為替では購買力平価説という言葉がよく出てきます。「為替レートの変化は、両国の物価上昇率の差で決まり、物価上昇率が高い国の通貨は、低い国の通貨に比べて、長期的には、その差の分だけ安くなる」という通貨の実質的な価値に基づく考え方です。
手前の記事で、ビッグマックの価格から計算したドル円為替レートは、いわばビッグマック版購買力平価です。ビッグマック限定でも、かなり実績値に近い数字となりました。
そこで、より広範に日米のモノやサービスの価格の変化を反映する消費者物価指数を基準に購買力平価の理論値を計算してみると、やはり、長期的には実績値と非常に近い動きをしています。
為替レートの全体の変化のうち、この購買力平価の理論値である長期トレンドの部分に、物価上昇率の差に基づく通貨の実質的な価値の変化が反映されます。
一方、この長期トレンドと実績値の乖離(かいり)部分が短中期の循環部分で、通貨の「割安・割高」はここに表れます。この考え方で、3月末時点のドル円為替レート83円を評価してみます。
通貨の実質的な価値の変化を反映した長期トレンドである購買力平価の理論値が89円です。実績値との乖離の約6円が短中期の循環による「過度」な部分と整理できます。
したがって、現在は確かに「過度な円高」ということになりますが、表面的な水準はほぼ同じでも、乖離が54円にまで拡大していた1995年の円高局面ほど「過度」ではないとも評価できます。
このように為替レートの変化は、実質的な価値の変化を表す長期トレンドと、そこからの乖離となる短中期の循環に分けられ、割安・割高は、表面的な数字ではなく、この乖離度合いに表れます。
前回の記事でも触れましたがこの理論が有効なのは変動相場制を採用している通貨同士だけです。