この世界の片隅に (2016年) | Asian Film Foundation 聖なる館で逢いましょう

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この世界の片隅に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも、ありがとうございます。

 

8月4日、『この世界の片隅に』を観ました。

 

私はアニメ作品も大好きですが、どうも実写映画に集中することになって、あまり観れておらず…気づけばジブリを観ている感じです。

そうなるとアニメの観方も忘れてしまうんじゃないかと心配ですが、そんなことはありません。

大丈夫でした。

『この世界の片隅に』を観終えて思いましたが、私にはアニメと実写映画を分けて観る気持ちはないようです。

 

『この世界の片隅に』 ―― 公開当時、非常に大きな反響があったのは知っていますし、私も観たいと思ってました。

ただ、私の予感ではこの作品はいつもよりも真剣に観なければならない映画なのだろうということがあった。

 

今年…日本人にとってただ楽しいだけではない、様々な思いが心に浮かぶ8月、観ようと思いました。

 

まず最初、映画として、テンポというかリズムが早いと思いました。

旧姓・浦野、北條 すずの人生の場面場面が語られていきますが、このままの語りのテンポで最後まで行くのかな、とある種の不安を覚えました。

結果として、確かに短くない時間を次々と語るリズムの作品でしたが、すずが嫁いだ後、軍国主義を理念に戦争での勝利を目指す日本の日常が語られていく。

私はそれで、すぐにこの作品の物語の運び方を捉えました。

 

いろいろなことが起こる映画ですが ―― 映画はどれもそうなんだけど、まず、どこがどうではなく、やはり全体で受けとめる作品です。

私は最後が知りたいと思いつつ、映画に全力で集中しました。

 

私の感想はまず、非常に怖かったんですね。

 

観ていて、不安で、憤りを感じ、とても不愉快で、とても怖かった。

それが第一印象です。

 

説明すると、昭和のこの時代に、広島から呉市に嫁いだヒロインの物語です。

それを知ってて1945年8月に何が起こるのかを予測しない人はいません。

つまり広島県で暮らす人たちに恐怖が待っていることを前提に映画を観ることになります。

それが私にはとても苦しかった。

 

『この世界の片隅に』を観ていて驚いたのは、この作品は悲劇的なだけの映画ではありません。

むしろコミカルな笑いがとても多い作品。

 

すずがいわゆる根っからのおとぼけ、天然な人なので、彼女の独白も含めて様々な場面で笑ってしまう。

そのことのついては本当に面白い映画です。

のんちゃんのホントに的確な演技のせいで声を上げて笑ってしまうような場面がたくさんあります。

すずは「ちゃんとしようとしてヘンテコにズレる人」なのでね。

 

私には最後まで笑いがあることで逆に怖かった。

 

だってね、「空襲に慣れてしまって空襲の時の段取りがめっちゃ上手くなるすず」なんか爆笑なんですよ。

いいのか、笑って。

私が不安を感じるのも仕方がない。

 

また、この映画では呉市や広島で暮らす平凡な人たちしか出てきませんね。

権力を持っていて戦争の戦局をどうこうできるような人たちは出てきません。

ゆえに、軍国主義を理念とするこの時代の日本のあり方に疑問を抱かず、ただ淡々と日々を明るく元気に、そして一心不乱に暮らしていくだけです。

この時代の人々は、「いつか日本が勝つ日」を待って、苦労があっても我慢して普通に暮らしていたんだと思う。

 

私はそれを「けなげ」と思ったが、同時にひどい怒りを感じ続けていた。

ヒロインすずとその周りの人たちが幸せであってほしいと思うからこそ、彼女たちが置かれている歴史的状況に憤りを感じてました。

 

私は『この世界の片隅に』を楽しい映画だとは思えませんでした。

 

しかし戦争の悲惨ばかりの映画ではないんですよね。

人々は工夫して、あるがままに生きていく。

その日常では些細なことがらが連続し、すずの失敗にみんなは顔をほころばせる。

 

もちろん戦争中ゆえの恐怖と死の危険が絶えずあります。

この時代、日本の国外では大勢の兵隊さんが亡くなり、また兵隊さんが大勢の人々を殺め、想像するのも恐ろしいことが起こっていたんですが、映画でも描かれるとおり、敵国の飛行機が広島県の上空を飛行し、爆弾を落とし、すずたちも機関銃で狙われています。

私は映画を観ながら、ごく当然なことを知っていきました。

 

言葉を選ぶのが難しいんだけど、私は1秒も退屈しなかったし、「怖いほど面白い映画」とも言わせてほしい。

 

 

『この世界の片隅に』はラブストーリーでもある。

すずが自分では顔を思い浮かべることもできない人「周作」に嫁ぐことになる場面は、現代に生きる私に大きな困りとズッコケをもたらしますが、実際、昔はそうだったんだから仕方がない。

 

