焦点:パイロット不足の救世主か、米軍ヘリ出身者の転身が急増 | 人生の水先案内人

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[シカゴ 23日 ロイター] 

 

- 米陸軍のパイロット、ショーン・ペレズさんはその日、攻撃用ヘリコプター「アパッチ」を10時間操縦し、アフガニスタンの地上で重要ターゲットや火砲・兵器を探索する特殊部隊の兵士たちのために援護射撃を行った。

 

明け方に基地に戻ったペレズさんは真新しい軍服に着替え、次のキャリアをつかむべく、自分の小部屋にこもった。目指すは民間航空機のパイロットだ。

 

2017年8月のこの日、ペレズさんはビデオ面接を受けて無事に採用された。

 

彼以外にも、世界的なパイロット不足を何とか緩和しようとする国内航空会社からの魅力的な条件提示に応じ、民間機パイロットに転じた米軍ヘリパイロット出身者が何百人もいる。

 

ペレズさんは、米国で最も需給が逼迫している雇用市場の1つでうまくチャンスをつかんだ。

 

逼迫の原因は、何年にもわたる採用の低迷、大手航空会社での大量の定年退職、そして連邦航空局(FAA)の規則改正により、2013年から最低訓練時間数が250時間から1500時間に引き上げられたことである。

 

軍用ヘリ操縦士に対する航空産業の積極的な採用姿勢は、FAAが最低訓練時間数を引き上げて以来、新たな民間機パイロットを迅速に訓練するために生じている歪みを最も明白に示す例となっている。

 

旅行需要は大きく伸びている一方で、航空産業の成長はパイロット不足のために危うくなっている。

 

航空コンサルタントのキット・ダービー氏によれば、航空各社は10年前には2万1000ドルだった初任給(賞与を除く)を、2018年には5万4000ドル(約590万円)と2倍以上に引き上げることを余儀なくされている。

 

38歳のペレズさんは現在、ユナイテッド航空の地域部門であるユナイテッド・エクスプレスの飛行機を操縦しているが、初任給は高く、訓練費用は会社持ちだった。

 

ロイターの調査によれば、米国の国内航空会社10社は、ペレズさんのような軍用ヘリパイロットに対して民間機転向用の訓練費用として最大5万ドルを提供しており、さらに契約時ボーナスを上乗せしている場合もある。

 

ペレズさんはトランス・ステイツ航空から訓練費用として3万8000ドルを提供されたが、実際にかかった費用は2万ドルで、差額はペレズさんの懐に入った。

 

アフガニスタンを離れて数ヶ月後には、50人乗りの短距離ジェット旅客機を飛ばしていた。

 

「仮に訓練費用に10万ドル払わざるをえないとしても、その分を取り戻す、いや、それ以上に稼げるはずの現場が待っている」と、ペレズさんは言う。

 

地域航空会社によるヘリコプターからの移行訓練プログラムは、大手航空会社への「フロースルー契約」を提供しており、新規採用されたパイロットは、数年以内に大手航空会社との採用面接(場合によっては採用そのもの)のチャンスが得られる。

 

双発機以上のジェット旅客機はヘリコプターよりも約5倍も速度が速く、操作パネルも複雑だ。

 

熟練したヘリパイロットでも、固定翼機用のFAA証明と最低飛行時間をクリアする必要がある。

 

ペレズさんにとって、民間パイロットへの転身は自然に感じられた。

 

「対空砲火を浴びた経験は何度もあるし、厳しい任務をこなしてきた」と彼は言う。「とはいえ、民間機のコクピットに足を踏み入れたら、謙虚に、一生懸命やるだけだ」

 

 

<賢明な抜け道>

航空会社が軍のパイロットを採用したがる最大の理由は、FAAによる新たな訓練規則では、軍パイロット出身者に関しては750時間の追加訓練しか求められていないからだ。

 

民間機パイロットのライセンスを目指す民間人に義務付けられる1500時間の半分である。

 

