エジプトは穀物市場のファラオになれるか | 人生の水先案内人

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世界最大の小麦輸入国のエジプトが穀物市場に揺さぶりをかけている。

年明けに突如、小麦の検疫基準の規制を強化する方針を打ち出し、国際的な穀物メジャーを動揺させた。

さらに中東・北アフリカ地域で初となる農作物を扱う商品取引所を2016年末までに開設する計画を発表。

小麦を中心とする穀物の国際相場への影響力を高め、価格の透明性を確保することで国内農家の保護も狙う。

穀物価格の高騰が政権への不満を生み、独裁者を打倒した11年の「アラブの春」のきっかけの一つとなった。

それだけに、穀物価格の安定や透明性はエジプトを率いるシシ大統領の生命線だ。アラブの春から5年。

エジプトの挑戦が始まった。

 年明け、エジプトは米穀物メジャーのブンゲが出荷した小麦の受け取りを拒否した。

農産物検疫当局が突然、輸入小麦に麦角菌ゼロを求める厳しい検疫措置の導入の方針を掲げたからだ。

国際的に運用されている基準をはるかに上回る。

エジプトはフランスやカナダからの貨物の受け入れも拒否。

穀物メジャー側は新しい措置は守ることができない、とエジプトが実施する小麦の入札への参加をボイコットする事態に発展した。

 前年の記録的な豊作と高水準の在庫による需給緩和状態に見舞われている穀物市場にとって、エジプトの行動は混乱をもたらした。

パリで取引される小麦価格は2月上旬、年初から6%超も下落。

結局、食糧政策を最優先課題ととらえているシシ政権は、新検疫措置の撤回を発表。

3月に農産物検疫当局のトップを更迭。

エジプトは国連食糧農業機関(FAO)の定める基準に従うことを表明し、混乱の幕引きを図った。

年明けの混乱に象徴されるように、エジプトなど中東・北アフリカ地域は、穀物業界にとって無視できない大きな存在だ。

中東・北アフリカ地域は人口増加で食糧需要が急増している。

一方で、水資源の不足や耕地の拡張が難しいことから、穀物の輸入は増え続けている。

エジプトの14~15年の小麦輸入量は1100万トンと世界シェアの7%を占める。

中東・北アフリカ地域は20%強となっており、「市場拡大を狙って世界の穀物生産国から熱い視線を集めている」(丸紅の穀物第一部の中沢真之氏)。

従来は欧米の穀物メジャーの独壇場だったが、最近ではロシアやウクライナ、カザフスタンの穀物が中東・北アフリカに向かっている。

特に湾岸協力会議(GCC)諸国では欧米から黒海諸国に切り替える動きが強い。

ロシアやウクライナの通貨安や海上輸送費の下落がこの傾向に拍車をかけている。
 
ただ、輸入への依存が高まれば、国際相場に振り回されることになる。

「穀物相場のボラティリティーが、中東・北アフリカ地域の政情不安をもたらす」と資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は指摘する。

国際的な穀物相場に振り回されるだけでなく、自ら影響力を高めようとエジプトは動き出した。

「16年末までに中東で初となる商品取引所を開設する」。

ハリード・ハナフィー供給相は2月上旬に開いた記者会見でこう宣言した。

ヨルダンに本社を置くシグマ・インベストメントと共同実施したフィージビリティースタディー(事業化調査)は終了し、現在は規制の作成に取りかかっている。

構想では小麦、トウモロコシ、大豆など6つの農産物に加え、金と原油を上場させる。

エジプトが輸入する小麦の8割が取引所で売買されることになるという。

 エジプト政府は新取引所をシカゴや欧州などと並ぶ国際市場の一つとして位置づけたいと考えた。

「(貿易量も多い)欧州を中心とした小麦相場との連動性が深まるだろう」(丸紅の中沢氏)。

穀物の取引量の拡大に備え、カイロから北方にある地中海の港町ディムヤートに、大型タンカーが停泊できる巨大な港湾施設を建設中だ。

スエズ運河にも近く、中東やアフリカ、欧州向けの海洋の要衝となる可能性がある。

国内農家を保護する目的もある。

目指すのはシカゴ・マーカンタイル取引所を抱える米国の農業経営だ。

米国では農家による先物市場の活用が活発だ。

農家は農産物の販売価格を決めるときに、シカゴ市場の先物価格を参考にする。

「農家は先物市場で高値をつけたときに売りに出している」(コンチネンタルライスの茅野信行代表)など先物市場を利用することで、農業経営の安定を図っている。

農務省の関連組織が農家に先物市場の使い方を指導。農家が最大限の収入を確保できるよう支援している。

 エジプトでは、政府が決めた価格で小麦を農家から買い取っている。

価格の決定方法に不透明感があり、農家の不満の原因にもなっていた。

取引所の開設によって、政府は市場で決まった透明性がある価格を提示できる。

エジプト有力紙のアルアハラムも「従来の政府が提示する安い価格で、農家が買い取りに応じる必要がなくなる」と評価する。

先物のヘッジ機能で価格変動から農家の経営を守ることも期待されている。

農家の経営を安定させることで、国内の穀物生産を増やし、海外依存度を引き下げたい意向だ。

農家の収入の確保にもつながり、多くの農業人口を抱える国内政治の安定にもつながる。
 
ただ、エジプトの国内市場と、シカゴなどの国際市場との連動が深まることでリスクも伴う。

国際市場と国内市場のゆがみを利用して、投機筋は裁定取引を仕掛けるなどマネーゲームの場になる恐れもある。

国内農家の保護を図るつもりが、逆にグローバルマネーの潮流に翻弄される可能性もある。

穀物市場でファラオ(王)となれるか。

エジプトの挑戦は続く。