2012.8.5 13:00
年間来場者2200万、東京ディズニーリゾート(年間約2500万人)に迫る集客数を誇るイケアが、国内6店舗目をオープンさせた。同店の立ち上げを密着取材した。
北欧の巨人が放つ次の一手とは?
日本進出時はスウェーデン式にこだわったイケアも、今は現地化に力を入れる。
その象徴が「ホームセット」と「ルームセット」だ。福岡新宮店では、8つのホームセットと43のルームセットを設けた。
2階家具売り場の一角に「3LDK 68平方メートル」「2LDK 54平方メートル」「1K 12平方メートル」といった実寸の部屋(ホームセット)をつくり、その中に家具を配置。「どうぞ、中に入って暮らしのアイデアを見つけてください」とメッセージも掲げた。
リアリティを追求して窓の向こうには街の景色を映した特大ポスターが貼られている。
プットリさんの力作だ。
一方のルームセットで日本らしさの象徴が「畳の部屋」や「オタク部屋」。
ただし家具のデザインや大きさは欧州で決めるため、あくまでも北欧式の家具を日本の間取りに配置させる提案だ。
「畳の部屋にイケアの家具は合わないという先入観を崩し、お客さまにインスピレーションを与える提案」と説明する。
こうした現地化のきっかけとなったのが「ホームビジット」(家庭訪問)で得られた調査結果である。今回も新宮町をはじめ、近隣の家庭を数多く訪問した。
その結果見えてきたのが「首都圏・近畿圏に比べて、昔ながらの小部屋が多く、間取りは広い。
クルマ通勤が多く、夜は自宅で過ごす時間が長い。新宮町ではゴミの分別にも悩んでいる」といったこと。
これらを参考に新たな提案を続ける。
イケア・ジャパン社長のミカエル・パルムクイストさんはこう話す。
「日本の消費者から多くを学び、イケアは進化しました。福岡新宮店ではコワーカーをたくさん採用しても、日本人中心で店舗運営ができる体制になりました。今後はリーダーとなる人材を数多く育成するのが目標です」
人材の体制が整ったので、20年までに既存店含め合計12店舗へと出店を加速させるという。
福岡新宮店の開業から2週間後--。再訪した取材班は、平日昼間の混雑ぶりに目を見張る。
2DKや3LDKのホームセットにも次々にお客が訪れていた。
「これから引っ越すので、具体的に家具の配置を教えてくれるのは参考になります。実際に住んでみて、足りない家具があれば、また来て揃えたいですね」(広島県呉市から来た25歳の夫婦)
大型家具の売れ行きも好調で「予想以上にソファが売れている」という。
従業員も気が抜けないが「部下には『このピークを楽しもう』と話しています」
(高井さん)。
順調にスタートした福岡新宮店。だがイケア・ジャパンとして、さらに家具業界全体で考えると課題も多い。
たとえば少子高齢化への取り組みだ。
前出の長島編集長は「昔から家具業界では高齢者需要を取りきれない」と語る。
住宅設備業界では子供が独立した後の夫婦が、一戸建てを処分して都心のマンションに移り住む現象にも目を向ける。
その層に向けて各住設メーカーはコンパクトな設備を提案するが、イケアの大型家具や、自ら持ち帰って組み立てるスタイルが、高齢者に訴求できるかどうか。
大人一人当たりが家具に投じる費用も他の品目に比べて少ない。
年間10万円以上を洋服など服飾費に投じても、家具に関しては同7000円にとどまる。
「4000円のスカートは気軽に買う女性も、同額の収納ボックスを買うのはためらってしまう。収納の楽しさを提案するのも私たちの役割です」(佐藤さん)
日本では「断捨離」の本がベストセラーになるほど、片付け下手な人が増えているが、「収納提案」も道半ばだ。
さらにニトリが強化する法人向けビジネスも、イケアではまだ始めたばかり。
一連の課題への取り組みについて、パルムクイストさんはこう説明する。
「どれもビジネスチャンスですが、まずは次の出店となる立川店開業に向けて進みます。現在、私たちイケア・ジャパンは、3つのことに取り組んでいます
(1)日常生活におけるリーダーになりたい
(2)働く人にとって、よりよい会社
(3)社会に対して、責任を持つ会社
この原則を踏まえながら『世界で一番楽しいのは家』をモットーに生活提案をしていきます。イケアは急がないのです」
スローライフを掲げる巨大家具メーカーは、事業拡大もスローに進めていく。(経済ジャーナリスト 高井尚之=文 笹山明浩=撮影)
※すべて雑誌掲載当時
世界最大の家具屋「イケア」集客の仕掛け【4】
「北欧企業 イケア、H&M」 高収益の内側
なぜ、あえて「イケアに負けてもいい」と発言するのか