でも、すずは水原 哲という少年に対する思いをずっと忘れていなかったので、それでこの結婚、いいのかと思ってしまった。

北條 周作はしかし、すずを見初めて好きだったし、その気持ちは揺るぎなかったんですね。

 

でも観たあとで調べたら、原作では周作は遊女である白木 リンとも深い仲であったそうで、そのことをすずが知ることになるそうです。

それを知って私はまたちょっと困ってしまった。

でも、それはもう、ごくありそうな話でもあります。

なんぼ昭和の時代でも、人間生きていれば人との関係が生まれ、そこに愛情を得ていくものですね。

 

むしろ結婚そのものについては今よりもシンプルかもしれない。

あれがイヤ、こうしてほしい、ああしてほしいもないでしょう。

嫁ぎ先に置いてもらえるため、頑張って暮らしていくしかない。

 

すずがいいのならそれでいいと思うしかないけど、前半、すずの結婚生活にはどうしても私は隔靴掻痒の念が禁じえなかった。

 

周作の姉・径子とすずの関係がなかなかしんどくって、嫁ぎ先で夫の怖い姉が来てずっと帰らなかったら若い奥さん、そりゃかなりしんどい。

周作のご両親は働き手のすずに優しいけど、径子さんは厳しい人です。

うわ~あせると思いました。

 

でも私はすずと径子の関係が映画の中で特に好きだった。

映画の後半であることが起こった時、径子はすずを「人殺し」とまで罵りますが、そのあとの会話ではハッとするほど心打たれました。

今の感覚で昭和20年を見るとしんどし、じれったいし、理不尽にも思うけど、人と人との関係はそこまで時代とは関係ない。

 

『この世界の片隅に』はもう、原作者・こうの史代先生とアニメの作り手の方々が調べに調べて研究されてから作られた作品に違いないんだけど、確かに私に第二次世界大戦中の日本を実感させて体験させてくれました。

これまで知っていたこと以上に。

大切なことをたくさん教えていただきました。

日本の映画作品で、こうまで戦争について実感したことはないのではないかなあ…。

 

戦争の実態を写真や文章で知る時、強いショックがありましたが、さらに想像を深められるアニメという手法により、私は戦争を体験しました。

 

 

途中まで観て、この映画では戦争の残酷はそこまで描かれないのではないかと思えたんですが、実際、生々しい残酷描写は多くはなく、しかも残酷なことが起こったのかと思いきや誤解だったというような「ひっかけ」まであったりして、そこはさすがに「人が悪い」と思ってしまった。

なんぼ映画でもそれをやるかと。

 

しかし、直接的な残酷描写がなかったゆえに後半で起こっていくことはショックでした。

 

時限爆弾が爆発し…病院のすずの思考が絵になりますが…私は呆然としました。

何が起こったのかが理解できるにつれ、私もそう考えるだろうと思ったから。

アニメ映画はここまでできるのかと思った。

 

 

すずが呉市にいた以上、原子爆弾の惨状も観客は目にすることがないのかと思ったんですが…しかしラスト近く、ごく短い時間、広島の実態が描かれ、映画の中でそれが短い時間ゆえに私には衝撃が強かったです。

怖いですよね、戦争中の空襲や原子爆弾の投下後、ああいうふうに我が子の手を引いた母親の姿があったのでしょう。

どこに何が落とされるかわからないほどの状況ゆえ、事前に逃れることも難しく、ただ、それを受けて死んでいく…それが当然だった世界で人に何ができたのだろうか、と思う。

私はあのシーンは簡単には見れない。

だから『この世界の片隅に』という映画を軽々しい気持ちで観ることはできない。

 

この作品にはさらに40分のシーンが追加された、いわゆる長尺版の『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』というバージョンがあるそうです。

もしもそれを観るのなら、私はまた覚悟が必要でしょう。

 

 

他の場面はともかく、終戦の日に興奮して激しく感情を高ぶらせるすずに関しては、私は理解できたとは言えません。

 

まず、すずがそういったことを考えていたのかと驚きました。

彼女は戦争を受け入れ、自分の人生のありように疑問を感じていないように私は思っていたから。

それが私がこの映画を観ていて感じた恐怖や不快感の原因のひとつだったと思います。

 

しかし、すずの内面には何かがあった。

すずは戦争を当然とし、人が死ぬこともありうると知っていながら、戦争の結末については揺るぎのない自分の考えがずっとあったのではないか。

そう考えるしかないんだけど、実際、自分だってあの時代に生きていればある種、楽天的な結末を信じていたのかもしれない。

だってそれだけ人が死に、それだけ日々の暮らしに負担がかかってきたわけでから…欲しがりません、勝つまでは、のスローガンを本気で信じていれば、戦争が幸福への道のりだと考えて仕方がない。

 

まだ一度しか観ていないので、そんな分析的なことは書けないけど、感覚的にハッとさせられたのが事実です。

 

