ふんわりシフォン -23ページ目

川の流れのように

言葉は流れ

胸のうちに

湖をつくる



流れこんだ

言葉は深くすみ

透明な輝きをもち

わたしの心をうつす



清らかな みなもは

涙する雫もうけて

笑うようにさざめく




透明に澄んで

限りなく深い

腕を浸して

汲み上げる言葉は



君の体の

一部になるだろうか

君の心の

かけらになるだろうか

Focus 14

二日目も無事に終わろうかという時刻になって、一人の人物がこちらを見ているのに気づいた。

遠目にもすらりとした均整のとれた体を上質なスーツにつつんでいる。清潔感のある黒髪に、目鼻立ちも整った男性だった。

どんなにスーツが似合っても、回りに海しかないこんな場所でのスーツ姿は目立つ。

いぶかしむものの、害のあることではないので、こちらもごく普通に撮影をこなしていく。



「いいよ玲奈ちゃん。今日はあがりにしよう」



礼治さんの声で場の緊張がゆるむ。何事もなく終るのがいい。



「お疲れさまでしたぁ」



上着を着た玲奈ちゃんが挨拶したのを見て、礼治さんが俺に向かって、手を払う仕草をする。

しっしっと犬でも追いやるのかと振り返ったら、犬なんていなかった。

もう一度礼治さんを見たら、顔をしかめて玲奈ちゃんを見遣った。口をぱくぱくさせて、どうやら『ついていけ』ということらしい。
昨日、玲奈ちゃんがナンパされていたことで、彼女の身の安全を守ることも視野に入れなくてはいけなくなったようだ。



砂を踏んで追いかけると、少し行ったあたりで人に捕まっていた。

玲奈ちゃんが身じろぎして見えた人影は、背の高い男性でスーツを着ていた。あれは、さっきから撮影を見ていた奴だ。

走って二人の元まで辿りつくと、玲奈ちゃんを庇うように背中にまわす。



「彼女に何か用ですか」



勢い口調がきつくなる。それなのに相手は余裕の笑みを見せて、腕を組んだ。



「それが初対面の相手に対するあなたの対応ですか」

「相手にもよります。あなたが彼女の撮影を見ていたのを知っています。彼女に用があるなら、俺を通してからにしてください」



後ろから玲奈ちゃんが俺のシャツの裾を引いた。



「結輝さん」

「…何も言わなくていいから」


安心させてあげようと名前がこぼれ落ちそうになるのをこらえる。見ず知らずの相手に無用心に名前を知らせることはない。



「これはこれは。素晴らしいナイトですね。そうでしょう玲奈」

「……はい。橘マネージャー……」



固まってしまった俺をよそに、スーツの男性は余裕の笑みで名前を名乗る。



「玲奈のマネージャーをしております橘隼人です。お見知り置きください」

Focus 13

翌日から写真集の撮影は、順調にスケジュールを消化していった。

玲奈ちゃんも雰囲気になじみ、礼治さんも最高の仕事をしている。

玲奈ちゃんは、撮影の合間にも礼治さんの様子が気になるらしく、そばに寄ってカメラを眺めていることがある。

カメラに興味があるのか、昼休憩には礼治さんの予備のカメラを渡されいた。そのカメラで玲奈ちゃんから見たスタッフを写真に収めていた。

撮影したのはスタイリストさんや、編集の本田さん、礼治さん。俺自身にまでカメラを向けてくるので慌てて顔をそらした。



「ああっーーもったいない、イケメンに撮れるはずたったのに」



液晶を覗きこむ玲奈ちゃんにならって、デジタル表示された画面を覗くと不自然に顔をそらせた自分がいた。


「俺は撮る側なんだから、撮影はいいの」

「そんなことないですよぅ結輝は撮られる側もやってみたらいいのにって、礼治さん言ってましたよ?」

「お世辞はいいからね。玲奈ちゃん」

「お世辞じゃないですよ。ホントのことっ」



そう言ってにっこり笑うので、恥ずかしいような、くすぐったいような気持ちが胸で踊る。

一瞬の後、シャッター音がして会心の笑みを浮かべた玲奈ちゃんが画面を覗きこんだ。



「できました!題は『ときめき』なんてどぅでしょう」



液晶に留められた自分の、恥じらうような照れ笑いを浮かべた顔に息が止まりそうになる。

体温が上昇して、熱が上のほうに集まってくる。



「これはダメだから」



カメラに伸ばした腕をくぐり抜けて、玲奈ちゃんは礼治さんに駆け寄ろうとする。

慌てて肩をつかんで引き寄せると、呆気なく腕の中に捕まえることができた。



「結輝さん、いい表情してます」



玲奈ちゃんは腕の中で、満足したようにカメラの液晶を抱えて見上げてきた。

今度は違う意味で鼓動が早くなるのを感じながら、カメラの消去ボタンに手を伸ばす。



「ああっダメです」

「これは残しておけないから」



必死にガードする玲奈ちゃんの手を外そうとしていたら、すぐそばから礼治さんの声がした。



「そんな結輝、初めて見たわ」



腕を組んで、視線はカメラの液晶を捉えている。そのどこか冷やかに見える態度に、背筋が冷える。

固まった俺の腕を抜けて、玲奈ちゃんが礼治さんに液晶画面を差し出す。



「どぅでしょう師匠、けっこうイイと思います」

「いいね。俺には撮れないわ、これは」



ふいに礼治さんが顔をほころばせた。その顔が、いつもの笑い顔とは違って見える。二人で寄り添うように画面を覗いている姿はなんだか微笑ましくて、お返しにカメラで撮り返してやりたくなった。



「じゃあ撮影再開といきますか」



礼治さんは玲奈ちゃんの頭に手をのせてくしゃくしゃとなでた。

その瞬間、玲奈ちゃんはぱあっといい笑顔をつくった。その顔を見て、やっぱりいい表情をする子だなと思った。