11月14日(ブルームバーグ):
高級車ベントレー2台が並ぶスペースと噴水のある庭、ホームシアター、所狭しとコレクターアイテムが飾られたスポーツバーを通り抜けた奥に、トム・デマーク氏のオフィスはある。
落ち着いた木張りの壁の隠れ家のような部屋には6つのコンピュータースクリーンが光を放つ。
オフィスはアリゾナ州スコッツデールの邸宅の主寝室の隣だ。ブルームバーグ・マーケッツ誌12月号が報じた。
相場の方向を予測する数学モデルが正しく機能しているかチェックするために、深夜に起き出して株や債券、商品、通貨のチャートを研究することが頻繁にあるため、寝室とオフィスは近くなくてはならないのだとデマーク氏は説明した。
1971年に投資事業を始めたデマーク氏は以来、ポール・チューダー・ジョーンズ氏やレオン・クーパーマン氏など、ウォール街の著名投資家にアドバイスしてきた。
今はSACキャピタル・アドバイザーズ(運用資産140億ドル=約1兆1100億円)の創業者、スティーブン・コーエン氏とパスポート・キャピタル(同34億ドル)の創業者ジョン・バーバンク氏のコンサルタントを務めている。
SACとパスポートはいずれもデマーク氏の会社、マーケット・スタディーズに出資している。
デマーク氏の机の上の電話の1つはコーエン氏だけにつながる専用ラインだ。
コーエン氏のヘッジファンドは1993年以来、1年を例外として毎年プラスの運用成績を挙げている。
デマーク氏の信奉者たちは同氏の市場予想を限りなく絶賛している。
パスポートのバーバンク氏は、デマーク氏のアルゴリズムは今まで試したどのシステムよりも予測能力が高いと言う。
「デマーク氏の指標を使うと、今まで白黒テレビで見ていた市場をカラーテレビで見ているように感じる」と同氏は話した。
例えば、デマーク氏は2011年9月22日にS&P500種 株価指数が近く1076で底を打ち、そこから20%上昇すると予測した。
その8営業日後にS&P500種は日中の安値1074.77を付けた後、12年1月10日までに20%上昇した。
7月の原油先物相場上昇と8月の銀相場高騰の前にも、デマーク氏のシステムは買いシグナルを出した。
デマーク氏(65)は繰り返される数学的なパターンを見つけ出すために毎日チャートとにらめっこをしている市場予測者たちの1人だ。
業績や経済成長率などのファンダメンタルズ(基礎的諸条件)に基づいて予測するアナリストらと一線を画す彼らは、自分たちをテクニカルアナリストと呼ぶ。
デマーク氏はファンダメンタルズは確かに重要だと考えている。
同時に、相場はフィボナッチ・シーケンスと呼ばれる数列および、これと密接に関連した黄金比 に基づいて動く波に導かれると信じている。
フィボナッチ数列というのは各数字が前の2つの数字の和である無限数列で、0、1、1、2、3、5、8、13、21、34と続く。
ある数字を1つ前の数字で割ると、商は黄金比と呼ばれる1.618の周辺の値になる。
テクニカルアナリストらはこれらの数字が市場の方向を予測するのに有用だと考える。神聖な予言だとさえ言う者もいる。
シンシア・ケース氏は「この数学モデルは宇宙の構造の中に埋め込まれている」と話す。
同氏のケース(ニューメキシコ州サンタフェ)は波動分析を使って毎週、原油と天然ガス相場を予測する。これらの数字は「神の言葉だ」という。
デマーク氏らのチャートに対する関心が高まった背景には2008年以降、市場の連動が強まっていることがある。
欧州債務危機のようなマクロイベントは弱い会社も強い会社も同じように株価を下落させる。
トレーダーらは有利に戦える武器を求めており、相場の方向の変わり目を見つけようとするデマーク氏のシステムはその1つだと、バーバンク氏は述べた。
「ポジションを組んだり解消したりする際の優位はこの上なく重要だ」という。
ファンダメンタルズを重視する伝統的な投資家とクオンツファンドの運用者はテクニカルアナリストを見下している。
ロンドンのクオンツヘッジファンド、ウィントン・キャピタル・マネジメントのマシュー・ベドール最高投資責任者(CIO)に言わせれば、「テクニカル指標をわれわれの仕事と比較するのは、薬草と製薬会社の研究を比べるようなもの」だ。
