昨日、飼い主はちょっとした立ち会いのため、夫の代わりに解体中の旧居に行った。
解体というと、大型重機で一気に壊し、一般的な住宅なら一日あればバラして撤去、というイメージだ。
しかしボクんちは、二階をとって平屋にする。
どこからでも重機でバリバリやれるものではない。
二階は手作業で解体していくから、かなり時間がかかる。
まだ外観に大きな変化はないが、中に入ればごらんの通り。
テレビ番組のビフォーアフターで見るような風景だ。
床下。
こんなふうに石が置かれていた。
「昔なからだなあ。
しかし、こういう石、どこから探して持ってきたのか。」
これで大丈夫なのか?と思うが、免震機能があるそうだ。
事実これまで大丈夫だった。
四角いコンクリートの穴囲いは、堀炬燵のあと。
このままフローリングや畳の下に残す。
邪魔にはならないし、撤去には手間がかかる。
天井や梁があらわに。
まさに古民家。
二階への階段。
不要になるので、今度この部分がトイレになる。
左上、穴の隙間から二階の一部を見る。
二階は、付け足したものだったから、建材は古くない。
夫と息子は、家が変わり果てていくことに、ことさら心を痛めているようだ。
飼い主は、最初から淡々としている。
「二人とも、この家で生まれ育ったからだろうなあ。
私は、違う。
思い入れの差は、生まれたときから○○という名字だったかどうか…。
嫁という身分で過ごしてきた身には、申し訳ないが、家の過去より未来に目を向けるよ。
それに。
私は、工事が無事に終わってくれることの方が、よほど重要。
ノスタルジーに浸っている場合ではない。
南海トラフ巨大地震の注意情報なんて聞いたら、本当に祈るしかない。
無事に過ぎれば、もう地震や台風にあまり怯えなくていい。
…んだが。
その前に、また仕事が増えた。」
そうだ。
今、仮住まいしている家の、防災を考えなくてはならない。
ようやく落ち着いてきたのに、旧居の離れに運び込んだままの防災用品を、こちらに移したり、まとめ直したりする方がいいだろう。
「実家の敷地は広い。
近くの公民館に避難することは考えない。
何かあっても、庭トイレも問題ないし、薪や炭を使っても迷惑にはならない。
店舗だった建物がある。
古くても鉄骨だし、残ればどこかで雨風をしのぐことはできるだろう。
現実的なことは、何とか対処できるかな。
でも。
心情的に。
この住居が潰れたりしたら。
傾いて、折れた柱を見たりしたら。
それは、ちょっと心が痛む。
無惨な躯体には、心も折れるだろうな。
これまで持ちこたえた家の躯体と、あちこち傷み始めた自分の身体は同じに思えるからね。
今のこの家で生まれ育ったわけじゃないけど、私にはまだ、実家というものがあるということ。
まあ、逆に夫や息子は、私のようには感じないんだろうな。」
家の躯体。
人間の体。
どちらも、生きているものなんだ。