浜を歩く-津波被災地はいま・唐桑半島鮪立、小鯖(気仙沼)/海隔てる防潮堤に迷い | 人生の水先案内人

人生の水先案内人

全国の倒産情報をいち早くお伝えします。

唐桑半島鮪立、小鯖(気仙沼)/海隔てる防潮堤に迷い

宮城県が高さ9.9メートルの防潮堤を計画している鮪立漁港。防潮堤と同じ高さにオレンジ色の漁網が張られている。右奥は大島=6月10日、気仙沼市唐桑町鮪立

 岸壁の復旧工事のけたたましい音が耳を突く。


気仙沼市中心部から車で約30分。

唐桑半島の根っこにある鮪立(しびたち)漁港を訪ねた。

◎「必要、でも高すぎる」

<海抜約10メートルに>
 被災した住宅跡が続く海岸沿いを歩くと、オレンジ色のネットが宙に張られていた。

高さ10メートルはあろうか。


 「半分くらいの高さでもいいと思うがなあ…」
自宅が津波にのみ込まれた無職鈴木盛雄さん(74)がネットを見上げ、ため息をついた。

鮪立地区には今、宮城県による海抜9.9メートルの巨大防潮堤計画が持ち上がっている。

宙に張ったネットは地元住民が高さを想像しやすいように県に要請し、掛けられた。
 

同地区は震災で16人が亡くなった。

切り立った急斜面が海に迫り、平地が少ない。

計画する防潮堤は、断面が台形型で底辺は20~30メートル。

約300メートルにわたる分厚いコンクリートの壁が港をぐるりと囲む。
 

「津波は本当に怖かった。

だから、防潮堤は必要だと思った」と盛雄さん。

ただ、防潮堤ができれば、見慣れた海はすっぽり隠れてしまう。

「高すぎるなあ」という思いは拭えない。


震災前、ワカメなどの養殖を営んでいた鈴木忠勝さん(81)も、高さに疑問を抱いていた。
 

「崖があるから、逃げればいいんだ。海で働く人が多いのに、使いづらい港になる」

<避難道で十分>
 津波が襲った時、忠勝さんは仲間と集落の奥にある神社に逃げた。

「避難できる道路ができれば十分でねえか」。


長年、海と生きた忠勝さんが思いの丈を話す。
 

鮪立漁港から南へ車で約3分。トンネルを抜けると、小鯖(こさば)漁港に着いた。


大島が眼前に見える。震災では住民の6人が命を落とした。

ここにも高さ9.9メートルの防潮堤計画がある。


高台にある金毘羅(こんぴら)

神社を挟み、長さ150メートルと100メートルの直線型の防潮堤が二つ建つ。
 

自治会長を務める鈴木貞治さん(64)の心は揺れていた。


自治会はことし2月、県の計画を一度は受け入れた。

防潮堤がないと地域の整備が進まないと聞いたからだ。

時間がたち、今は「自然が壊れ、『こんなものを造って』と後世に言われかねない」と反対の思いが強い。

<過疎化を懸念>

 貞治さんの元には「今更、議論を蒸し返さなくても」という住民の声も届く。

それでも「防潮堤に頼らず、逃げる意識を未来永劫(えいごう)持ち続ける地域にできないか」と望みをつなぐ。

県が計画する防潮堤の高さは、数十年~百数十年に1度の割合で発生が予想される明治三陸津波級の津波を想定する。

鮪立や小鯖など唐桑半島西部の湾奥部では津波想定高を最大8.9メートルに設定。

県は「安全性を最大限考慮し、一連の海岸として整備する」と言う。


15日、集会所で住民組織「鮪立

まちづくり委員会」と県側の意見交換があると聞いたが、延期になっていた。

戦略の再構築を図るためという。

 委員長の鈴木伸太郎さん(69)は「始めに9.9メートルありきだ」と不満を語った後、大学の研究者が提唱する5メートルの防潮機能付き道路を軸にした対案を説明してくれた。


 「住民の意向に沿わない建造物ができれば過疎化がますます進む」と伸太郎さんは懸念する。

 防潮堤の高さは地域の未来を決定づける。

浜は今も悩み続けている。

(報道部・片桐大介)


2013年06月22日土曜日