ふんわりシフォン -68ページ目

FULL MOON 夜を駆ける 37

目を閉じると虫の動きも、獣の動きも何らかの意思に基づく行動だとわかる。

風に破れた網を繕う蜘蛛や、食べ物を探す鹿が木の皮を剥いだりしている。

ああ、皮なんて食べて。まだ冬にならないのに。美味しい草にしたら。



ぴくりと鹿は耳をそばだて丸い目を向けた。

皮が好きなの。

そう聞こえた気がした。



ふふっと笑いが込み上げてきた。なんだか地面に根を張って大地と一体になった気がした。

大地の上で繰り広げられる生き物の営みが、自分の皮膚感覚のように感じられた。





視界の端に、するりと流れるような姿が目に入った。自然なその動きは無駄がなく、堂々としていた。

黒い獣だ。

『ローリングサンダー』



わかっていただろうに、頭をひとつ振り、こちらへとやって来た。

『お前がやったのか』

『何、言ってることが解んない』


面倒くさそうに、辺りを見回し根っこが広がってる、と言った。

『お前を中心に半径500メートルくらい支配下に置いてる』

『どういうこと』

『この辺りの森には、もうお前に逆らう者なんて居ないってことだ』

バリバリと後脚で首の後ろをかく。


『あいつが…斑が見て来てって言うまで信じられなかったけどな…』

ふと寂しそうな顔をする。獣の顔は人間と比べたら表情が少ないようだけれど、黒い獣は人間くさくて表情も豊富だった。

『…あたし何もしてない』
ぱたりとしっぽで地面を打ち、黒い獣はあたしを見た。


『意識を広げただろ。遠くの様子をすぐそこに感じたはずだ』

思いあたるのは、蜘蛛と鹿だった。そのように伝えると黒い獣は頭を振った。

『それだよ。無意識にやってんのか。あんまりやるなよ。お前には解らないかもしれないが、支配下に下った獣や昆虫にはストレスがかかる』

FULL MOON 夜を駆ける 36

家から離れることを考えてめちゃめちゃに走った。

この体は駆けると重さを感じない。力強い筋肉が、走るという命令を受けて大きく躍動する。

駆けるためにこの筋肉はあって、駆けられたことが、動くことが嬉しくてたまらないみたいだ。

小さな薮を跳び越える時や、川面に並ぶ跳び石を踏みながら川を渡る時には心が震えた。





駆けて駆けて

あたしは何処へ

来ただろう



休む気になったのは、見知らぬ場所に来たからで、村からは十分に離れたと確認できたからだった。

誰も獣の脚に追い付く者なんていやしない。

清流で喉を潤すために、岩に屈んで水を舐めとった。





ずうっとこのままなんだろうか。


水面がちらちらと光を揺らして流れていく。

今のあたしは水を飲むのに大地にこい願い、額ずいて喉を潤す。

食卓で煎れるお茶は、自然の恵みだと忘れてしまう生活の営みだった。

よく聞こえる耳に森のざわめきが届く。虫の羽ばたきや小さな動物のたてる音が聞き分けられる。





もし、もとに戻らなかったら。あたしは森で暮らすのだろう。

どうやって生きていくのかは、きっと本能の赴くまま体が知っているのだろうから。

父に会うのは、夜まで待つことにした。

LOVE IS

僕の好きな人

僕の大切な人



目を閉じたら

君が鮮やかになる



遠いところにいる

可愛い人

光に透ける髪

笑ったときの

頬や唇

僕の大好きなもの

大好きな声



君はどれだけ

僕が君を好きかなんて

知らない

僕の心が

君でうめつくされているかなんて知らない



理由なんてなく

ただ君が好き



君がどこの誰かとか

君が何物かなんて

ちっぽけなこと



ただ僕を見てよ

ただ僕を感じて欲しい



ゆっくりでいいから

僕の事を知ってほしい