飼い主は、ふだんこんな感じだ。
いつも面白くなさそうな顔をしている。
それが、ここ数日は、なにやら穏やかな微笑みをたたえているように見えた。
心当たりは、ない。
‥‥どころか、ボクの動物病院通いと看病で、もっと疲れた表情になるなら、納得できる。
よく見ると、慣れない微笑みのせいか、不自然だ。
無理をしている。
作り笑いすら、下手だ。
左の口角を意識して上げていて、少し唇を開いて口の中に空間を作っているようだ。
しゃべるにも食べるにも、気を遣っている。
原因が、わかった。
血豆だ。
数日前、飼い主は友人らとランチに行った。
フレンチのお店で、飼い主は、パンかライスか問われて、パンを頼んだ。
噛むのも大変な、硬いフランスパンだった。🥖
そのパンで、飼い主は口の中を傷つけた。
血豆ができたのは、すぐに感じ取れた。
頬の内側で、ぷっくり膨らんで、プニプニしている。
食事中に破れないように気を付けるだけで精一杯。
まさか、友人らの前で口から血を滴らせるわけにはいかない。
血豆は、1週間くらいで自然治癒する。
むやみに破ると細菌感染などをおこすことがある。
飼い主は、帰宅すると殺菌のためにうがいをし、口腔用の軟膏を、綿棒で塗った。
それでしばらく、さらに傷つけないように大事にしていたんだ。
しかし血豆は、予想通り早くつぶれた。
飼い主は、うつ伏せや横向き寝が多く、夜中に頬を圧迫して歯に当たったらしく。
トイレに起きたとき、なんとなく舌で確かめたら、すでになかった。
色々な意味で後味は悪いが、正直飼い主はホッとした。
どんなことでも、体に気を付けていなければならない部分があるのは鬱陶しい。
口の中の傷は、他の部位に比べて治りが早い。
で。
飼い主も、すぐさま元通り。