毒母を透析に送り出すにあたっての苦労を、吐き出したい。

 

「透析に行きたくない」と、ほぼ四六時中言っている毒母を

説得して行く気に何とかなってもらうまでが

とにかく大変

だという話はした。

 

当然、本人は行きたくないわけで、何もしない。

何もしないのに無駄に朝は早く起きて

ただテレビを観ながらタバコ吸ってるんだが

この早朝のテレビ番組がクセモノだ。

 

テレビショッピング。

 

足の筋力維持に最適なサプリメント

とかいうものにカンタンに食いつく。

 

「これ飲んだら歩けるようになるのかな」

 

なるわけねぇだろ。

話をよく聞け。

筋肉をつける薬なんてあってたまるか。

ヤバすぎだろ。

筋力「維持」であって、「筋力増強」じゃない。

 

「筋肉つけてくれるわけじゃないからねぇ。

歩けるようにはならないんじゃないかなぁ」

 

せっせと毒母の上着を着替えさせながら

言葉を選んでやんわりと答える。

 

「じゃあどうすればいいの!」

 

いきなりキレる。

そんなことより上着に腕を通せよ、って話だ。

 

わっちの両肩を掴ませて立ち上がらせ、

ズボンを下ろしたところで一旦座ってもらって

片足ずつズボンを抜き取る。

 

座ったまま、お着換え用ズボンの両足を通したところで

再度立ち上がってもらってズボンを引き上げる。

コケないように気を配りながら、

結構腕力も体幹も使う。

わっちが痩せなかったことが不思議だ。

 

「そうねぇ、まず体を起こしてる時間を増やすとか

廊下を少しでも歩く練習とかしたらいいんじゃないかなぁ」

 

着替えさせながら、ありきたりのことを言ってみる。

 

「それが出来ないから言ってんでしょ!」

 

ほぼ毎回、こんなやり取りをしていた気がする。

 

それから髪を整えてやり、

透析用の麻酔パッチを貼ってやる。

 

食べるだの食べないだのと言う朝食を

一応準備してやって、玄関までの移動時間を考えて

時計を見ながら外に出るのを促すわけだが。

 

玄関まで、わっちが歩けば7歩程度。

なのだが、毒母が玄関の上り框まで移動するのに

軽く10分はかかる。

 

そこから、玄関下まで階段が4段あって

手すりも付いてはいるが、段差を「降りる」のが

また大変な作業だった。

 

階段はコンクリート。

頭でも打ったら、死ぬ。

真冬だってのに、わっちは大汗かいて毒母の介助をしていた。

 

何とか階段を下りて、車いすに乗せたところで

「行きたくない」

と、まだ言う。

 

ここまで必死こいて準備して、

やっと階段も下ろして車いすに乗せたってのに

何を言ってんだ、この人は。

 

一瞬、視界がチカチカするくらい

「ブチッ」

という音も聞こえたが、

 

落ち着け!

あと数分で迎えの車が来る。

抑えろっ!!

 

と、もうひとりの真帆さんがわっちを抑えつける。

 

 

「行って帰ってきたら、もう少し体もラクになってるだろうから

“とりあえず今日は”行っとこう?」

 

キレかけていたくせに、よくこんなことが言えたもんだ。

もうひとりの真帆さんに感謝。

 

返事もせずにむすっと黙っている毒母だが

わっちにとっての救世主のように

角を曲がってくる病院の車が見える。

 

車いすごと、病院の車に毒母は収まって

わっちはやっと大きく息を吸う。

 

やっと、身体に酸素が入って来る感じだった。