一番美しく (1944年) 黒澤明監督作品 | Asian Film Foundation 聖なる館で逢いましょう

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アジア映画に詳しくなかった私がアジア映画を観てます♪
ネタバレはできるだけ避けております…(ㆆᴗㆆ)*✲゚*。⋆

 

 

 

ブログに書きたい映画がたまってきたので、続けて書かしていただきますね。

 

 

 

8月15日に『ホタル』(2001年)を観て ―― それから20世紀の戦争についての映画をさらに観ようと思い、第二次世界大戦中に軍需工場で働く女子挺身隊の少女たちを描いた黒澤明監督の作品を観ました。

 

 

 

 

 

一番美しく

 

 

解説 「姿三四郎」に続く黒澤明監督第2作目。第二次大戦の最中の1944年に製作された、時代背景色の濃い作品。学徒動員により勤労奉仕に従事する女子挺身隊の姿を、ひとりひとりに焦点を当ててドキュメンタリー・タッチで描いた人間ドラマ。主演の矢口陽子は本作の翌年黒澤監督と結婚した。(映画.com)

 

 

戦争中の1944年、全国各地の工場で軍需増産運動が始まり、精密兵器に使われるレンズを生産する東亜科学でも向こう4ヶ月の間、男子は10割、女子は5割の増産目標割り当てが発表される。

 

そういった状況で女子工員たちも生産増加のため一丸となって努力する。熱が出るのを隠しても頑張る人、悔しさを抱えながら父親によって国元に連れ帰られる人。

 

女子のリーダーである渡辺ツルは、寮母の水嶋さんと、みんなの具合に注意を払うが、しかし徐々に疲労が蓄積され、仲間たちの間にもギスギスが生じてしまう。

渡辺ツルはリーダーとしての自分に自信を失いそうになり、また郷里の母の具合が悪いとの父からの知らせも受けるが、父はツルが仕事を疎かにして帰ってくることを望んではいなかった。

男性の上司たちの思いやりと女子工員たちの理解を通じて仲間の結束はさらに強くなり、彼らの努力も報われるが ―― 。

 

そういった物語です。

 

この映画はなんと本当に戦時中の1944年に作られた作品で、黒澤明監督の監督2作目ですね。

ここまで昔の日本映画を観たのは、私は初めてじゃないですかね。

 

ドキュメンタリー・タッチとのことですけど、ん~、ドキュメンタリー・タッチ ―― 私が思ってたドキュメンタリー・タッチとはなんか違うなあ~、と思いました。

ワンカット長回しじゃないし、お芝居も普通にお芝居な感じだったので…でも、それは私にはわからないんですけど、でも考えるとドキュメンタリー・タッチなんでしょう。

 

映画は軍需工場で働く女子挺身隊の少女たちの物語です。

 

戦争中の映画なわけですが、だから前提として敵国と戦争していて、日本は敵国を負かして勝たねばならないという目に見えぬ、しかし強いエネルギーの圧を感じることになります。

 

それが絶対の共通認識なので、疑いの余地がありません。

 

この映画の終いまで、少女たちは ―― 何歳くらいなのかわかりませんが高校生くらいでしょうか、彼女たちはその大義のため、できること以上の努力を自らに強いていくのですね。

 

最初っから「もっと頑張れます」みたいな感じなのですが、しかしやっぱり途中でしんどくなくるし、不測の事態により脱落しそうにもなるわけです。

 

でも ―― 言葉はきついのですが ―― そのコンセンサスに基づく同調圧力がホントに強いので、まずちょっと、しんどいです、私はもう無理、やってられっかよ、バイバイ、だなんて間違ってもくちばしれないし、そんなことを言える空気じゃないんですね。

 

そのあたり、女子たち一人一人の本音まではわかりません。

でも概ね、表情からは誰しもが過酷なノルマをこなすことに躊躇ないようだけど、半ばではっきりと不満を口にする人もいましたので、必ずしもブッ倒れても働き続けます、死んで本望、って決意の人ばかりではなかったかもしれません。

それが人間じゃないですか。

 

しかし、リーダーの渡辺ツル…この人が決定的に私情を捨てて、お国のための仕事を最優先させたので、もはや不満や愚痴を口にできる場ではなくなったでしょう。

 

この映画は少女たちの結束の美しさが際立つのですが…実のところ、私は少女たちの心意気に感動しつつ、同時に、ちょっと怖いとも思っていました。

 

現代で言えば、過労死や自死に追い込むまで社員に過度の労働を強制するブラック企業のそれですし、少女たちの表情が明るくなるほどその献身がカルト的な没頭に思えてしまったんですね。

 

そんなふうに観ないでもいいのかもしれないけど、そういった観方もできる映画だと思えました。

この映画をある集団に観せて、この映画の少女たちは立派だろう、こうなりなさい、みたいに言われたら…言われた人は正しいかどうかはともかく自分を抑えて集団のために全力を尽くすように強制されていくと思うんですね。

それって洗脳っぽいですね。

 

それはこの映画が戦争の映画だからでしょう。

映画の中では爆弾が降ってきたり、兵隊さんたちが出てくるわけではなく、いかに工場内で頑張るかなんだけど、でも頑張ってる理由が日本が戦争に勝つため、もっと深く言えば自分たちが作ったレンズを使った兵器で敵の兵隊さんを大勢殺すことが目的ですからね。

これはアメリカ側から描いたら日本に落とす原子爆弾を作る映画になったかもしれないわけですしね。

 

