韓国に駐在するマーク・リッパート米国大使が5日、ソウルで暴漢に切りつけられ大けがをした。
韓国の保守系紙は、米韓の同盟関係を悪化させてはならないと主張。
一方、左派系紙は韓国政府が今回の事件を機に、人権侵害につながるテロ防止法の制定に走らないよう訴えた。
中国紙は、事件を契機に米韓関係に変化が起きる可能性を視野に、韓国の動きを詳細に分析すべきだとの見方を示した。
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中央日報(韓国)
■許されない利敵行為
リッパート駐韓米国大使の襲撃事件について、韓国の保守系紙には「従北(北朝鮮に追従する)勢力」による犯行であることを指摘し、事件が米韓同盟強化の好機であるとの見方が目立った。
朝鮮日報は7日付社説で、「韓国では金基宗(キム・ギジョン)容疑者のように北朝鮮に追従する過激で暴力的な人間が自由に活動している」とし、金大中(デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権が金容疑者に政府の職務を委ねていたことなどを挙げ、「金容疑者は1人であのような人間になったわけではない」と主張。
韓国の従北団体から「第2の金容疑者がいつ出てきてもおかしくない」とした。
同紙は別のコラムでも、「『平和』を口にしつつも、非武装の外交官を切りつけるテロに及ぶという矛盾が、従北勢力には正常行為とみなされる」とした上で、「今回の事件は、従北勢力が言う『平和』にだまされてはならないという教訓を残した」と論じた。
同紙は9日付の社説でも、「従北勢力の活動を後押しし、擁護してきた一部野党関係者の責任も決して小さくはない」と左派系の野党を批判した。
一方、中央日報は事件翌日の6日付社説で、事件について「韓米同盟への攻撃であり、決して許されない利敵行為」と表現。
韓国政府に対し、「事件が韓米同盟への逆風を招かぬよう万全を期す必要がある」と求めた。
一方で「韓国の態度次第では、今回の事件が韓米同盟の悪材料でなく、同盟をさらに強める契機になる」との理屈を展開した。
翌7日付の社説で同紙は、「事件は一部の過激主義者の仕業で、韓国国民による政治的な行動ではない」とする米国の元国務省高官や専門家の言葉を紹介。「事件でリッパート大使は韓国人とより強く結ばれた。
韓米間に亀裂を生じさせることがテロの目的なら、逆効果を招いている。韓米同盟をさらに強める契機にしなければならない」と訴えた。
(ソウル 名村隆寛)
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ハンギョレ(韓国)
■対米譲歩の口実にするな
リッパート駐韓米国大使襲撃事件を受けて、韓国左派系紙は朴槿恵(パク・クネ)政権の対米譲歩外交に警戒感を示している。
10日付ハンギョレは、「米大使襲撃はテロ防止法や高高度防衛ミサイル(THAAD)と別個の問題だ」との社説を掲げ、テロ防止法の法制化や、THAADの韓国配備に向けた与党セヌリ党内の性急な動きを批判した。
同紙はまず、そもそも米国政府が大使襲撃を「テロ」とは表現せずに、「暴力行為」と規定し、個人による偶発的な犯行とみていると強調。
事件後、セヌリ党内で「第2、第3のリッパート大使を出さないためにもテロ防止法が必要だ」との声が強まっているが、たとえ同法が整備されても「今回のような事件を防ぐことはできない」と主張した。
テロ防止法は2001年ごろから国会などで立法化の是非について議論されているものの、左派系勢力は情報機関の強権化や人権侵害への懸念などから批判的な立場を取ってきた経緯がある。
また、米国が韓国配備を検討中とされる最新鋭の弾道ミサイル迎撃システム「THAAD」をめぐっても、同紙は慎重論を展開した。
中国が近隣国へのTHAAD配備に神経をとがらせる中、朴政権はこれまでTHAADの配備に関しては「米国から要請されていないので考えてもいない」という曖昧な対応に終始してきた。
だが、襲撃事件後、やはりセヌリ党内で「公式に論議をして党の方針を決めよう」という意見が広がっている。
同紙はこうした動きに対し、「『米国に申し訳ないから米国が望むことをしてあげよう』という方式で韓国配備に向けて進んでいくのは正しい判断だろうか」と疑問を呈している。
米大使襲撃事件は、韓国社会において保守系勢力と左派系勢力の対立を際立たせる結果を招いた。
保守系紙の中央日報が「事件を韓国社会の分裂ではなく、成熟に向けた契機にしなければならない」と11日付社説で訴えたように、安易な保革対立を戒める意見も出ている。(ソウル 藤本欣也)
環球時報(中国)
■反米感情、韓国に確実に存在
中国共産党機関紙、人民日報の傘下にある環球時報は6日付の社説で、リッパート駐韓米国大使が襲撃された事件に対し、「1人の極端な人物による行動ながらも、米韓同盟に反対する感情が韓国内に確実に存在していることを示した」と論評した。
加えて、「韓国においては歴史的に反米主義が浮き沈みしている。
駐留米軍に対する韓国社会の受け止め方は複雑だ」などと表現。
事件を通じた韓国の対米世論の揺れ動きを引き合いに出しながら、中国からみて地政学的に目障りな米軍基地の存在を牽制(けんせい)する意図をうっすらとにじませた。
中国外務省の華春瑩報道官は事件後の記者会見で、「不幸な事件が起きたことに遺憾の意を示す。
リッパート大使の早期回復を祈る。
韓国が適切に対処すると信じる」との当たり障りのない発言に終始した。
新疆ウイグル自治区などで多発する反体制的な暴力事件は「テロ行為だ」として徹底的に取り締まる中国だが、今回は「不幸な事件」との表現にとどまった。
韓国内での反米勢力の動きは中国にとってむしろ好都合との“暗示”なのかもしれない。
環球時報の社説はさらに、金容疑者に対し、「中国のネット上で“よくやった”との声が上がった」と紹介した上で、「今回のソウルでの事件に中国はなんら関係はないが、1件の突発的な国際事件がどのような影響をもたらすか、どのような結果を生み出すか、じっくり観察する」として、事件を契機に米韓の同盟関係や駐留米軍の役割に何らかの変化が起きないか、中国は詳細に分析すべきだとの見方を示した。
米中の間で揺れる韓国をいかに引き込むか腐心している中国。
今回の大使襲撃事件が“奇貨”になるかもしれないとの思いが浮き上がってくる。
習近平指導部は「抗日戦争勝利70年」の今年、歴史問題で安倍晋三政権を追及する上でも、韓国との反日共闘体制づくりを加速させたい考え。
米韓関係が今度どう動くか、固唾をのんで見守ることになりそうだ。
(北京 河崎真澄)
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