5年前に夫と出掛けた先で突然の

交通事故にあいました。






 人は突然の予期せぬ出来事を
体験した時に「まさか自分が………」と
良くいうけど、自分がそうに思ったのは
生まれて初めてでした。





まさか自分が救急車に乗るなんて
開腹手術をするなんて
骨折するなんて
入院するなんて
看護師さんにオムツをかえて
もらうなんて



そんな事が自分の身におきた事実が
信じられませんでした。




ベッドの上で自分におきた事を必死に
受け止めようとしていた。




とても強い痛み止めが入っている
というのに体にはずっと鈍痛。



頭はハッキリしていると思っていたのに
ずっと幻覚と幻聴があった。



それが幻覚だとは全く思わない不思議。




見上げるしかない病室の天井に
流れる様に達筆な文字が上から下へと
書かれては消える。



全く知らない名前やら
手紙にも思える文章。




なんだかとても大事な事のような気がして
何回かメモとペンを要求しようとしたけど
それが出来ないほどに体力がなかった。




スラスラと書かれては消える筆の
文字をただ目で追うだけだった。



ある日の夜は天井でひたすらに
素振りをする野球少年がいた。



ずっとずっと素振りをする少年を
見つめながら早くボールをカキーンと
打たないかなと期待していた。




ある日は私の枕元で医者と看護師が
ずっと世間話をしていた。




私の状態をチェックしているなら
わかるけど今は鈍痛を忘れるために
眠りたいのだ。




世間話なら他でやってほしい。
「あの~」と話しかけても聞こえて
ないらしい。
ちょっと見上げても姿が見えない。




お腹の傷のガーゼを取りかえにきて
くれた看護師さんが来ても世間話を
したまま。



さすがに我慢が出来なくて
看護師さんに頭の上の出来事を伝えると
「えっ👀⁉」とギョッとされてしまった。



私の頭の上はすぐに壁になっていて人が
入るスペースはどこにもない。



今は私達以外この部屋には誰もいないと
言われ、今度は私がギョッとした。



そしてハッと気がついた。




私は耳が難聴で補聴器を両耳着けている。
ベッドの上では補聴器をつけていなかった。
だから会話がハッキリと聞こえる事が普通
ではないのだ。



それからハッキリと聞こえる声は
幻聴という事にしておいて
また心配されたら困るから黙っておいた。



頭のCTを撮ってもらうも異常なしだった。



私が入院していた時は若い研修医が
いつもよりも沢山いると看護師さんが教
えてくれた。




ある日の朝の回診の時。
いつもの主治医と研修医以外に20人
くらいの研修医がどっと来た事があった。



いつもの回診
お腹の傷が大きいのでいつも
大事なおっぱいは丸だし
下の大切な部分も
オムツからこんにちはしていた。




研修医が沢山いるとて
いつもの回診と変わらない。



若い有望な研修医の前で私は大事な所を
全てさらけ出していた。




主治医の先生が傷の状態を説明する中
研修医はグッと近寄って傷を凝視した。



誰一人おっぱいをチラ見してくれる
研修医はいなかった。



この頃にはありがたい事に
これが若いキレイな女性だったら
チラ見するのだろうか?なんて
考えられる余裕が出来るくらい回復
していた。



キョロキョロとする私に看護師さんが
そっとタオルをおっぱいにかけてくれた。



優しい…………
看護師さんは全員優しかった。



優しくオムツをかえてくれて
優しく笑顔で体や頭を洗ってくれた。




忙しい夜の回診でも
痛みと不安で泣いてる私を優しくも
力強く「良くなるから大丈夫❗」と
励ましてくれた。




主治医の外科の先生も優しかった。
不安で気後れしている私に



「しばらく泊まっていってよ🎵」と
  冗談っぽく軽く言ってくれた。




その時は手術は成功したものの
10日くらいはどうなるかわからない
状態だったらしい。




救急車で運ばれる前の事故直後も助けて
くれた人達がいた。



私がパニックで息が上手く
吸えなくなっているのを見て



「吸わなくていいから
                        とにかく息をはいて」と
  言ってくれた男性がいた。



男性の「はいて、はいて、はいて」と
一緒に息をはいていたら呼吸が整ってきた。




救急車にすぐに電話をしてくれて
ブランケットを優しくかけてくれながら
「もうすぐ救急車来ますからね❗」と
ずっと励ましてくれた女性がいた。




お2人は救急車が来るまでずっと
側にいてくれた。




後で夫に聞いたら
他にも警察に電話をしてくれたのは
コンビニの男性店員さんだったこと。



工事現場の男性が二次被害
を防ぐ為に私達の車の回りにコーンを
置いたりしてくれたのだった。




入院中にずっと考えていた。
こんなに優しくしてもらうほど
私は良い人間だっただろうか?




所詮他人なんて…………と思っていた
自分がひどく薄っぺらに思えた。




こんなにも優しく親切に接して
もらった事を私は一生忘れることはない。




その優しさをいつか私も誰かに
お返ししたい。
病室のベッドで心に誓った。




事故にあっていなかったら
多分一生気が付かなかった事ばかりで
お腹に入った傷痕は親切にしてもらった
愛の「印」だと思ってる。




もうそろそろ本気でお返しの準備を
しなくてはと思う今日この頃です。