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8月15日はこの作品を観ました…
ホタル
解説 激動の昭和を生き抜いた特攻隊の生き残りである男と、その妻の人生を描く人間ドラマ。監督は「鉄道員」の降旗康男。脚本は、「義務と演技」の竹山洋と降旗監督の共同。撮影を「鉄道員」の木村大作が担当している。主演は、「鉄道員」の高倉健と「ざわざわ下北沢」の田中裕子。東映創立50周年記念作品。(映画.com)
8月15日、終戦の日 ―― とにかく厳かな気分で2時間を過ごそうと思い、観た作品です。
映画の内容については、以前から少しだけ知っていました。
朝鮮人の特攻隊員のことは、およそ13年か14年前、どなたかの書き込みで知りました。
当時(今でも大概ですが)、韓国への批判、などと言うのもはばかられる、韓国への嫌悪、侮蔑に満ちた、品のない差別・誹謗中傷の記述が、インターネット上で否応なく目に付き、私はそれに強く憤りを感じていました。
そういった韓国への誹謗中傷の言葉によって、私は日本の国旗や国歌、そして「愛国心」という概念を訝り疑問に思う気持ちが自らの中に生じ始めていました。
そんな場面で何かの掲示板でしたが、韓国への見苦しい批判が幅を利かしていることを見るに見かねたのか、歴史にお詳しそうなどこかのどなたかが韓国を擁護なさるため、「自分は靖国神社に行くと目に涙がにじむ、当時日本の植民地だった朝鮮の人たちも日本兵として戦争に参加していた、朝鮮人特攻隊員もいて靖国神社に祀られている」…といったことを書き込まれていました(昔のことでしたので細かくは忘れましたが、大事なことは覚えてます)。
その時、私は生まれて初めて朝鮮人日本兵と、朝鮮人の特攻隊員について知ったのだと思います。
そしてその方の書き込みには気高いものを感じたのです。
『ホタル』に朝鮮人特攻兵の物語があることをなぜ私が知ったのかは忘れましたが、ある時、そういったことにまつわるこの映画への批判的な感想を見つけて、私は『ホタル』を是非、観なければならない、と思いました。
鹿児島県、知覧の漁村に、秀治と知子の山岡夫婦が仲良く慎ましく暮らしていました。
山岡秀治は実力のある漁師でしたが、知子が病いを患っているのでカンパチの養殖業で生計を立てていました。
二人は自分たちの船「とも丸」を大切にしている。
朝日新聞が特攻隊の生き残りである秀治を訪ねてインタビューを試みるが、秀治の口は重かった。
山岡はかつて特攻隊員から「知覧の母」と呼ばれていた富屋食堂の山本富子と今でも交流があるのですが、富子は秀治と知子の過去を知る人です。
青森に暮らす藤枝洋二が孫の真実を伴い、富子を訪ねますが、旧知の山岡秀治とは会いませんでした。
1989年1月7日、天皇陛下が崩御され、昭和が終わり、山岡秀治のもとにある知らせが届きます。
しばらくして藤枝洋二の孫の真実ちゃんが、おじいさんが秀治に書いた言葉を届けに来ます。
真美ちゃんは親御さんたちに断りなく知覧に来てしまったのですが、山岡夫婦は真美ちゃんのご両親に連絡して、真美ちゃんはしばらく夫婦と過ごすことになります。
彼女はおじいさんについて知らなかったことを知ることになります。
―― とあらすじを書いても伝わらないんですが、でも映画サイトさんのあらずじは、ちょっと後半まで書き過ぎてるように思いました。
この映画はそんな起承転結で観るとか、結末で一気に結論な映画ではないと思うんです。
1シーン、1シーンが大切で、全体で観る映画に思います(本当はどの映画もそうなんですが)。
時代的に1989年頃の物語で、第二次世界大戦後の44年後が舞台なんだけど、その時代が戦後としてどういった時代だったのかを考えながら観ていました。
そうすると山岡夫婦や藤枝洋二、山本富子の年齢が把握できます。
もしも2022年の今日、ご存命であるならかなりのご高齢です。
とにかく ―― 自分でも予想していなかったことが起こっていました。
『ホタル』という映画は私にとって特別な映画だったようです。
始まってからずっと、目頭が熱くなる ―― 詳しく知らずに観始めたのに、私は最初から胸がいっぱいになっていく気がしました。