すずは戦争を戦っていたのか、それがいつ終わるのかと苦しかったのか。

決めつけられませんが、彼女の心にも何かに対しての憎悪があったんだと思います。

21世紀の映画ですが『この世界の片隅に』は平和についてだけの映画ではないでしょう。

晴海が死んでまでもあった戦争のこの終わり方がこれか、という怒りがあっても当然かなあと思います。

 

すずという人物について、可愛い人だとか面白い人だとか思いますが、私はまだわかっていないのかもしれない。

戦争中に生きた人たちの心境を共有することも、できてるつもりでも難しい。

 

私のこの感想では、映画について書いてて戦争については書けてないと思うけど、終戦の日のすずの絶叫に心動かされたのが事実です。

でも、自分のその感想を分析することも難しいのですが。

 

映画で感じた疑問については、やはり原作の漫画作品を読むべきなのだと思います。

 

 

最後に、表現者としてののんちゃんに驚きましたし、絶賛するしかありません。

「笑い」に関しても唯一無比でしたし、それゆえに圧倒的な声の演技に私はやられました。

監督さん、よう、のんちゃんを抜擢したんですよね。

凄いと思うもの。

ずっと、のんちゃん演じるすずの声を聴いていたかった。

のんちゃんのすずがホンマええねえ。

 

 ―― どうしても要領を得ず、確信に切り込んだりという簡潔さを得ることができない私の感想ですが、今はまだ、こうと決められない感じなので今、書けるのはここまでです。

 

『この世界の片隅に』を観ていて、映画なんか観ていていいのか私、と思いました。

映画を観るのって、怖いことですね。

今年に観た映画の中で最も心かき乱されました。

自分には何ができるのか。

自分はそれをやっているのか、と。

 

もちろん大傑作でしょ、ホンマの。

アニメというだけではなく日本の映画も凄いと思いました。

 

もう誰もが観た作品でしょうけど ―― もしもまだ観ておられないなら必ず観ないと。

 

今日は広島に原子爆弾が投下された日、9日は長崎に投下された日、そして15日は終戦の日 ―― 8月は映画を観て戦争と平和を考えていたい月です。

しかし私は様々な人のたいそうなご意見を聞くにつれ、バカバカしく思うのかもしれません。

 

今日も読んでくださり、ありがとうさんでした、おおきに。




この世界の片隅に


Kono sekai no katasumi ni
In This Corner of the World
이 세상의 한구석에
在这世界的角落


2016年製作/126分/G/日本
劇場公開日:2016年11月12日
配給:東京テアトル

監督 片渕須直
原作 こうの史代
脚本 片渕須直
企画 丸山正雄
プロデューサー 真木太郎
製作プロデューサー 松尾亮一郎
製作代表 市村友一 岩田圭介 渡邊耕一 古川博志 山本和男 太田和宏 二宮清隆 河野聡  戸塚源久 桝山寛 大塚学 神部宗之
監督補・画面構成 浦谷千恵
キャラクターデザイン・作画監督 松原秀典
美術監督 林孝輔
特殊作画 野村健太
演出補 野村健太
劇中画 四宮義俊 浦谷千恵 こうの史代 林孝輔
色彩設計 坂本いづみ
撮影監督 熊澤祐哉
撮影監修 淡輪雄介
編集 木村佳史子
音響監督 片渕須直
音響効果 柴崎憲治
音楽 コトリンゴ
音楽プロデューサー 佐々木史朗 飯田幸子
アソシエイトプロデューサー 米森裕人 安部幸枝
アシスタントプロデューサー 近藤千昭
アニメーション制作 MAPPA
広島弁監修 栩野幸知
広島弁ガイド収録 新谷真弓
お経読経 上園陽
お経録音 青原さとし

北條(浦野)すず のん
北條周作 細谷佳正
水原哲 小野大輔
黒村径子 尾身美詞
黒村晴美 稲葉菜月
浦野すみ 潘めぐみ
白木リン 岩井七世
北條円太郎 牛山茂
北條サン 新谷真弓
浦野十郎 小山剛志
浦野キセノ 津田真澄
浦野要一 大森夏向
刈谷さん たちばなことね
知多さん 瀬田ひろ美
堂本さん 世弥きくよ
小林の伯父 佐々木望
小林の伯母 塩田朋子
森田イト 京田尚子
マリナ 目黒未奈
千鶴子 池田優音
ばけもん 三宅健太
憲兵 栩野幸知

ラヴェルヌ拓海
小暮日菜子
ラヴェルヌ知輝
喜安浩平
杉本真奈美
建石翔太
川上莉央
関根正明
三好翼
せかき孝輔
佐保光樹
大亀あすか
吉田有希
梶田大嗣
木村伽矢
田中真奈美
峰かずこ
長谷美希
荻野沙織
桜奈里彩
巴奎依
広瀬ゆうき
水希蒼
八木菜緒
澁谷天外

受賞 第40回 日本アカデミー賞(2017年) 優秀アニメーション作品賞

 

(映画.com)