走る。躍動。走るために生まれた者。
歩く。息を殺し。風揺るものと見紛う程。
狩る。一切無駄のない。命を奪う動作。
喰らう。一心不乱。そんな姿さえも。
飲む。水はそのために存在していた。
眠る。弛緩と緊張。偏りのない行為。
見る。濁り澄む眼。広く、確か。
出会う。同じ造りの。美しい獣。
繋ぐ。円。輪環の真。
恐れ。それは孤独。
成長。それは喜び。
別離。それは死。
孤独。それは病。
喜び。それは夢。
死。それは安らぎ。
老いた美しい獣は体を横たえた。
水が喉を通り過ぎたのは幾日も前のことで、
肉片の味はすでに忘れかけている。
草食動物の真似事をしてみたものの、所詮は戯の域をでない。
吐息は日に日にガサつく。
喰い散らかしたものの魂が、
ここぞとばかりに出て行こうとしているのだろう。
かまわない。
留める理由も、今はない。
横たえた体を起き上がらせる力はもうない。
次に瞼を閉じたら、それが最期と知っている。
随分と長く生きた気がした。
よく。
生きた。
生きさせてもらった。
肉もそれ以外も、たくさん食べた。
草も、少しだけ食べた。
口から目から体から。
たくさん感じた。たくさん食べた。
だから走れた。
この世界は自分が走るためにあったと見るもの全てが思うほど、美しく。
遠くで何か聞こえた気がした。
捕食者の歓喜か。
被食者の悲鳴か。
観察者の驚嘆か。
判別のつかぬまま、耳は閉じた。
そして、瞳は最期にうつした。
永遠に廻り続ける世界の刹那を。あるいはその全てを。
美しい獣は息を引き取って、駆け出した。
次のフィールド。
次の世界。
あるいは今、この場所で。