毒母の話に戻る。

 

立ち上がることや身体を起こすこともままならなくなってきた最初の頃は

毒母の意識の中に頻繁に父が登場するようになった。

 

わっちがやってあげるお手入れを「お父さんがしてくれた」と

わっちに報告してきたり

呼ばれて枕元へ行けば「お父さんはどこに行った?」と

訊いてきたり。

 

その度にわっちは父がいるテイで受け答えしていたのだが

お父さん、迎えに来てるんか?

と思った。

思ったが、わっちはちょっと複雑だった。

 

毒母が旅立つのは

自分のタイミングで逝ってくれればいいと思っていたのだが。

 

ねぇ、お父さん。

毒母がそっち行ったら、お父さんが大変だよ。

また文句タラタラになるよ。

散々、送り迎えして乗せて歩いたんだから

もういいんじゃない?

 

というのがわっちの本音だった。

 

そんなことを思いながら毒母のお世話をしていたのだが

いつを境にしてか、パタリと言わなくなった。

 

そういえば最近「お父さん」って言わなくなったな、と

思った頃、違う症状が出て来た。

 

布団のシーツを、蛇腹に折るように指でガリガリと搔き集める。

わっちはそれを、黙って広げて、整える。

 

オムツ交換のときも、わっちの手首をガッチリ掴んだかと思うと

どこにそんな力があるんだってくらいの勢いで放そうとしない。

 

この行動には、正直、参った。

 

「お母さん、パンツ穿けないから、放してね」

なるべくやんわりと言って、ゆっくり放そうとするのだが

なお力を込めてくる。

 

血流が止まるぞ、オイ。

 

手を放してもらうまでに、結構な時間がかかる。

困ったな。

さて、どうするか。

 

そこで登場したのが、巨大な「馬のぬいぐるみ」である。

わっちの手首を掴みそうなところで

「サッ」と馬のぬいぐるみの足を掴ませる。

 

この作戦は上手くいった。

「馬」だけに?(^^;)

 

ちなみにこのぬいぐるみは、毒母が初老の頃に通っていた

乗馬クラブで買ってきたもののようだ。

いい思い出が詰まっている分、役に立ったのか。

 

シーツを蛇腹に折って引っ剥がすクセは治らなかったが

オムツ交換のときや、わっちが離れているときは

だいぶ重宝した。