ボクは、シャンプーから帰ったところだ。
動物病院では、皮膚病予防の薬浴シャンプーをするので、いつもなら動物保険を使って半額になるのだが、飼い主は今日は全額支払った。
「先月は何度も通院したし、入院もした。
またいつ治療が必要になるかわからないから、シャンプーくらいなら保険を使わないでおこう。」
通院なら年間20回まで保険証が使え、来年7月の期限までにあと16回。
しかしこの先、シャンプーだけで10回ある見込み
だ……先月は体調不良でできなかったが……飼い主は調整したんだ。
病院に行くと、いつも若くて可愛らしいおねえさんが、ボクを迎えてくれる。
口調は優しく笑顔はやわらかく声は鈴が鳴るように心地よい。
口調は辛辣顔は能面声は錆びた錫の、冷たい調教師のような飼い主とは、エライ違いだ。
「いつも通り、爪切り、首輪を替えて、フロントライン付けますね?」
と、【伊太郎ちゃんコース】がわかっている。
シャンプーのときは、ボクはすごくいい子にしているので、飼い主はそれに便乗して、洗い替えの首輪やリードを持参して交換してもらう。
そして、
「家ではできないんですよ。」
と、背中にフロントラインの液剤を付けるのに、まるでボクが暴れて困らせてるみたいに虚偽の報告をして、病院でやってもらうように甘えるんだ。
「病院で薬を付けるのが、最も無駄なく正確で理想的。」
病院側は、デキマセーン・スタイルの初老の飼い主には親切で、そういうことは喜んでやってくれる。
今日も、約2時間で仕上がり。
迎えに来た飼い主に、スタッフさんが言った。
「今日は、顔も洗えたので、さっぱりしたと思いますよ~。」
性格の悪い飼い主は、一瞬
「え?毎回洗えてないのか?」
と思ったが、口には出さなかった。
ま、いいじゃないですか。
ボクは、自分で言うのもナンだが、よく褒められるんだ。
「まあ、キレイな顔の柴犬❗」ってね。
洗えているかどうかは、関係ないよ。
洗えているかどうかは、関係ないんだ。