軍用ヘリのパイロットに必要なのは、固定翼機を飛ばす追加訓練だけであり、これには約90日間を要する。

 

一般人が民間機パイロットのライセンスを取るには何年もかかるし、費用も10万ドルを超える。

 

陸軍の熟練パイロットから民間機パイロットに転じたエリック・サビストン氏は、「私たちはパイロット不足に対する最も手っ取り早いソリューションにめぐりあったのだ」と語る。

 

彼は2017年12月、ヘリコプター(回転翼機)のパイロットがジェット旅客機に転向するのを支援するため、「ロータリー・トゥ・エアライン」グループを立ち上げた。

 

非営利の同グループには7000人以上のパイロットと整備技術者が加入しており、航空会社の移行訓練プログラム策定にも協力している。

 

アメリカン航空傘下の地域航空会社エンボイ・エアでは、2018年に新規採用したパイロット701人のうち、4分の1以上が軍用ヘリのパイロット出身者だという。

 

ちなみに、2017年は11%、2016年には5%だった。

 

2019年のパイロット採用予定は626人だが、約4分の1は回転翼機からの移行プログラムを経由する見込みだ。

 

エンボイでパイロット採用を担当するメーガン・リオッタ氏は、「以前は誰も関心を抱いていなかった未開拓のパイロット候補の宝庫だ」と言う。

 

採用担当者によれば、軍用ヘリのパイロット出身者は、全般的にジェット機との速度や操縦の違いにすばやく順応し、他のパイロット志願者に比べ、就職率も高いという。

 

アメリカン航空でパイロット採用担当ディレクターを務めるデビッド・タトゥム氏は、「彼らは、素早い判断力と高い順応性を訓練する環境を経てきている」と語る。

 

軍パイロット出身者にとっては、航空会社による求人の急増は、沖合石油掘削リグに向けてヘリを飛ばす仕事の減少を補う効果がある。

 

現在エンボイで雇用されているパイロットは、副操縦士クラスの場合、初年度で約6万ドル以上を稼いでいる。

 

エンボイによれば、2年以内にさらに報酬の高い機長に昇格する見込みもあり、その後6年以内には国内トップの航空会社であるアメリカン航空に移籍できる可能性もある。

 

アメリカン航空でのパイロットとしての最高報酬は30万ドルを超える。

 

 

<給与・コストの増大>

地域航空会社がパイロット募集・維持のために投じる費用が増大するにつれて、コスト削減のために地域航空会社に国内路線を任せることが増えてきた全国規模の大手航空会社にとって、運航委託費用が高くつくようになってきた。

 

「キャパシティ購入契約」と呼ばれるこの種の契約では、主要航空会社が地域航空会社による運航サービスに対して支払う価格に人件費が加味されている。

 

地域航空会社との提携を行っていないサウスウェスト航空の最高収益責任者であるアンドリュー・ワッターソン氏は、「彼らのコスト削減手法は効力を失いつつある」と語る。

 

航空コンサルタントのサミュエル・エンゲル氏によれば、地域航空会社におけるパイロット関連コストが50%上昇すると、70席クラスの航空機における1席・1マイルあたりのコスト総額が7.7%上昇する。

 

これによって、1席・1マイル基準で見た場合の地域航空会社のコスト優位性が一定程度損なわれてしまう。

 

航空会社はこれまでのところ、手荷物や席指定に対する追加料金を引き上げるなどして、コスト上昇分を利用者にうまく転嫁している。

 

だがアナリストらは、こうした料金の引き上げをどこまで続けられるか疑問視している。

 

米航空機大手ボーイングの試算では、今後20年間で、民間航空機、商用機、民間ヘリコプター産業において、79万人のパイロットが新たに必要になるという。

 

前出のダービー氏は「問題は、そのニーズに応えるうえで、十分な数のパイロットを養成する体制が整っていないという点だ」と語る。

(翻訳:エァクレーレン)