「このお財布から500円玉盗ったでしょ!」
手に可愛いピンクのがま口財布を
持った鬼の形相の母。
学校から帰ってきたばかりの私は
ランドセルを背負ったまま固まって
しまった。
母が言うには、ピンクの財布に500円玉
貯金をしていて、数十枚の500円玉が、
入っていたはずなのに数枚なくなっていた
らしい。
タンスの2番目にその財布を入れて
おいたから、まだ小さい妹達は届かない。
だからお金を盗ったのは父か私しか
いないのだという。
ピンクのガマ口財布はお初お目にかかった。
母に言われた事も突然過ぎて理解
出来なかった。
だって自分の中に人の物を盗るという
概念すらなかったから。
頭の回転が遅い私は
「盗ってないよ❗」
としか言葉が出なかった。
すると母が、
「顔が真っ赤になってる!ウソを
言ってる証拠だよ。本当の事を言うまで
お母さんは口を聞きません。」
と言った。
顔が真っ赤になってるって言われてもね。
確か小学3年くらいの時の出来事。
全く勉強が出来ない上に、トロくて要領
が悪い子供だった。
「早くしなさい‼ ちゃんとしなさい‼」
と毎日、毎日、母に言われていた。
毎日、毎日、怒られていた。
お金を盗ったと言われて、自分が悪いと
思った。
きっと私があまりにもバカだから
疑われたのかなと思った。
だってちゃんとした良い子だったら
お金を盗ったなんて疑われないはず。
夕飯になっても母は私だけ無視をした。
お母さんは私の事が嫌いなのかな……
喉に大きな塊が詰まったみたいに
苦しくて、ご飯が食べられなかった。
それから数日たって、
母が買い物に行こうと言うので
母と二人で出掛けた。
そして私が当時大好きだったアイスを
買ってくれた。
普通のアイスは棒が1本。
だけどそのアイスは棒が2本ついて
いて、アイスを真ん中で割るとアイスが
2つになって、得した気分になる。
そのアイスをなぜか買ってくれた。
そして母が
「この間のお金の事はお母さんが
悪かった。 ごめんね。」
と言った。
結局誰がとったのか、母の勘違いだった
のか、気になったけどまた怒られそうで
ついに聞けなかった。
ただ黙ってうなずいて、アイスを食べた。
いつもはソーダの美味しい味が
するのに、全く味がしなかったから
何だか不思議だった。
最近、何気ない日常生活の中で
子供の頃に言われた母の言葉が
ふとよみがえってくるようになってきた。
そして今さら、
本当に今さら、あの時の
事が許せなくなって怒りで心がいっぱい
になってしまう。
子供の頃はそれなりに楽しく過ごせたし、
父も母も、私達姉妹の事を一生懸命
育ててくれたことはわかっている。
今までずっとそんな事忘れていたし
別にそんな大騒ぎするような記憶でも
なかったはず。
今までの自分と違うのは、
これからは自分の事を
「最優先」にして生きる。
と決めただけ。
それだけなのに、どんどんどんどんと
自分でも忘れていた感情や事柄が次々
と溢れだしてくる。
まるであの日の小さな自分達が、
「じゃあ言うけど、この事なんだけどね…」
と話しかけてきているみたいに感じる。
何だか面倒くさいことになってきたよ⚡⚡
と思わず愚痴がでた。
体と心に痛みが出るたびに、こんな事なら
自分を癒すなんて思わなければ良かったと
ちょっとウンザリする時がある。
だって鈍感に生きている時の方が
楽なような気がするから。
「生きにくさ」は感じていても、
「痛み」にはとっても強い。
痛みなんか感じてなかったし。
それが今は一人で大騒ぎしている。
あれが辛かった。これも悲しかった。
ここが痛い。あっちも痛い。
まるで一人芝居。
なんか最近の私、すごい面倒くさい。
ちょっと自分に疲れていた。
昨日、寝る前に枕元にある本を
ぱらっとめくった。
「自分との約束は守ってください」
とそこには書かれていた。
思わず、ギクッとする。
あの日の小さな私達は、誰かを憎んだり、
わざわざ気分を悪くさせたいわけではない。
ただ、誰も悪くなんてなかった。
だからあなたも悪くなんてなかった。
もう責めるのはやめてほしいだけ。
手放すと決めたこと忘れないでね。
と言いたいだけなのかもしれない。
ちょっと……というかかなり面倒くさく
なった自分だけど、「最優先」にして
あげると言ってしまったんだから
しょうがない。
「これからも最優先にしてあげるから
そのかわりに、あなたが得意だった事
や好きだった事も教えてよね!」
自分で自分にぶつぶつ言いながら
ベッドに入った。