ウィントンは物理学や数学の博士号取得者をスタッフに抱える。
投資家ウォーレン・バフェット氏もただ過去のデータを研究するだけで、株価や指数の方向を予測できるという考えには懐疑的だ。
「チャートを上下逆さにしてみても答えが同じだった時に、テクニカル分析は機能しないと気付いた」とバフェット氏は2005年にバンダービルト大学での講演で聴衆を笑わせた。
スポークスマンによれば同氏は今も同じ考えだという。
一方、オズワルド・グルーベル氏は、これについてはオマハではなくスコッツデールの賢人を信じると言う。
スイスの2大銀行、クレディ・スイス ・グループとUBSの両方で最高経営責任者(CEO)を務めたグルーベル氏は、デマーク氏のシステムしか使わないという。
トレーダーとして鍛えられた同氏はデマーク氏のシステムを使って自身の資産を運用する。
システムは「全員が売り終わって私が買い始めるべき瞬間を教えてくれる。デマーク氏のシステムはこの50年で私が見た中で最高だ」と述べた。
チャートから市場を知ろうとするテクニカルアナリシスを始めたのはチャールズ・ダウ氏。
1889年にウォールストリート・ジャーナルを創刊した同氏は工業株と輸送株の指数を比べ始めた。
一部の金融学者は幅広いテクニカルアナリシスの分野を真剣にとらえている。
マサチューセッツ工科大学の金融学教授、アンドルー・ロー氏は2009年にこれをテーマに「The Heretics of Finance(仮訳:金融の異端者たち)」という本を出している。
同教授は「テクニカル分析の強みの一つはセンチメントを捉えていることだ」と指摘。
「これは定量分析やファンダメンタルズ分析が無視している要素だ」と説明する。
ロー教授は為替トレーダーがしばしばテクニカル分析を利用すると述べ、為替相場に影響を与えるインフレなどのファンダメンタルズは日々変化するものではないからだと解説。
「為替トレーダーは自分が信じていなくてもテクニカル分析に注目する。多数のトレーダーがそうしているからだ」と語った。
デマーク氏のマーケット・スタディーズは同社の指標を利用するトレーダーから料金を取る。
SACからは年に数百万ドルを受け取るという。ブルームバーグ・プロフェッショナル上で指標を購読する権利も月500ドルで販売している。
ブルームバーグ・ニュースの親会社のブルームバーグ・エル・ピーは購読料の1%を受け取る。
トムソン・ロイターとも同様の契約をしている。デマーク氏は購読者数は明らかにしていない。
ウィスコンシン州出身の同氏は03年にアリゾナ州スコッツデールの本拠を460万ドルで購入した。
息子のT・J氏(37)が近くのオフィスで13人の従業員を統括している。
T・J氏は父親が築いた富にはあまり意味がないと言う。
「金をもうけることが父の目的だったことは一度もない。
父はテクニカル分析を天職だと考えている」と同氏は話した。
広大なトスカーナ風の邸宅の中を動き回るデマーク氏は確かに、奇妙に贅沢(ぜいたく)には無縁に見える。
バーの後ろの部屋には高級ワインのコレクションがあるが、ほとんど飲まないという。
息子によれば、父親はあの暗い部屋で、数学者から軽蔑される一方、大成功した投資家たちからは賞賛を浴びるグラフと数字を眺めている時が一番幸せなのだという。
原題:
DeMark Fibonacci Charts Embraced by Steve Cohen LureInvestors(抜粋)
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ポートランド Anthony Effinger aeffinger@bloomberg.net ;
ニューヨーク Katherine Burton kburton@bloomberg.net
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更新日時: 2012/11/14 07:00 JST