そしてそれは映画が終わるまで続きました。
映画は最初、思いのほか戦争についての映画には思えず、山岡夫婦にごく平凡な日本の夫婦像を感じます。
ご夫婦の会話、住んでいる家…などなど、いかにも日本の夫婦ですね。
ご夫婦には子どもがいないんですが、それも夫婦で話し合って決めたようです。
高倉健さんと田中裕子さんの一挙手一投足が心に染みる感じ…ああ、映画だなあと思います。
この映画は山岡夫婦の映画でもあり、この夫婦は深い愛情で結ばれていて、お互いを思いやっていますが、夫婦は人生の厳しさにも直面しています。
そして二人が出会い結婚した過去にも二人の人生の複雑があるんですね。
そのことでは二人は平凡ではありません。
夫婦にはいつも、思う浮かぶ人がいたでしょう。
若き日の山岡秀治は戦争中、特攻隊員でした。
藤枝洋二と一緒に出撃して死ぬ運命にあったのですが、生き残った人だったんですね。
ですので、心に様々な思いを残して生きてきたんですが、それは人には語るべきことではない ―― と考えているように思える。
ですが、富屋食堂の山本富子との会話に秀治の過去が見えます。
藤枝洋二の孫の真実は、山岡夫婦たちと過ごす間に自分の知らなかったおじいさんについて知ることになる。
映画は、むしろ穏やかで、この日本の平凡な日常ですが、時折、私も心に痛みを覚えます。
若い特攻隊員たちが亡くなったこと、それを映画で見ると心が痛みます。
特攻隊の方々だけを考えるのではなく、同じように戦争で亡くなった方々の全員を均しく悼むべきであるというのが、私の論理かもしれません。
軍人の方々を追悼するのなら、民間人の方々も同じはずでしょう。
亡くなった軍人さんばかり讃えて何も知らずに戦争で死んでいった赤子や子どもたちを忘れてどうするの。
しかし、映画で特攻隊の若者たちを見ていると、その論理とは別に、かっこいいとすら思います。
戦争で自分の命を捨てる潔さに気高さを感じるんでしょうね。
軍人さんたちの美徳といったものを讃える気持ちが私にもあるんですよ。
ですので、私は太平洋戦争に限らず、戦闘で誰かを守るために自らの命を捨てて敵を攻撃した人たちに感動して涙を流すんです。
これは外国の映画にもあるので、日本人だけの感覚ではないと思います。
でも、その感情を実際の戦争の歴史に当てはめるべきかどうか…危ないかなと思います。
現実に特攻隊で亡くなった方々が生きていたかったのに戦争に命を捧げざるえない心境を強いた時代のあり方と同じではないかと…映画を観終えたあとは自分の気持ちを冷静に省みて判断する必要がある。
いずれにせよ戦争そのものがあってはならないことですし、その中で特攻という死に方をせざるをえないことも間違いでしょう。
大義名分で「国のために死ぬことの正義」を強いるのは恐ろしいことですよ。
今後、日本に限らず世界のどこかで戦争がある時も自分の命と引き換えに敵を攻撃するといった行いを讃えることも、正しいことではないでしょう。
『ホタル』という映画には、特攻を正しいことではなかった、間違いだったと断罪し責めるような主張はあまり感じられません。
しかし、富屋食堂の山本富子さんが引退される時のお式で慟哭された時には、私も体が硬直しました。
ああ、そうなのだ、たとえ戦後であっても今さら言えないことなのかもしれないけど、その本音もあるのだろう ―― と。
それを考えると、心が非常に重くなりました。
特攻を讃えるきれいごとだけではすまない。
戦争が戦後も人に苦しみを強いたのだ。
目の前でそれを聞いた真美が感極まったように涙を流しますが、私も同じ気持ちになりました。
ところで私は『ホタル』を観ていて佐々部清監督の『チルソクの夏』(2004年)を思い出したのですが、『ホタル』で佐々部監督は助監督を務められていたそうです。
考えると大勢の映画人の方々がすでに旅立たれています…。
後半について書きますね。
ご注意ください。
山本富子さんから山岡秀治は金山文隆少尉の遺品を当時の朝鮮、今の韓国に暮らす遺族に届けてほしいと頼まれます。
金山少尉のことは富子さんにとって強い心残りなのでしょう。
金山少尉は朝鮮人の軍人で山岡秀治や藤枝洋二、そして知子とも深い関わりのある人物でした。
