キュービックジルコニア
お気に入りのネックレスを無くしてしまった。
たいして高いものじゃない。だって、それはニセモノだから。
誕生月は4月。
誕生石はダイヤモンドになる。
ちょっとプレゼントでもらえるような品ではないし、まだそんな物を身につけるような年というか、貫禄があるのかも分からない。似合うだけの気品があるのかというと微妙。
それでも、憧れではあった。婚約指輪は誕生石のダイヤモンド。それなら堂々ともらえるし、身につけられるだろう。
そんなある日。
なにげなく、見たネックレスの石が可愛くて欲しくなった。ハートの形の石で、透明でキラキラして、スワロフスキーみたいだった。小さなタグをひっくり返すと小さくキュービックジルコニアと書かれていた。
合成ダイアモンド。
地面のなかで、炭素が熱や圧力によってダイヤモンドが出来るのとは違い、人工的に作り出せるようになったもの。
綺麗な破片は、人間が作り出した知恵と科学の結晶。
そのダイヤモンドをつけて、彼に会い、デートをして喧嘩したり笑ったりした。
まるで彼から貰ったみたいに、お気に入りでいつも身に付けていた。
そして、いつも身に付けていたから、だんだんと扱いもぞんざいになってしまっていた。ペンダントトップを繋ぐ金具が緩くなっていたのにも気づきながら、直す気にならなかった。
だって どんなに綺麗だとしても
これはニセモノだから。
すぐに変わりなんて見つかる、そう思っていた。
その頃、すでに彼とはすれ違っていて、お互い仕事のせいにして会う回数も減っていた。
どこかで、変わりなんていくらでもいる、そう思っていたのかもしれない。
雲行きの怪しい空を心配して、電話してみた。彼の住む場所は台風の避難勧告が出ていて、独り暮らしの彼が行く場所に困りはしないかと考えたからだ。
幸い、彼の着替えくらいなら置いてあったし、私も独り暮らしだから気兼ねなく泊められる。
電話の呼び出し音の後、慌てたような彼の声が耳に届いた。
「なに、急に」
電話の向こうからは、にぎやかなバラエティー番組の音がして、人の気配を感じた。彼はあまりバラエティーを見ない人だから、誰かと一緒にいるのだろう。
それから彼が移動して静かな場所についた。そこには窓を叩く雨音しかしない。
「珍しいね電話くれるの」
さっきまで考えていた事を口にするのははばかられた。彼の好きなビーフシチューまで作っていたことを思い出してやり過ぎたと悔やむ。
「雨、大丈夫かと思って」
通話口で笑う声が息となってこちらに届く。
「心配してくれんの。友達の所に転りこんだから平気。これからDVD見るんだ」
こちらの状況なんて気にしないで、これから見るDVDについて話をする。すげー見たかったのを友達が借りてくれた、なんて。
本当にそれだけなの。
私のことなんてDVDより価値のないことなの。私もこの台風のなか買い物をして、ビーフシチューを作ったんだよ。
彼のつく嘘は薄っぺらで、本当のことが透けて見えていた。連休に会えないのも、仕事ばかりじゃないはずだった。
「次にいつ会える」
気持ちよく話していたのを遮られ、少し間があく。
「……ええと連休開けになるけど、週末は予定があるから来週のヒマな日かな」
遠くで、バラエティー番組のタレントにつられて笑う女の子の声がする。
甲高くて耳障りだ。
この後に及んで、そんなことを言うなんて。浮気の証拠を突き付けて別れ話をしようかと思ったのに、なんだか会うのさえ嫌になってきた。
「別れようか、私達」
「えっいいじゃない今のままで」
「女の子の声、丸聞こえだから。今からDVD見て、泊まるの。連休や週末に会えないなんて彼女じゃないよ。平日のヒマな時なんて言い逃れみたいな約束ね」
本当は気づいていた。メールに他の女性の影があったのを。
ただそれでも彼を好きだった。彼が好きだと言ってくれたから、好きになった。
「たまにメールするだけでもダメかな」
「無理だよ。そこの居心地がいいんでしょ。彼女を大切にしたらいいよ。もう切るね。さよなら」
誰かの一番になりたいと思っていた。でもそれはニセモノでしかなくて、キュービックジルコニアと同じ。
価値が違うの。
ぱたぱたと涙がこぼれる。涙を追って下を向くと、胸の先にいつもあった光が今はない。
金具、甘かったんだ。
今度は本物の輝きを見つけたい。沢山泣いたら、明日は笑えるかもしれない。
* * *
ペンダントトップを無くしたのは本当です。それから変わりを探してますが、なかなか会えません。
たいして高いものじゃない。だって、それはニセモノだから。
誕生月は4月。
誕生石はダイヤモンドになる。
ちょっとプレゼントでもらえるような品ではないし、まだそんな物を身につけるような年というか、貫禄があるのかも分からない。似合うだけの気品があるのかというと微妙。
それでも、憧れではあった。婚約指輪は誕生石のダイヤモンド。それなら堂々ともらえるし、身につけられるだろう。
