちに近づいてくるんだって。![]()
男はそっと戸の節穴から覗いてみるとね、近づいてくるのは女の人だよ。男はこんな夜更けにって思いながらもね、なお覗いていると、近くに来たその女の人とはね、なんと自分の妻なんだって。![]()
びっくりしたよ。男はね、まさかって思ったんだけど、間違いなく妻なんだって。なぜ妻がこんなところにって思い、もしかして自分の帰りが遅いので心配になってやってきたんだろうかなどとも思ったんだって。でもこんなところまで迎えに来るわけもなかろうなどと思ううち、妻はどんどん近付いてきたよ。![]()
男はもう考える余裕もなく、扉を開けて飛び出したんだよね。そして妻に向かって走ったよ。と、するとね、フッと妻は消えたんだ。フッとね。
そこで男は夢から覚めたんだけど、覚めるとね、突然、妻が恋しくなったんだって。なんだか分からないけど突然ね。そしてむしょうに妻に会いたくなったよ。![]()
男はね、夜が明けるのも待ち切れず、旅籠を飛び出すとね、一目散に故郷めがけて走ったよ。走って走って走って家にたどり着くと、驚いて飛び出してきた妻を抱き締めたんだ。![]()
それからどうしたかって、それからは妻を大切にし、仲良くいつまでも暮らしたんだって。![]()
こんな話し書いていたらね、ジイタンにもね、こんなことがあったのを思い出したよ。それはね、やはり倦怠期だったころのある冬の日、会社が終わって帰りの電車に乗ろうとしたんだけど、酔っていてね、上野からうっかり特急に乗っちゃって、福島県の郡山まで連れて行かれたことがあったんだよ。駅員さんにわけを話してね、その日はもう帰りの列車がないので駅で寝てね、翌朝一番の列車で戻ったんだけど、当時は家に電話なかったから連絡もできず、心配しているだろうなって思いながら寒さに震えて駅のベンチで寝ている時、むしょうに女房にね、つまり今のバアタンにね、会いたくなって会いたくなって、ああ女房っていいなーって思ったもんだよ。 へへ、へへへのへだね。
おわりだよ じゃ またね![]()