これらは、飼い主の誕生日に先がけて、友人が送ってくれたものだ。

毎年、いただいている。

今年は、元旦に配達された‥‥あの、複数回の緊急地震速報の合間に❗



いつもボクのおやつまで入っている。

嬉しいなあ。


 

飼い主は、柴犬柄の封筒に入ったお便りを読み直す。
「この年になって、友人がいること。
ありがたいものだ。」


実は友人といっても、飼い主より35歳くらい年下で、娘よりも若い。
飼い主の最後の職場である高校に勤めていて、辞めてから4年になるのに、いまだに色々連絡してくれる、義理堅い人だ。


他にも、「今年で定年です」とか、「変わらぬメンバーでやってます」など、近況を知らせてくれる年賀状を何枚もいただく。
「こちらは、とっくに学校の世界から足を洗い‥‥いや、忘れているのに、わざわざ思い出させるのは罪だ。」
と、素直に喜ぶすべを知らない飼い主だ。
 



さてこのお正月、飼い主は能登地方の大地震を見て、猛然と防災対策を進めていた。
婆様が使っていた離れの建物を、勝手に防災シェルターと定め。
母屋に分散していた備蓄品は、ほぼ離れに運び込まれた。


「ほぼ?
いや、まだまだだ。
婆様のタンスの空いたところに、みんなの下着とかジャージなど入れておこう。
あまり履かない靴は、非常時用にちょうどいい。」


飼い主、まるで引っ越しのようですね。


「そうよ。
生活の一部引っ越し。
あ、そうだ。
伊太郎のハウスもだ。
移動用にキャリーの付いた、予備の。」


それはまあ、嬉しいですよ。
ボクだけ、外の小屋かなと思ってましたし。
ボクの居場所は2ヵ所あるから、どちらかは残るだろうと。


しかし飼い主、そんなに準備しては、ただの二重生活になりますよ。


飼い主の避難所設営は、熱をおびるばかり。


大変だったのは、掃除。
「侮っていた。
ただ荷物を運ぶだけではなかった。」
婆様は、掃除は好きではなかったから、あちこちホコリだらけ。
棚の上などは、ホコリどころか、積もりに積もって黒い綿のようにたまっている❗


「うわーッ❕
ひえーッ❕
ゲホゲホ❕
白いマスクが、グレーになるわ❕」


それでも飼い主は、
「避難所のお世話になるよりは。
それに比べたら天国だから。」
と思い、頑張って掃除を続けている。
暖かいお正月だったから、バケツの水で素手で雑巾をゆすいでもさほど辛くはなく、それだけはよかった。




少しずつ作業は進み。
下の写真の様子を見ると、防災シェルターどころか、独り暮らしの下宿を整えているようだ。
これは、2間以外の、フローリングの部分。
手前に廊下が続き、飼い主ら3人が仮住まいするには十分な広さだ。


缶詰めや調味料などの食品は、今までのパントリーから、一部離れに移動した。
ちょっと不便だが、まあ、10m余計に歩けば良い。
常に防災を意識できる。
離れをまるごと使うことで、備える物や空間にかなり余裕ができ、気分的に楽々。
万一を考えて、あとはガラス障子に飛散防止シートか養生テープを貼るつもりらしい。


そろそろ終わるかな?


「いや、いくらでもある。
なげしとか押し入れの中とか電灯のかさに至るまで、拭き掃除したいところばかり。」


熱心なのはいいですがねえ。
膝、痛いんでしょう。


「被災後のストレスを、いかに減らすかが、この支度にかかっている。」


というわけで、掃除に明け暮れたまま迎えた、今日の飼い主の誕生日。
立派な避難所ができた(できる)ことが、最も現実的で無駄にならないプレゼントとなったのでは?


「まあね。
何かほしい物を買っても、家が潰れたらみんなパーになるんだよね。
毎年、誕生日だからと、これといって特別なことはしない。
今日もいつも通り。」


とは言ったものの、さすがに足腰を痛め。
どうしたら自分が、誕生日くらい横になっていられるか、いや、【いるか?】と考え。


鍼治療を予約して、強制的に掃除を中断して休むことにした。ぼけー




しかし終わればじきに動き始める。




飼い主は実家の見回りに行き、仏壇の父母に誕生日の報告をする。


「母は、私の誕生日のたびに言っていた。
『○子が生まれた朝は、すごい寒くてな。
朝の5時半だった。
○子は、オギャーよりも先にくしゃみしてた』って。
まだ田舎では自宅出産だった時代だから、大変だっただろうなあ。
何しろ私は、【目方を計ったら一貫目】❗
という健康優良児だったらしいよ。
母は、私を産んだあと、高熱を出したと言ってた。
それも、もう66年前のこと。」




散歩は、飼い主の実家の近所を。

  

父母の眠る共同墓地の方へ足を伸ばし、お墓の見回りもする。


「人間に等しく与えられる日は、誕生する日と、そして死去の日。」




墓地の隣は、林や畑だったが、去年風景が一変した。
墓地の横の道は舗装され、車が通れる幅になった。
そして空き地になったと思った場所は、一面ソーラーパネルになった。


「変わり行くふるさと、なーんて。」




なーんて、のあとに、飼い主がまだ何かつぶやいたのを、ボクは聞いた。


来週、正月休みが終わって世の中が静かになったら、やっぱりショッピングに行こ~、ランチも入れよ~、とかなんとか。ぼけー


まあ、そうですね。
生きていればこそ、ですよ。
あ、ひとつ訂正があります。
「世の中が静かになったら」じゃなくて、「飼い主が気が済むまで掃除したら」が、正しいです。




新春に
生まれた日ある
プラスα
陽光さえも
重みとなって



揺れ潰れ
焼け崩れても
日は上り
人々の影
蜉蝣(かげろう)の命