最後の夜、誰も訪ねてこなかった孤独な金山少尉を見送ったのが秀治や藤枝洋二、富子さんだったんです。
金山少尉は故国の歌、「アリラン」を歌って聴かせました。
秀治と知子は韓国へ向かいます。
ロケ地になったのは慶尚北道(キョンサンプット)・安東(アンドン)市・河回村(ハフェマウル)だそうですが、昔の韓国って感じで、厳かなムードがある撮影でした。
山岡夫婦と金山少尉(本名キム・ソンジェ)の遺族が会う時、緊張感が走ります。
必ずしも山岡夫婦は歓迎されていないようですが、その理由が金山少尉の甥たちからも語られます。
彼が大日本帝国のために命を捧げたとは信じたくないのでした。
あまり口の上手くない秀治ですが、彼は金山少尉の最後の言葉を口にし、「アリラン」を歌うことで金山少尉の本心を伝えようとします。
私は思いました ―― これが観たかったと。
言葉としてはこの映画が、「私に日本人としての誇りを取り戻させてくれている」 ―― 直感でそう感じました。
国と国の関係もありますし、それで意見がたがって反目し合うこともありましょうが、人と人はもっと人同士であってほしい、そう思います。
朝鮮人特攻隊員として亡くなった方のご遺族の今の気持ちもあるでしょう。
こうと割り切れるほど日韓関係、単純なものではない。
しかし秀治は共に過ごした金山少尉のことをせめてご遺族に伝えたかったのだと思います。
その気持ちは日韓関係を超え尊いですし、真実の関係だとも言えます。
そして知子は、金山少尉と婚約していた仲でした。
知子には違う未来もあったのでしょうけれど、今は秀治と夫婦であり、金山少尉を死なせ、共に生きられなかった悔いがいつもあったはずです。
「悔い」といった言葉だけで語れるような思いではないと思いますが…。
金山少尉は自分の家族に知子のことを伝えていました。
金山少尉の叔母はそうして知子と秀治のことをきちんと理解してくれたのだと思います。
『ホタル』というタイトルに思いを馳せる時、私はこれからもずっと心に感動を抱くでしょう。
『ホタル』の意味が語られる時、ハッとしました。
なんと切ない物語でしょうか。
8月15日は韓国にとっては「光復節」で、共和国では「解放記念日」です。
大韓帝国が日本に併合された後、日本の植民地でありつつ「朝鮮」と呼称され、戦争が終わって解放されることで大韓民国が建国されたけど、朝鮮民主主義人民共和国との間で分断国家となってしまった。
―― ですので、その経緯から日本人は「朝鮮」の呼称には配慮が必要ですが、第二次世界大戦~太平洋戦争の時代、朝鮮の人たちが日本の軍に参加した歴史を韓国や共和国の人たちはどう見ているのだろうか。
日本側が無理やり徴兵して死地に赴かせたのならこれほど恐ろしい話もないが、しかし大日本帝国の市民であるとの思いで志願して戦闘に参加することを鼓舞する空気もあったのだろうか。
金山少尉がどうして日本の軍人になったのかはわかりませんが、映画を観る限り、冷静な人物であり、使命感もあったのか、戦争に対して志があって軍人であったのか ―― しかし、ずっと穏やかな人でしたが、心では特攻隊で死ぬることに苦しみがあったのではないでしょうか。
ただ、誠実そうな人物ゆえ、朝鮮人であるからこそ、その誇りのため日本の軍で日本人以上に気高く軍人でありたいと思ったとすれば、その心境も理解できます。
日本軍として戦った朝鮮人の人たちは大勢おられ、戦闘で亡くなった方の他にも戦犯として裁かれて亡くなられた方々、また服役後に辛い人生を送られた方々もおられるでそうです。
そういったことも日本人が知っておくべきことですね。
キャストについては、助演の方々も豪華でしたが、やはり健さんと田中裕子さんですね。
もうお二人がご夫婦を演じてるだけで泣けます。
健さん…凄い俳優やなあ~。
もう『ホタル』の健さんの大ファンですわ、私も…。
『ホタル』が韓国で公開された当時、2002年1月には新羅ホテルの迎賓館で降旗康男監督、高倉健さん、企画の坂上順さん、東映映画社代表の高岩淡さん、そして知子の少女時代を演じた笛木裕子さんが招かれ、記者会見が行われたとか…。
その中で健さんが(日本での公開の前なのに)『友へ チング』(2001年)を観られた仰ってるのが嬉しかったです。