それだけ、戦争はその国の人の向かう方向を決定して、そのために全力で行動するようにほとんど無理強いに要求するものなのではないかな。

 

黒澤明監督がどの程度、そういったあり方を正当だと考えていたかはわかりませんけど、それでないとこの映画は作れなかったでしょう。

少女たちの結束と協調の美を映画にするのなら、また別の物語もありうると思いますが、それこそバレーボールのチームとかブラスバント部とかね。

 

でも、それだと1944年には映画にできなかったのかなあ。

 

だって戦争中は、何ごとも、どんな文化も戦意高揚のものでないとまかりならん、って話だったんでしょ。

 

たとえ未来における「世界のクロサワ」であってもまだ監督2作目。

怖い権力に逆らうことは難しかったのではないかな。

 

ずいぶんネガティブ、マイナスな感想になりつつありますけど、私がこの映画について書かせてもらうなら、どうしてもそういった感想は避けて通れないといいますか…書いているうちにどうしてもこうなってしまいました。

 

どうせ戦争に負けてゼロどころかマイナスになるのだから彼女たちの努力は無意味なものになってしまうのに ―― とまでは書きたくないけど、それが脳裏に浮かんだのも事実でした。

 

この映画は反戦映画ではないと思いますが、反戦映画の一面もあるし、戦争映画でもありますし、何よりも本当に戦争中に作られた映画だという事実ですよね。

 

画や音、映る風景や俳優さんたちのお芝居、そういった1944年を体験できたことが素晴らしかったと思います。

 

『ホタル』とはぜんぜん違ったのですが ―― また違う「戦争」がありました。

 

 

しかしもちろん、1944年の少女たちの純粋や心の機微、それから友情に素直に感動したんですよ。

また、利己を捨てグッとこらえて今の仕事に専念しつつも流す涙にも…。

 

また、少女たちよりも上の世代の大人たちの思いやりがあるからこそ、この映画には優しさはあるんですよね。

そこがブラック企業とは違うところ。

たとえ、当時の日本が戦争一直線でカルトな「ブラック国」だったとしてもね。

 

俳優さんですが、もちろん知らない方ばかりでしたが、志村喬さんビックリマーク

私も好きなんですよ、志村喬さん…。

でも、この映画の主役は少女たちだから、あんまり目立っておられなかったですけどね。

 

あと…古い映画なのでいろいろちょっと変に思えてしまって困ったのもありました(^_^;)

 

帰りたくないけど帰る子を迎えに来たお父さんに女子たちが「さよなら…さよなら…さよなら…さよなら…さよなら…」ってちょっと怖かったりしますやん。

 

あと、少女たちの冗談が他愛なさすぎてぜんぜん笑えないんですけど半回転してちょっと笑えたり、渡辺さんが歌う「元寇」の歌が怖かったり、タヌキをちょっと本気にしてたり、疲れてるのにさらにバレーボールとか鼓笛隊とか…それと、岡部さんと服部さんがケンカ始めてあせるってどこでケンカがはてなマークと思ってしまいました。

てっきり手が出てるのかと思ってしまったので。

まあ、険悪になって言い争ってるだけでしたね。

 

でも、そのあとで女子が寮のロビーはてなマークで話し合いになる場面も素晴らしかったですよね、ピリピリしてて。

でもなかなかちゃんとした話し合いでした。

仲直りのシーンも乙女~でした。

 

全体として観てる時には、子どもの頃、エドモンド・デ・アミーチスの『クオーレ』(1886年)を読んだ時の気分を思い出しました。

近い話でしょうね。

 

80年ほど前の映画ですが、人は意外とおんなじですね。

そう考えると日本はまた戦争するなんてことがないよう気をつけないとあきませんね。

それにはよその国の人と日本人、ようよう話し合って理解を深めていかなあきませんなあ。

 

『野良犬』(1949年)や『七人の侍』(1954年)、『隠し砦の三悪人』(1958年)くらい良かったです、気に入りました、とは言いませんが、でもこうして黒澤明監督の映画をまた観れたし、戦争中の映画を観たし、観ながらいろいろ考えたし、私にとってはとても有意義な時間でした。

黒澤監督の映画をもっと観たいですね~。

まだまだ観てませんから…。

 

次はどの映画がいいですか。

良ければ教えてください。

 

8月もおおきに…ありがとうさんどした…キスマーク

9月もよろしゅう、お願い致します☆⌒(*^-゜)v

 



一番美しく
英語題:The Most Beautiful
韓国語題:가장 아름답게
中国語題:最美


1944年製作/85分/日本
劇場公開日:1944年4月13日
配給:東宝

スタッフ
監督・脚本:黒澤明
企画:伊藤基彦
製作:宇佐美仁
撮影:小原譲治
美術:安部輝明
録音:菅原亮八
調音:下永尚
照明:大沼正喜
編集:矢口良江
鼓笛隊指導:井内久
スチール:秦大三
監督助手:宇佐美仁、堀川弘通

キャスト
石田五郎:志村喬
吉川荘一:清川荘司
真田健:菅井一郎
水島徳子:入江たか子
渡辺ツル:矢口陽子
谷村百合子:谷間小百合
山崎幸子:尾崎幸子
西岡房枝:西垣シヅ子
鈴村あさ子:鈴木あさ子
小山正子:登山晴子
広田とき子:増愛子
二見和子:人見和子
山口久江:山口シズ子
岡部スエ:河野糸子
服部敏子:羽島敏子
阪東峰子:萬代峰子
鼓笛隊の先生:河野秋武
寮の小使:横山運平
鈴村の父:真木順