ふたつの音が鳴り響く

それは、誰も聴いたことのない音楽の始まり!

 

彼は理想を胸に、未来を信じ、自由と進歩を求め

隣国の革命にも心躍らせた

 

彼の音楽は時代を追い越し

ときに楽器さえ置き去りにする

迷子になるトランペット

 

彼は音楽の革命児

だからその男を本気で英雄と信じた

 

 

Ⅱ 

 

しかし男が皇帝に即位したことで

輝きは色褪せ

男はただの俗物となる

転調と不協和音

彼は落胆と怒りを胸に

その男の思い出のための葬送の曲を書いた

 

 

 Ⅲ

 

凱旋を知らせる軽快なホルン

風が野を走り抜け
影がそれを追いかける
世界は跳ねるようなリズムとともに
再び明るさを取り戻す
だがその底には
小さなわだかまりが残っている

 

 

Ⅳ 

 

ひと粒の種がそっと土に埋められる
それには未来が潜んでいる
 

旋律はゆっくりと形を変え
枝を伸ばし 葉を広げ
光も闇も受け入れながら育っていく
 

折り重なる変奏のうちに息づく

音楽の自由

砕けた理想の欠片さえ

この変奏の輪の中では
新しいメロディの糧となる

 

それは失望を超えた、新しい世界の始まり!

 

 

 

 

 

クラシック音楽史のなかで、ベートーヴェンの交響曲第3番《英雄》は、古典派からロマン派への決定的な転換点と位置づけられている。規模の拡大、劇的構成、主観的感情の前面化によって、この作品を境に、音楽は貴族のサロンを彩るものから、人間そのものを描く普遍的な純粋芸術へと変貌した。【読む交響曲(Kindle版)より】