降旗康男監督は「私は韓国映画の中で、『八月のクリスマス』のような作品が好きです」と仰ったそうで、そちらも嬉しいですよね。
山岡夫婦が韓国へ行った時に会う金山少尉のご遺族の方々を演じられた韓国の俳優さんたちは、私は馴染みのない方々ですが、リアルで良かったですね。
会う時にドキドキきたんですけど、そんなふうな気持ちになることが映画として良かったです。
ロケ地もホントに良かったです。
それから水橋貴己さんが演じられた少女・藤枝真実ちゃんの汚れのないピュアな存在感…素晴らしいんですね。
健さんと水橋貴己さんのシーンもホント好きです。
私が観てきた中では、高倉健さんの映画では『ホタル』が一番好きになったと思います。
大ヒットした『鉄道員』(1999年)よりもずっと感動したことは確か。
部分、部分でどこが良かったとかではなく、ゆっくりと全体で観る映画だと思います。
私には全シーンが素晴らしかった。
こんなに最初から最後まで感動が続く映画もない ―― ガチでそう思いました。
私はどうしても海外の映画をたくさん観てるので、日本映画を疎かに考えてると思われるかもしれませんが、それは違います。
日本映画も凄いと思っています。
『ホタル』を観ていて自分でも強くそう再確認しました。
歴史については私もまだまだ知りませんし、多くを学ばねばなりませんが、特攻隊の方々、亡くなった方々、生き残られた方々の思いを映画を通して垣間見ることができました。
『ホタル』は夫婦の映画ですが、金山少尉のような朝鮮人の特攻隊員を取り上げた映画が観れて本当に良かったです。
素直に心打たれる感動的な映画で、そしてやはり、厳かな気分になり静かな心持ちを得られました。
まさしく終戦の日にこの作品を観て、昭和、平成を改めて考え、日本の歴史を振り返る得がたい機会になったと思います。
まだ観ておられない方々は是非、観てください。
今日も読んでくださり、ありがとうございます。
ホタル
英語題:The Firefly
韓国語題:호타루
中国語題:萤火虫
2001年製作/114分/日本
劇場公開日 2001年5月26日
配給:東映
監督・脚本:降旗康男
脚本:竹山洋
脚本協力:加藤阿礼
企画:坂上順、早河洋、竹岡哲朗
製作:高岩淡、朴京植、尹鎭鎬
プロデューサー:石川通生、浅附明子、野村敏哉
製作プロデューサー:小島吉弘
撮影:木村大作
撮影補佐:高田勉
別班撮影:佐々木原保志
撮影効果:南好哲、藤原洋見
美術:福澤勝広
装飾:若松孝市
美術装飾:金漢相
音楽:国吉良一
音楽プロデューサー:北神行雄、津島玄一
録音:本田孜
音響効果:佐々木英世、西村洋一
照明:渡辺三雄、李承求
編集:西東清明
衣裳:江橋綾子、申宗信
スタイリスト:高橋匡子、宮本まさ江
製作担当:菊池淳夫
製作管理:生田篤
助監督:佐々部清
スクリプター:石山久美子
スチール:大木茂
VFXテクニカルディレクター:木村大作
VFXテクニカルスーパーバイザー:根岸誠
録音補佐:南徳昭
高倉健 - 山岡秀治
田中裕子 - 山岡知子
水橋貴己 - 藤枝真実
奈良岡朋子 - 山本富子
井川比佐志 - 藤枝洋二
小澤征悦 - 金山文隆(キム・ソンジェ)
小林稔侍 - 緒形成文
夏八木勲 - 竹本
原田龍二 - 鉄男
石橋蓮司 - 山崎
中井貴一 - 中嶋
高杉瑞穂 - 戦時中の山岡秀治
今井淑未 - 戦時中の藤枝洋二
笛木優子 - 戦時中の知子
小林綾子 - 大塚久子
田中哲司 - 鈴木
伊藤洋三郎 - 藤枝真一
崔哲浩 - 李尚列
高雪峰 - 村の長老
田淑 - キム・ソンジェの叔母
パク・ウン - キム・ユンジュン
朴世範 - キム・ヨンギル
小林成男 - 司会者
鷹城佳世 - 若い看護婦
本田大輔 - 春吉
中村栄子 - 漁協の事務員
村瀬純平 - 利夫
大沼百合子 - 藤枝正子
永倉大輔 - ガイド
有安多佳子 - 漁協の主婦
好井ひとみ - 中年の女性
佐藤文雄 - 登山客
鶴田東 - 登山客
石村昌子 - 看護婦
竹本和正 - 中村
大場泉 - 役場の助役
町田政則 - 北川
西村譲 - 記者
姿晴香 - 山岡の母
音堅亜紀子 - ユミ