そんなある日。
なにげなく、見たネックレスの石が可愛くて欲しくなった。ハートの形の石で、透明でキラキラして、スワロフスキーみたいだった。小さなタグをひっくり返すと小さくキュービックジルコニアと書かれていた。
合成ダイアモンド。
地面のなかで、炭素が熱や圧力によってダイヤモンドが出来るのとは違い、人工的に作り出せるようになったもの。
綺麗な破片は、人間が作り出した知恵と科学の結晶。
そのダイヤモンドをつけて、彼に会い、デートをして喧嘩したり笑ったりした。
まるで彼から貰ったみたいに、お気に入りでいつも身に付けていた。
そして、いつも身に付けていたから、だんだんと扱いもぞんざいになってしまっていた。ペンダントトップを繋ぐ金具が緩くなっていたのにも気づきながら、直す気にならなかった。
だって どんなに綺麗だとしても
これはニセモノだから。
すぐに変わりなんて見つかる、そう思っていた。
その頃、すでに彼とはすれ違っていて、お互い仕事のせいにして会う回数も減っていた。
どこかで、変わりなんていくらでもいる、そう思っていたのかもしれない。
雲行きの怪しい空を心配して、電話してみた。彼の住む場所は台風の避難勧告が出ていて、独り暮らしの彼が行く場所に困りはしないかと考えたからだ。
幸い、彼の着替えくらいなら置いてあったし、私も独り暮らしだから気兼ねなく泊められる。
電話の呼び出し音の後、慌てたような彼の声が耳に届いた。
「なに、急に」
電話の向こうからは、にぎやかなバラエティー番組の音がして、人の気配を感じた。彼はあまりバラエティーを見ない人だから、誰かと一緒にいるのだろう。
それから彼が移動して静かな場所についた。そこには窓を叩く雨音しかしない。
「珍しいね電話くれるの」
さっきまで考えていた事を口にするのははばかられた。彼の好きなビーフシチューまで作っていたことを思い出してやり過ぎたと悔やむ。
「雨、大丈夫かと思って」
通話口で笑う声が息となってこちらに届く。
「心配してくれんの。友達の所に転りこんだから平気。これからDVD見るんだ」
こちらの状況なんて気にしないで、これから見るDVDについて話をする。すげー見たかったのを友達が借りてくれた、なんて。
本当にそれだけなの。
私のことなんてDVDより価値のないことなの。私もこの台風のなか買い物をして、ビーフシチューを作ったんだよ。
彼のつく嘘は薄っぺらで、本当のことが透けて見えていた。連休に会えないのも、仕事ばかりじゃないはずだった。
「次にいつ会える」
気持ちよく話していたのを遮られ、少し間があく。
「……ええと連休開けになるけど、週末は予定があるから来週のヒマな日かな」
遠くで、バラエティー番組のタレントにつられて笑う女の子の声がする。
甲高くて耳障りだ。
この後に及んで、そんなことを言うなんて。浮気の証拠を突き付けて別れ話をしようかと思ったのに、なんだか会うのさえ嫌になってきた。
「別れようか、私達」
「えっいいじゃない今のままで」
「女の子の声、丸聞こえだから。今からDVD見て、泊まるの。連休や週末に会えないなんて彼女じゃないよ。平日のヒマな時なんて言い逃れみたいな約束ね」
本当は気づいていた。メールに他の女性の影があったのを。
ただそれでも彼を好きだった。彼が好きだと言ってくれたから、好きになった。
「たまにメールするだけでもダメかな」
「無理だよ。そこの居心地がいいんでしょ。彼女を大切にしたらいいよ。もう切るね。さよなら」
誰かの一番になりたいと思っていた。でもそれはニセモノでしかなくて、キュービックジルコニアと同じ。
価値が違うの。
ぱたぱたと涙がこぼれる。涙を追って下を向くと、胸の先にいつもあった光が今はない。
金具、甘かったんだ。
今度は本物の輝きを見つけたい。沢山泣いたら、明日は笑えるかもしれない。
* * *
ペンダントトップを無くしたのは本当です。それから変わりを探してますが、なかなか会えません。
雨
雨の音がする
雨の香りがする
雨の気配を感じながら窓を開ける
どこもかしこも
吹き荒れて薙ぎ倒す
そんな気配はまだなくて
少し安心する
長雨で野菜が高いでしょ
刈り入れを待つ稲も
木々に実る果実も
持ちこたえて欲しい
被害を出さすに
去って欲しいばかりです
雨の香りがする
雨の気配を感じながら窓を開ける
どこもかしこも
吹き荒れて薙ぎ倒す
そんな気配はまだなくて
少し安心する
長雨で野菜が高いでしょ
刈り入れを待つ稲も
木々に実る果実も
持ちこたえて欲しい
被害を出さすに
去って欲しいばかりです
猫とわたし
猫 寝てばかり
朝帰りした我が家の猫、絶賛爆睡中
階段の踊り場で寝て
キッチンの床で寝て
今はわたしの横で寝ている
外に出たなら七匹の猫がいるので安心して休めるのは、ここだけなのかもしれないけれど
寝過ぎ!
ひらべったく伸びています。